覚書 081103

須藤時仁「英米における金融市場と実体経済の関連性(その1)」『証券レビュー』第48巻第10号、2008年10月号。
・1980年代以前は資源価格の変動とともに経済成長率、物価上昇率の変動も大きかったが、後半以降は前者の変動は大きいままであるにもかかわらず、後者の変動は極めて安定的である。1980年代以前の状況は、いわゆる「金融不安定性」の理論・仮説で説明がつこう。しかし、後半以降の状況はどのように説明されるのだろうか。しかも、この期間も、幾度となく金融危機を経験している(1980年代末の資産バブルの崩壊:英、S&L危機:米、東アジア・ロシア・ブラジル危機、ITバブル崩壊;英米、サブプライム問題:英米)。にもかかわらず、経済成長は相対的に安定しているのである。
・1980年代後半以降の状況を説明する1つの仮説として、経済における金融部門のプレゼンスが高まったことと、それを支えかつ経済の安定化を促す政策的背景としての流動性の供給が考えられる。具体的には、1. 実体経済に対する金融資産の膨張、2. 金融資産に占める金融機関の保有比率の上昇、3. 上記の現象を支え、かつ経済の安定化を促す政策的背景としての流動性の供給である。前2者は金融資産価格変動にかかわる要因であり、最後の要因は経済成長の安定にかかわる要因である。
・金融資産残高の対名目GDP比とその内訳について英米の状況を分析した結果、両国に共通の特徴は以下のように整理できる。1. 1980年代後半から2000年代前半にかけて金融資産残高の対名目GDP比は共に2倍近くに高まっている。その意味で、金融資産の価格変動が実体経済に及ぼす影響は高まっていると推測される。ただし、水準的にはイギリスのほうがアメリカよりもかなり高く、金融資産の価格変動が実体経済に及ぼす影響が大きいであろう。2. 投資信託の構成比が一貫して高まっている。これは個人投資家の資産運用の高まりと市場参入を表していよう。3. 株式以外の証券の構成比が高まっている。この背景には、証券化商品などの新しい金融商品の市場創出と拡大(成熟)もあろう。4. 絶対的な水準で見ると株式の構成比率が高い(特にアメリカ)。これは株価変動の実体経済への影響度が高いことを表していよう。

岡久慶「英国の新入国管理制度 移民の階層化と点数評価の導入」国立国会図書館調査及び立法考査局『外国の立法』237、2008年9月。
・2008年2月29日、イギリス政府は、欧州連合(EU)と欧州経済領域(EEA)以外の国からの就労と就学を「適正な技能を持つ、又はイギリスに貢献できる者」に限定する点数評価制度(points-based system)の導入を開始した。この制度のもとで、移民は5つの階層(tier)に分類され、それぞれの階層で点数評価において一定以上の点を獲得した場合に限って、イギリスにおける就労、就学が認められることとなる。
・新制度導入には、移民による経済効果の向上と移民制度に対する市民の信頼回復という趣旨がある。この2つには相関性があり、直截に言えば、政府の主張する経済効果が、市民に移民を受け入れさせるためのオブラートとして機能している面がある。それは、協議書「選択的入国:移民をイギリスのために役立てる」の質問事項7「移民制度の主目的は、イギリスの経済的利益であるべきか?」に対して、回答意見の67%が同意していることからも伺うことができる。
・しかし、2008年4月1日、上院の経済事情特別委員会が発表した報告書「移民の経済的影響」は、その経済効果に疑問を呈し、物議を醸すこととなった。
・報告書は、国内総生産をもって移民の経済効果を主張する政府の方法を批判し、労働力増加に経済全体が適応する長期間を視野に、国民一人あたりについての純益を計るべきだとしている。その上で、報告書は、移民の長期的な効果は経済の拡大が主であり、国民への経済的なコストも利益も低いとしている。報告書は年間19万人の移民が入国していることを踏まえ、移民の数の具体的な目標数の幅を定めた上で、政策をそれに適合させるべきとする。
・この移民数の制限は、野党第1党である保守党の主張するところでもあり、同党は年間の数値目標を設定することを主張している(現在は具体的な数値は打ち出していない)。なお、政府及び財界は、委員会及び保守党に対して、数的制限の設定が経済の活力を損なうと反論しており、点数評価制度が1年早く施行されていれば、移民受け入れ数が2万人削減できたと主張している。
・Home Office, Selective Admission : Making Migration Work for Britain, July 2005.
・House of Lord, Select Committee on Economic Affairs, First Report of Session 2007-08 : The Economic Impact of Immigration, April 1 2008.

