覚書 081115

「最低賃金制度をめぐる欧米諸国の最近の動向」『Business Labor Trend』2008年10月。
・イギリスでは、旧制度による特定業種・職種の最低賃金が1993年に廃止された後、政府による賃金規制のない期間があったが、労働党政権下の1999年に全国一律の法廷最低賃金が導入された。その歴史はまだ10年あまりと短いものの、労働党はこの最低賃金制度を最も成功した政策の一つとして自ら評価している。最低賃金額の設定が最も懸念された雇用面などへの影響を配慮して行われているほか、実際上の決定機関である低賃金委員会が調査研究を通じて現状把握につとめるなど調整機能を十分果たしていることから、これまでのところ最低賃金制度を大きく見直すような動きは出ていない模様である。
・最低賃金制度の導入は、低賃金層の賃金水準の改善を通じて、所得の再分配効果をもたらしたとの見方が一般的だ。また、賃金水準に関してその恩恵をもっとも被ったのは、低賃金層の半分近くを占める女性パートタイム労働者であるといわれ、この層の賃金水準の改善を通じて、男女間の賃金格差の縮小につながった。
・制度導入に際して保守党や企業などが主張した雇用に対するマイナスの影響や、若年層に労働需要がシフトすることにより、基本賃率を適用される22歳以上の労働者が職を失うといった懸念は、これまでのところ現実化していない。この間の雇用水準は、長期的な景気の好調に支えられて拡大しており、雇用状況はむしろ若年層において若干の悪化がみられる。低賃金委員会は、労働力調査のデータから、この数年の雇用増の大半は最賃の影響をより受けやすいとみられる小規模企業において生じている、と説明している。また、企業の収益や生産性に対する悪影響は観察されていないと報告している。
・最賃制度に対する近年の労使の関心は、最低賃金の水準に関するものが中心となっている。低賃金委員会が改定額の検討に際して毎年実施している関係者からの意見徴収に対して、使用者側から毎回寄せられる見解は、最賃引き上げによって生じるコストが企業の経営に大きな負担となっており、これを捻出することが年々難しくなっている、というものだ。このため経営側からは、雇用などへの影響をみるためにも、改定の間隔を例えば隔年などにするなどの主張がみられる。
・対する労働組合側は、企業の利益率は記録的に上昇しており、最賃の引き上げは企業にとって十分対応可能な水準にあるとしている。むしろ、低劣な賃金水準を理由とする高い離職率が、新たな従業員の訓練によるコストを増加させているとして、「生活賃金」の考え方に基づく最賃額の一層の引き上げを主張している。さらに、インターンシップや職業経験プログラムを通じて就業している若年層に対して、最賃未満の賃金の支払いや無給で就労させるなどの違反事例が多発しているとの指摘や、年齢区分に応じた減額措置は、若年層に対する年齢差別の容認だとの批判もある。

桂畑誠治「英国 BOEは政策金利を過去最低水準まで大幅引き下げ」第一生命研究所『Global Watching』2008年11月7日。
・11月5、6日に開催されたBOEのMPC(金融政策委員会)では政策金利をマイナス150bp引き下げ3.00%とすることを決定した。市場予想はマイナス50bpの利下げだった。政策金利は過去50年超で最も低い水準となった。また、BOEは1997年に独立して以来、50bpを超える利下げを行ったことがなかった。今回の大幅利下げの背景として、過去2ヶ月で内外の経済活動が急激に悪化したうえに、商品市況が急落したことから、英国経済の見通しが著しく悪化、インフレ見通しが大幅に下方シフトしたことが挙げられる。
・声明文では、最近数週間でインフレに対するリスクは確実に下向きへとシフトしたため、委員会はインフレ見通しを下方修正、さらに現在の市場金利ではインフレが目標を下回る大きなリスクがあるとした。委員会はCPI上昇率が中期的に2%という目標を達成するために金利の大幅な引き下げが必要と判断し、金利を1.5%ポイント引き下げ3.0%とすることを決定した。
・足元の英国景気情勢では、7?9月期実質GDP成長率(速報値)が金融危機を受け銀行、建設、製造業などが悪化し前期比マイナス0.5%(前期同0.0%、前年同期比プラス0.3%)と92年4?6月期以来、約16年ぶりのマイナス成長となった。ただし、前期もほぼ横ばいだったことや月次の統計の悪化から既に91年以来のリセッションに陥っていると判断される。
・インフレに関しては、9月のCPI上昇率はエネルギー・食品高の影響を反映し前年比プラス5.2%と目標値を大幅に上回っている。しかし、「夏半ば意向、商品価格は急激に下落し、原油価格は半値以下に下がった。したがってインフレ率は早晩、急低下すると見られる」と足元で高止まりしている消費者物価指数上昇率は懸念材料ではないとの見方を示した。
・英国政府は財政による景気対策に前向きになっている。ブラウン首相が「政府借り入れ急増は景気刺激のために正当化される」と話すなど、財政による景気対策に積極的になっている。また、ダーリング財務相は「英国は住宅やエネルギー、中小企業関連の支出を優先するとともに、学校や病院の建設プロジェクトを推進する」との考えを示した。マンデルソン民間企業担当相は「可能な限りあらゆる手段を講じて、この時期を切り抜けるつもりである。実体経済や公共サービス、インフラへの政府支出や投資を維持する行動を取った場合のコストと比べて、ほとんど何もしないコストの方が高くなるだろう」と財政による景気対策の必要性を指摘した。
・一方、野党保守党の影の財務相であるジョージ・オズボーン議員は「銀行を救済したのは正しいが、今や実体経済を救済し雇用喪失を防ぐ必要がある」と、政府の姿勢を支持する考え方を表明しており、大型の景気対策が策定される可能性が高い。
・まもなく発表される「プレ・バジェット」で大型の景気対策を含む正式な歳出計画が発表される。もっとも、2009年度予算は2009年4月スタートになるため、景気対策の効果がでるまでにタイムラグが生じる。このため、2009年のマイナス成長は回避できない公算が大きい。

