『フリーメイソン 西欧神秘主義の変容』

 今日は吉村正和『フリーメイソン 西欧神秘主義の変容』(講談社現代新書、1989年)を読みました。

 日本では何だか怪しい組織として一般に認識されているフリーメイソンを題材にした本です。本書にあるように、フリーメイソンとは西欧上流社会の秘密結社に端を発する慈善団体です。現在では道徳に満ちた社会を目指して、主に医療福祉分野で慈善活動をしています。国際的に暗躍する政治団体ではありません。

 本書が執筆された当時、フリーメイソンの会員数は世界で600万人にも上っていたそうです。全体として会員には政治家などの権力者が多くなっています。この点から、日本ではフリーメイソンと権力との密接な関係が陰謀論として語られますが、実際は社会奉仕活動を推進する組織であり、また、個人交流を目的とした親睦会です。

 本書ではフリーメイソンの歴史がまとめられています。18世紀初頭にイギリスで普及し始めたフリーメイソンは、宗教や信条を超えた普遍的思想を活動基盤としていました。当時、イギリスを始め西欧社会では、個人の人間としての完成を目指した思想から、同時に社会全体として道徳を高めていく思想へと転換しつつありました。その担い手の1つとなったのがフリーメイソンだとの観点から本書は叙述されています。

 秘密結社を起源としているため、現在でも神秘主義が貫かれています。例えば、自分が会員であることを公言しても良いのですが、他の会員がフリーメイソンであることを公表することが禁じられています。また、対外活動以外の具体的な活動内容は非公開となっています。こうした側面が人々をしてフリーメイソンを怪しげな組織と認識されているのでしょう。

 現在のフリーメイソンは、日本で言えばライオンズクラブやロータリークラブに該当する組織です。これらの組織は地方の名士が所属することが多く、日本では会員であることが1つの名誉となっています。同様に、アメリカを始め西欧社会ではフリーメイソンであることは誉れとされていると言われています。会員に政治家が多いのも、社会活動の一環として会員になっているためでしょう。

 日本では情報量の少なさから謎の組織としてみられることが多いフリーメイソンですから、歴史的背景まで言及した本書は貴重な情報源になると思います。ただ、本書では18世紀から19世紀までの世界思想史にフリーメイソンを位置づけることに主眼が置かれているため、20世紀に入ってからの動向はあまりよくわかりません。これが本書の消極点です。

 近代において普遍的思想を理念としていたフリーメイソンと、現在、慈善団体として社会に定着しているフリーメイソンとの間には距離があるように思います。現実の歴史としては前者から後者へと展開しているのでしょうが、本書ではその過程は描かれていません。そのため、読後に手応えのなさを感じる人もいるかもしれません。私もその一人です。

 過度な期待を抱かずに本書を読むと良いでしょう。

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benyamin ♂

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