石川義憲「日本の地方自治体とICT」自治体国際化協会『分野別自治制度及びその運用に関する説明資料』No.6、2008年10月。
・日本の地方自治体においても、他の団体に先駆けてICTの推進に積極的に取り組んできた地方自治体がある。いち早くから電子自治体を標榜した岐阜県、市町村と連携して情報基盤の整備に努める北海道、IT人材の育成を図りIT調達を積極的に見直している長崎県などである。
・市町村では、行政改革の一環としてICTに取り組んできた市川市、市民とともに電子自治体に取り組んできた三鷹市、横須賀市、藤沢市、職員自ら様々なシステム開発を行ってきた西宮市などが挙げられる。
・これらの地方自治体が電子自治体に積極的に取り組んできた背景には、地元に立地し、これらの地方自治体を支援・協力する情報通信関係企業、大学の存在がある。首長が熱心かどうかも大きい。また、首長の下で長年にわたり情報処理関係業務に熱心に取り組んでいる職員がいる。
・日本の中央省庁は、各地方自治体の先進的な取り組みを様々なモデル事業の実施になどにより促進してきている。
・地方自治情報管理概要(2007年9月)(以下、「2007情報管理概要」と略称)によれば、電子自治体推進計画を策定している地方自治体は、都道府県では45団体(95.7%)、市区町村では678団体(37.1%)である。
・都道府県の場合は、国の計画と類似して、幅広い分野でのIT化の推進を含んだ計画となっている。例えば、宮城県の宮城県IT推進計画(2006?2008年度)では、県民生活に関する情報化の促進、ITによる地域経済の活性化と富の創出など重点6分野を設定し、宮城県総合防災システムの運用、地域医療医師登録紹介事業、インターネット等による戦略的観光情報の発信、電子入札・電子調達の推進など80のITプロジェクトを掲げている。
・市区町村の場合は、行政情報システムの整備と電子申請システムの活用、電子入札・電子調達の推進のほか、住民との情報共有、住民参加・住民協働の推進を図るといった、住民により身近な計画となっている。例えば、立川市の第2次電子自治体推進計画(2005?2009年度)では、ビジョンとして、ITを活用した行政内部プロセスの改革、ITを活用した行政サービスの提供と情報提供・公開の推進、ITを活用した豊かさや幸福感を感じられる電子自治体の実現の3つの柱を掲げ、BPRの推進、インターネット窓口システムの整備、GISを活用した行政事務の高度化(地図情報の多目的活用)、ホームページの拡充整備、市民生活におけるICカードの活用などのプロジェクトを記載している。
・電子申請・届出システムの事例には以下の3つがある。税の申請・納付。図書館蔵書検索・貸出予約。公共事業に係る電子入札の実施スケジュール。
・「平成17年度市町村の業務システムの導入及び運用に要する経費等の調査」によれば、次のとおりである。税業務システム、国民健康保険業務システム、福祉業務システム、財務会計システム、人事給与システムは、ほとんどの地方自治体において導入されているが、小規模自治体においては、それ以外のシステムの導入率は低い。業務システムについて、基幹業務系、内部管理業務系、住民サービス業務系に分類すると、それぞれ7割、4割、2割の導入率となっている。業務システム経費は、人口規模の小さい地方自治体ほど住民一人あたりの費用が割高となる。同じ規模の同じような機能を持つシステムでも、その費用に大きな格差がある。
・業務ごとに個別のシステムが導入されているため、ベンダーの違い、調達時期の違いで採用する技術が異なり、他の業務システムとの連携が困難になっている。仮に連携した場合でも、複数のシステムに影響を与える改修作業が発生した場合にかかるコストは大きなものとなっている。単一のベンダーですべてのシステムを開発する場合には、このような問題は生じにくいが、ベンダー固有の仕様に依存することとなり、競争環境が構築できず、かえってコストが高くつく結果にもなりかねない。
・そのような中で、各地方自治体においては、共同アウトソーシングの取り組みと並行して、共同基盤を構築する試みを推進している。北海道や福岡県、宮城県などの取り組みがある。また、総務省としても、これらの動きを踏まえた上で、共通の基盤作りを推進している。
・地方自治体はICTを活用して様々な行政課題の解決に取り組んでいる。2007情報管理概要によれば、最も多い取り組みがICTを活用した安全・安心な地域づくり(都道府県91.5%、地区町村28.8%)であり、次いで、ICTを活用した子育て支援(都道府県80.9%、市区町村11.8%)となっている。このほか、都道府県では、地域経済の活性化や地域文化の振興、高齢者支援などの取り組みが多く、コミュニティ活性化への取り組みも見られる。具体的には、地域安全安心情報の共有や、地域SNS、地域文化の振興のための取り組み、である。