緒方俊則「日本の環境行政と自治体の役割」自治体国際化協会『分野別自治制度及びその運用に関する説明資料』No.7、2008年3月。
・2007年度の環境保全経費は総額2兆949億円である。環境保全経費の総額は、2001年度の3兆484億円をピークとして現象傾向にある。この経費は国の機関が直接執行するものばかりではなく、自治体の事業費として交付され、自治体が最終的に執行する額も含まれている。
・事項別にみると、「水環境、土壌環境、地盤環境の保全」が最も予算額が多く(全体の39.1%:約8195億円)、次いで「地球環境の保全」(同23.4%:約4912億円)、「自然環境の保全と自然とのふれあいの推進」(同13.6%:約2851億円)の順となっている。
・省庁別では、国土交通省(全体の53.8%:約1兆1267億円)、農林水産省(同18.2%:約3819億円)、環境省(同10.6%:約2215億円)の順となっている。
・環境関係の自治体の決算額について、毎年度、環境省が「地方公共団体公害対策決算状況」としてとりまとめ公表を行っている。この資料によると、2005年度に自治体が支出した公害対策経費は3兆2198億円である。そのうち公害防止事業費が89.0%と最も高い構成比となっており、その内訳として下水整備費の占める割合が大きい。
・都道府県と市町村の比較では、市町村の支出額が都道府県の3倍以上となっている。これは、下水道や廃棄物処理施設の整備等の公害防止事業について、主として市町村において実施されているためである。
・多くの自治体において、今日、環境行政を推進する枠組みとして、環境基本条例(地域の環境政策の基本を定める条例)の制定が進められてきている。国の環境基本法の制定(1992年)が契機となって広がってきたものであるが、2006年4月1日現在831自治体が制定している。環境省が2006年度に実施したアンケート調査によると、ほとんどの都道府県、政令市において制定されており、その他の市町村でも、43.2%の割合で制定されている。条例の内容は自治体によって特色が見られるが、環境行政に関する基本理念、自治体・事業者・住民の責務、環境に関する基本計画の策定、環境行政の推進手法・推進体制、環境白書の作成公表などは概ね共通して見られる事項である。条例に基づく計画(環境基本計画)には、経過の目標、計画期間に重点的に取り組む施策、各分野ごとの推進プログラム、計画の進行管理手法などが盛り込まれており、具体的な数値目標のもと進行管理が行われている。
・2004年度に全国の自治体の窓口で受け付けた公害苦情件数は94,321件となった。近年、増加傾向にあったが、2004年度は5年ぶりに減少した。主たるものは典型7公害(大気汚染、水質汚濁、騒音、悪臭、振動、地盤沈下、土壌汚染)に対する苦情であり、2004年度では65,535件、公害苦情全体の約7割を占める。典型7公害のうちでは、最も苦情が多いのが大気汚染の24,741件(37.8%)であり、騒音15,689件(23.9%)、悪臭13,984件(21.3%)、水質汚濁8,909件(13.6%)などとなっている。

