『木を見る西洋人 森を見る東洋人』

 今日はリチャード・E・ニスベット(村本由紀子訳)『木を見る西洋人 森を見る東洋人』(2004年、ダイヤモンド社)を読みました。

 本書は西洋人と東洋人との認識様式の違いが主題です。議論の対象となっているのは認識の仕方ですが、これを軸に思考、判断、教育、言語へと検討範囲を広げて論じており、言うなれば西洋と東洋を比較しながら、それぞれの考え方の特徴を抽出しているのが本書です。

 本書によれば、西洋人の認識様式は分析的であり、文脈から切り離して対象を取り上げようとします。一方で、東洋人は包括的であり、対象を多くの要素の関係のなかで把握しようとします。例えば、魚が水中を泳いでいる絵を見せた時、泳いでいる魚に着目するのが西洋人で、魚が泳いでいる水中の様子に目を向けるのが東洋人です。

 これらの認識の違いはそれぞれの社会生活でも見られます。殺人事件が起きると、西洋のマスコミは犯人の心理や性格に焦点を当てて報道する一方、東洋では犯人を取り巻く人間関係が重視されて報じられます。また、討論で意見が食い違った場合、東洋人は相反する意見であっても双方を受け入れ、どちらもありえると考えるのに対し、西洋人はいずれかの意見だけが正しいと考え、妥協や超越によって調停しようとします。

 東洋人と西洋人の考え方の違いを理解することは重要です。昨今、両者は日常的に交流するようになっていますが、ややもすれば西洋的な考え方のほうが優位に立っています。政治経済では西洋の様式が基準とされ、科学の世界でも西洋における分析的手法が主流となっています。あたかも西洋方式が唯一無二であるかのようですが、東洋的な認識様式もあることを忘れてはいけないと思います。

 東洋のほうが素晴らしいのだ!と言いたいのではありません。そうしたあれかこれかの議論は、本書にあるように、西洋人的です。東洋も西洋もどちらも1つの認識様式であり、それぞれの角度から世界を把握しようとしているのです。対象へ接近する考え方の二大巨頭として両者を理解するべきでしょう。

 世界を理解するためには、西洋人の分析も東洋人の包括もいずれも必要なのです。西洋人の分析的思考だけでは背景との関係が捨象されてしまいますが、東洋人のように包括的に見るだけでは因果分析がおろそかになってしまうでしょう。いずれかのみに依存した認識様式では、世界の限られた部分しか見えてきません。

 本書でもいずれかに偏った考え方には批判的です。とりわけ世界はアメリカになるはずだと考えがちな西洋人に、彼らの見方以外にも他の見方もあり得るとする東洋人的考え方の重要性を示そうとしています。そしてまさにその他の見方として東洋人の考え方に、西洋人の目を向けさせることが本書の含意だと言えるでしょう。

 私がこのように考えるのも、私が東洋人だからでしょうか。そうかもしれません。が、私は日常的に西洋的思考だけに傾く人々に囲まれており、彼らの言動に非常に限界を感じています。こうした日々の感覚から、本書で言う東洋的考え方を私は重視しており、実際にそうした言動を心がけています。この点からすれば、日本の多くの人々も積極的に本書を読むことが求められると思います。

 本書が有するこのような決定的な意義を認めつつ、やはりいくつかの消極点があることも指摘しなければなりません。本書の著者は心理学者ですので、ここでは心理学に基づいた実験がわんさと援用されています。私のような門外漢にとっては、主張内容と関連性が薄い実験が引用されているように見えますので(実際にそうと言える場合もあるでしょうが)、やや読みにくい印象がありました。

 また、前半の数章は本論の理論部分であり、東洋思想の元祖として孔子が、西洋思想の本家としてアリストテレスが取り上げられています。それぞれが見事に洋の東西の思想の基盤となっていることが描かれているのですが、さすがに単純すぎる図式だと思います。少なくとも、私の認識様式が孔子の影響下にあると言われて、すんなり納得できるものではありません。

 さらに、題名の日本語訳には気をつけなければなりません。原題はThe Geography of Thoughtです。直訳すると「思考の地理学」です。副題はHow Asians and Westerners Think Defferently...and Whyであり、「東洋人と西洋人の思考の違いとその理由」です。邦題にある「木を見る」とか「森を見る」とかは訳者の意訳ですが、こちらに引きずられないように読むことをお勧めします。

 日本語での木と森の対比は、慣用句に「木を見て森を見ない」とあるように、森を見る人を持ち上げて木を見る人をけなすためのものです。ここでは西洋人の考え方が「木を見る」、同様に東洋人が「森を見る」にあたると思いますが、本書では西洋人を東洋人よりも下に置いているわけではありません。この点からすると、本書の内容と邦題の意味とがややズレている気がします。原題や副題の直訳のほうが内容を的確に表現していると思います。

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benyamin ♂

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