アリソン・ウェザーフィールド「性と人種を理由とするハラスメント イギリスのアプローチ」『日本労働研究雑誌』No.574、2008年5月。
・英国のアプローチは、当初、アメリカ合衆国の法理論に強い影響を受けていた。アメリカの連邦システムは、ハラスメントを、雇用条件における直接差別の一形態として認識している。このアメリカのアプローチは、「平等な取り扱い/平等」モデルに依拠するものといえよう。アメリカの連邦法には、成文法化されたハラスメントの定義は存在しない。
・しかしながら、英国のアプローチは、欧州連合(European Union)の法的発展に対して影響を与え、また同時に、影響を受けてきた。英国は明確な法制定上の定義を付与する方向に動いており、その動きは、EC指令に対応してのものである。現在の英国の法制定上の定義は、平等取り扱いと平等に係る配慮と、より広汎な、職場における尊厳を求める権利に係る配慮とを融和させたものである。英国の法制は、また、性的な性質の行為が含まれる、セクシャル・ハラスメントの特定の側面のため、特別な、かつ独立した条項を有している。

大杉覚「日本の地方議会」自治体国際化協会『分野別自治制度及びその運用に関する説明資料』No.5、2008年3月。
・二元代表制とは、住民の直接選挙によって選ばれる住民の代表機関が地方議会と長の二通りあることを指す。先進民主諸国では二元代表制を採る地方自治の政治形態の例は比較的少なく、アメリカ合衆国の市の約半数が採っている市会市長制やイギリスの市長直接公選制など、少数派に属する制度といえるだろう。
・また、長が直接公選されることから、しばしばアメリカ合衆国の大統領制になぞらえて、大統領型と呼ばれることがある。しかし、わが国の地方自治の仕組みでは、議会が長の不信任決議案を有し、それへの対抗手段として長が議会の解散権を持つというように、長と議会が明確なかたちで相互牽制し合う制度が採用されているのが特色であり、この点はアメリカ合衆国の大統領と連邦議会との関係とはまったく異なる。また、自治体の長や各種行政委員会の長などは、説明のために議長から出席を求められたときには、議場に出席しなければならないとされ、実質的に見ても、本会議は長に対して、委員会等では行政幹部職員に対して、議員からの質疑とそれへの対応が主要な内容となって運営されており、この点も議員間の討議が中心とされるアメリカ合衆国の大統領制における議会運営とは異なる点といえる。
・さらなる地方分権改革が推進されるなか、自己決定・自己責任の原則が強調され、地方政府であり完全自治体としての役割を果たしていくことが自治体には期待されるようになってきた。そこで、ますます自治立法権が重視され、その権限の担い手としての地方議会のあり方も問われるようになってきた。また、厳しい財政状況にあって、地方議会による行政のチェック機能も期待されている。政策の企画立案や評価にわたり、地方議会がガバナンス機能を十分に果たせるような改革が現在喫緊の課題となっている。
・個別の自治体の動向を見ると、「自治体の憲法」とも呼ばれる自治基本条例が制定される際に、議会の役割・責務が規定されるようになってきたが、最近ではより積極的に議会の位置付けを確認する試みがなされつつある。例えば、北海道の栗山町は全国に先駆けて議会基本条例を制定し、住民との意見交換のための議会主催による一般会議の設置、議員の質問に対する町長・町職員への反問権の付与など、議会運営を刷新し、議会の活性化を図ろうとする。また、三重県で制定された議会基本条例では、その前文で「本県会議は、住民自治及び団体自治の原則にのっとり、真の地方自治の実現に向け、国や政党等との立場の違いを踏まえて自律し、知事その他の執行機関とは緊張ある関係を保ち、独立・対等の立場において、政策決定並びに知事等の事務の執行について監視及び評価を行うとともに、政策立案及び政策提言を行うものである」と宣言した。
・また、全国の地方議会の代表団体である議会三団体(全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村議会議長会)も、それぞれ研究会組織等を設置して、議会改革の提言をしている。

