覚書 080206

「みずほ欧州経済情報」みずほ総合研究所、2008年2月号。
●英国経済
・10〜12月期の実質GDP成長率は減速した。住宅市場が一段と悪化しつつあり、金融機関の融資姿勢厳格化も景気下押し圧力として懸念されるところ。2月MPCでは25bpの利下げが実施され、その後も利下げが続くと予想する。
・英景気の牽引役である個人消費に息切れ感が現れ始めた。12月の小売数量は前月比マイナス0.4%低下し、10〜12月期で前期比プラス0.4%にとどまった。マインドの悪化が消費者の財布の紐を締めているとみられる。
・12月の英インフレ率は前年比プラス2.1%と前月から横ばいとなった。しかし、先行きは再び上昇する公算である。電力・ガス会社が油価高騰を受けて15%の値上げを発表したからである。キングBOE総裁は「今年は(インフレ率が3%を超過した場合に送付する)財務相への書簡を何通か作成しなければならない」水準にインフレ率が上昇するとの見方を示した。
・1月の金融政策委員会(MPC)では8対1で据え置きが決定された。ハト派のブランチフラワー委員のみが25bpの利下げを主張した。
・CDSスプレッドが上昇しているのはバルト3国やブルガリアなど、内需の過熱感、インフレ亢進、名目GDP比10〜20%の経常赤字といった不均衡が目立つ国である。一方、チェコ、スロバキア、ポーランドなど、日系の自動車・電機メーカーを始めとした先進国の製造業が多く進出し、対外競争力を高めている国ではCDSスプレッドの上昇幅は限定的である。(覚書注:EU内では労働者の移動よりも企業の移動が活発であるのではないか。関税などによる貿易障壁が低く輸出入が容易であるため、工場を移転して現地で安い労働力を活用して生産することが可能である。EU市場で労働者が自由に移動するというのは理念・理論上のことであって、実際には企業が移動していると見るべきかもしれない。)

細尾忠生「英国経済の長期拡大の要因について」『政策・経営研究』2008年、vol.1。
・IMFは英国経済の長期拡大が続いている要因を金融システムだとしている。
・貯蓄率が高い経済は、不必要な貯蓄を積み上げてしまうことによって、個人消費の活性化に失敗している国であるという理解が、金融システムと経済パフォーマンスの比較から可能となるのである。(覚書注:同じ枠組みで日本のバブル期を分析すれば、貯蓄率の高さが経済パフォーマンスの源泉となるとの結果が導かれるであろう。逆に、アングロ・サクソン型のほうがパフォーマンスが悪いと結論づけられることになる。貯蓄率という指標にはかなり限界があるのではないか。流動性の高い資産が多くあるなかで、貯蓄だけを取り上げることの意味が薄れつつある。)
・近年では、個人消費の伸び率が高い経済ほど、GDP成長率が高くなる傾向があることから、金融システムの発達を背景に、保有する資産を有効活用することによる個人消費の活性化は、マクロ経済パフォーマンスを決定する重要な要因の1つになっている。(覚書注:英米だけに当てはまることではないだろうか。例えば、政策協調により金利格差を意図的に作り出し、日本から資金を流入させているアメリカと同じような構造を他の国でも形成できるとは思わない。日本の高い貯蓄率、貯蓄余剰が米国の金融システムを支えている。)
・借り入れ手段へのアクセスが向上することによって、所得が一時的に減少する局面でも、負債の利用=貯蓄率の低下によって、消費活動の安定化を達成することが可能になる。
・非アングロサクソン型の金融システムでは、衰退する産業・企業・地域から、成長する産業・企業・地域への資源の再配分による効率化が阻害されるのに対し、アングロサクソン型では、資源の再配分が効率的に行なわれることになる。
・世界最大の年金基金である日本の年金は、諸外国と比べて著しく低い利回りで運用されている。たとえば現状の水準と比べて1%利回りを引き上げることができれば、そのことだけで1兆円の年金給付資金が確保できる。保険料の引き上げが引き下げかといった議論に閉塞しがちであるが、英国や米国のようなアングロサクソン型経済の基準に従えば、運用利回りの引き上げは問題の解決に資することにもなろう。
・こうしたIMFの指摘は、たしかに現状の経済パフォーマンスの相違に対する本質的な問題を提起しているようにみられる。もっともこうした負債の借り入れを容易にする金融環境とは、世界的な投資機会の減少による期待収益率の低下と、貯蓄過剰によってリスクプレミアムや借入コストが低下した状況を前提に成立しうるものである。このため、インフレリスクなどが増大することによって、金利やリスクプレミアムが上昇すれば、アングロサクソン型の国々が享受している安価な資本という利点は消滅し、逆に、負債残高の大きさがマクロ経済パフォーマンスに悪影響を与えることは容易に想像される。近年の経済パフォーマンスの優劣と、経済システムの普遍的な優位性とは区別して認識する必要があると言えよう。
・英国の人口動態をみると、1970年代から80年代の初頭に、人口増加が一時停滞した時期があったものの、1980年代の半ば以降は増加傾向で推移している。注目すべきは人口の増加率であり、21世紀に入り増加テンポが加速している。
・ロンドンを象徴する金融については、寄与率でみるとさほど高いわけではない。専門サービス業の拡大は金融業の発展が土台になっていると考えられるものの、英国サービス業の現状について金融と不動産が牽引役になっていることが指摘されることが多いことから、こうした英国サービス業の発展パターンは意外な結果を示している。(覚書注:専門サービス業とは何か。金融業や不動産業と同様の業種も含まれているのではないだろうか。一般に指摘されている、金融が英国経済を牽引している、という場合の金融には、ここで言う金融業以外も含まれているのではなかろうか。)
・英国の長期拡大の要因について、理論的なアプローチで主流となっているのが、インフレーション・ターゲッティングの効果についての分析である。インフレーション・ターゲッティングに関する研究は、近年の英米のマクロ経済学界における中心的なテーマであり、理論実験として研究興味をひいているという事情がある。また、そこからえられる研究成果は、米連邦準備制度理事会(FRB)やイングランド銀行(BOE)の金融政策運営に、理念的にはもちろん、技術的にも多くの成果が反映されている。このため、インフレ期待の安定を最重要視する政策運営が行なわれている。
・覚書注:やや全体の輪郭がぼやけている論考である。論ずべき論点がはっきりしておらず、それでいていろいろな角度からいろいろなことを論じている。IMF報告書の批判から論を始め、その根拠としてインフレ政策や供給サイドの分析に移る論立てが良いように思われる。
・IMF [2006] World Economic Outlook, Chapter 4, How Do Financial Systemus Affect Economic Cycles?

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benyamin ♂

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