『地球環境のホントの実態』

 今日はビョルン・ロンボルグ(山形浩生訳)『地球環境のホントの実態』(文芸春秋、2003年)を読みました。

 本書は環境問題を冷静に検討している本です。環境問題は通常、明日にも人類が滅亡しそうな危機感を煽りつつ、決まりきった結論に向かって議論されることが多くなっています。ですが、本書はそういった思考停止状態にある言論とは一線を画し、各種の統計資料を活用しながら、地球環境の実態を私たちの前に提示しています。

 本書の叙述は、地球環境は実のところ良くなってきている、といった論点から始まります。巷では明日が人類の命日であるかのごとく議論されていますが、本書によれば、公式の統計を見る限り、多くの問題は著しく改善されています。森林面積は拡大してますし、世界中で健康状態や衛生状態は良くなっています。

 環境問題のほとんどが改善されている現状はグリーンピースも認めていることです。が、多くの環境議論では人々の関心を向けさせるために敢えて地球環境の悪い部分だけが強調されているのが現状です。時には、明らかな誤解やひどい捏造に満ちた議論もあり、環境問題は人々の信頼を失いつつあります。

 現在、世界的に議論されている問題でも同様です。例えば、地球温暖化問題ですが、温暖化による影響は間違いなく悪い数字だけが世の中に喧伝されていることが示されています。国連のIPCCは将来の気温上昇予測を5.8度〜1.4度と発表していますが、マスコミを始め一般では1.4度のほうは無視され、5.8度のほうだけが取り上げられます。

 本来であれば、この気温上昇の予測については、なぜ4度近くも幅があるのかが検討されなければなりません。ほとんどの議論では見落とされているこの論点を、本書は真正面から検討しています。といっても、数年毎に発行されるIPCCの報告書を丁寧に読んでいるだけなのですが、そこから、予想される気温が次第に下げられて1.4度とされている一方で、非現実的なシナリオに基づいて5.8度という数値がはじき出されていることを示しています。

 本書の意義は、いかに地獄のような未来を描くかに終始している環境議論に対して、彼らと同じ一次資料を使いつつ、落ち着いて実情を見据えようとしているところにあります。対象も地球温暖化だけではありません。列挙すれば、寿命と健康状態、食糧と飢餓、貧困問題、森林破壊、資源問題、水の枯渇、大気や水質の汚染、酸性雨、化学物質、生態系、と非常に幅広く、環境問題と言った時に念頭に置かれるほぼすべての論点を扱っています。

 環境問題を議論する際には本書は定本として読まれるべきです。それは本書の内容を信じるべきだからではなく、本書が多くの一時資料を土台にして議論しているからです。環境問題を語る場合、ややもすると主義主張の根拠が蔑ろにされ、とにかく人を驚かせたほうが勝ちとなる傾向があります。そうした従来の議論の限界を本書は克服しています。

 本書の参考文献は1,800点以上に及んでいます。多すぎて本に納めることができず、ネット上で公開されています(文藝春秋website)。文末注は3,000点近くあり、本書の100ページが注で占められています。これほどまでに大量の資料、しかも資料1つ1つが一次資料であり、これらの資料に基づいて展開されている環境問題の著作は他に類を見ません。本書は環境議論の1つの到達点であり、今後の環境議論の出発点になることは疑いようもありません。

 巻末の著者紹介を見ると、もともとロンボルグは環境保護論者であったそうです。おそらく従来は一般の議論を鵜呑みにしていたのでしょう。が、環境問題に関する資料を自分なりに集めたところ、実は環境はそれほど悪くないことがわかり、その資料と見解をまとめたのが本書であるようです。自分で調べてみる必要性と重要性を改めて再認識しました。

 なお、原題はThe Skeptical Environmentalistです。直訳すれば「懐疑的環境論者」となりますが、この題名にあるように、筆者は環境保護論者を止めてしまったわけではありません。環境を保護することには賛成するが、間違った認識や大げさな誇張に基づいてするべきではない、というのが筆者の立場です。誤解なきよう注意ください。

自己紹介

benyamin ♂

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