横道清孝「日本における道州制の導入論議」自治体国際化協会『アップ・ツー・デートな自治関係の動きに関する資料』No.3、2008年3月。
・日本においては、1888年の近代的地方自治制度の導入以来、広域自治体として都道府県が存在しており、また、その数は47と不変である。これは、その間、基礎自治体である市町村が、今回の平成の大合併も含めて3回にわたる大合併を経て、その数を大きく減らし、その規模を拡大してきたのとは対照的である。
・道州制論とは、この120年という長期にわたって安定的であった都道府県体制を改めるということであり、現在の都道府県の区域を超えたより広域の単位で、より広域の行政主体を設けるというものである。それは、単に地方自治制度だけの見直しに止どまらず、国と地方を通じる日本の国家体制のあり方そのものにも大きな影響を及ぼす可能性がある議論である。
・地方分権の進展や市町村合併の進展を受けて、最近、道州制の導入論議が盛んになってきた。2000年以降、政党、経済団体、シンクタンク等様々な団体が道州制に関する提言をまとめ、公表している。また、当事者である都道府県やその連合組織である全国知事会においても、道州制に関する検討が開始されている。
・そのような動きの中で、特に重要なのは、内閣総理大臣の諮問に応じて、地方制度に関する重要事項を調査審議し答申を行ってきた地方制度調査会の動きである。2003年には、第27次地方制度調査会が「今後の地方自治制度のあり方に関する答申」(2003年11月13日)を出し、道州制についての基本的骨格を示した。そして、2006年には、それを受けた第28次地方制度調査会が「道州制のあり方に関する答申」(2006年2月28日)をまとめ、導入するとした場合の道州制について、さらに具体的な制度設計案を示したのである。
・同答申は、まず、現行の都道府県制度について、約120年の長きにわたってその構成と区域を維持してきたが、市町村合併の進展や都道府県の区域を越える広域行政課題の増大等社会経済情勢の変化に対応していくことが可能か、また、一層の地方分権改革の担い手としてふさわしいかという問題提起をしている。
・次に、それに対しては、都道府県制度を維持した上で、広域連合や都道府県合併という方法により対処することも考えられるが、さらに進んで、広域自治体改革を、都道府県制度に関する問題への対応にとどまらず、国のかたちの見直しにかかわるものとして位置付けることも考えられるとする。すなわち、広域自治体改革を通じて国と地方の双方の政府のあり方を再構築し、国の役割を本来果たすべきものに重点化して、内政に関しては広く地方自治体が担うことを基本とする新しい政府像を確立するという考え方である。
・そして、そうした見地に立つならば、広域自治体改革のあり方の具体策としては、道州制の導入が適当と考えられると結論付けた。

自己紹介

benyamin ♂

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