神代和欣「誰が最低賃金で働いているのか? 開発途上国からの輸入増加が低賃金業種に及ぼす影響」『Business Labor Trend』2008年10月。
・わが国では、いったいどのような人々が最低賃金で働いているのであろうか。一般的には、パート、アルバイト、フリーターなどの非正規労働者が多いものと思われている。実際、実証的な研究の中にも、女子パートタイム労働者の過半数は最低賃金プラス100円以内の範囲で働いている地域が多いという研究もある。欧米では職種別の賃金相場がかなりはっきりしていて、とくに掃除人や雑役労働者(レーバラー)、ファーストフードの店員などは、最低賃金そのもので働いていることが多い。しかし、日本では、これらのあまり技能や熟練を要さない職種でも、働いている企業や事業所の規模、系列によって最低賃金よりはかなり高い賃金を支払っている場合が多いように見受けられる。
・いったい、わが国では、どのような労働者が最低賃金あるいはその近傍で働いているのであろうか。この点に関する、これまでで最も詳細な分析は、労働政策研究・研修機構『日本における最低賃金の経済分析』(労働政策研究報告書No.44、2005)であろう(ただし、残念ながらこのデータには5人未満零細企業は含まれていない)。この研究は2003年の厚生労働省『賃金センサス』の個表を分析して、全国平均では一般労働者の0.7%、パートの3.3%が地域別最低賃金未満で働いており、また地域最賃プラス10%未満の者はそれぞれ1.7%、17.1%であったと述べている。地域別には、北海道、青森、沖縄、宮崎、大分、長崎などでその割合が高く、とくにパートの場合には、地域最賃未満の者が沖縄では9.2%、大分では6.5%、北海道では6.3%にも達する。性別、年齢階級別には、20歳未満の若年層の3%前後、高齢女性では5.3%が地域最賃以下である。これらの低賃金層のうち、母子世帯の母親や低年金・無年金者など生活保護と重なる人々がどのくらいいるのかは分からない。
・さらに、産業中分類で見ると、繊維、衣服等、家具・装備品、紙パ・紙加工品、金属製品、武器製造業などで、女子だけでなく男子パートの地域最賃未満労働者の割合が高い。他にも、鉱業、鉄道・道路旅客輸送、保険業、洗濯・理容・浴場、自動車整備、宗教など、非製造分野にもかなり低賃金労働者がいるが、気になるのは、前者のグループに中国や開発途上国からの輸入品との競争に晒されている業種が多いことである。
・覚書注:最低賃金以下で働く労働者は全体のごく一部であり、その大半は地方にいる労働者である。途上国などで製造できるものを日本でも製造しようとして、途上国並みの賃金を削減せざるをえないのが現状であろう。産業構造の転換、高度化がうまくいっていない結果である。そうした地域の産業が最低賃金の引き上げに対応できるだろうか。産業構造の温存が困難である以上、最低賃金を改善することよりも、労働移動を促進する方策を重視するべきではないだろうか。

橘木俊詔「最低賃金のアップには発想の転換が必要」『Business Labor Trend』2008年10月。
・日本の最低賃金が低いことは国民の多くの人が知る時代となった。最低賃金で働いて、すなわち時間あたり700円前後のフルタイムで働いたとしても、月額12?13万円の月収にすぎず、これだけの所得であれば食べていけない、ということも皆の知るところとなった。国が働くことのできない人に、最低限の生活を保障する生活保護制度の支給額より、最低賃金で働く人の月収額が低いことも皆の知るところとなった。
・なぜこのように低い最低賃金が日本で認められてきたのであろうか。2つの重要な理由がある。第1は、最低賃金あたりで働く人は主として既婚女性のパートタイマーか若者なので、夫や親がいるから生活にこまらない、とみなされてきた。低い賃金でも生活に困らないので、文句もないだろうと思われてきた。しょせんは小遣い稼ぎのパートタイマーなので、高い賃金は不必要と発言する経営者のいることからも、これがわかる。
・第2は、最低賃金を上げると雇用が減少しかねないし、企業倒産に至りかねないので、それを避けるために経営側への配慮が強かったのである。実は雇用や倒産への効果に関して日本ではまだ実証研究が少なく、よくわかっていないと言ったほうが正しい。
・第1の点は、日本が離婚率と未婚率の上昇を経験していることにより、一人の勤労所得だけで食べていかなければならない人が増加しており、その人々の生活苦はワーキングプアとして多くの存在する時代となった。最低賃金を上げることは、人々の生活を保証するために必要となっている。
・第2の経営側への配慮を考えてみよう。最低賃金を時間あたり2000円以上出しているデンマークの企業の人から、「そもそも労働者が生きていくだけの賃金を出せない企業は、社会において存在意義のない企業とみなしてよい。あるいは非効率性の目立つ企業なので、市場から退場すべきだ」という目から鱗の落ちる話を聞いた。イギリスやフランスの最低賃金も1200円から1300円の額であり、英仏でもこのような理解があるのかもしれない。
・覚書注:最低賃金以下しか賃金を出せない企業に存在意義はあるのか、という視点は面白い。この文脈からすると、最低賃金の上昇により企業倒産が増加することは、経済的な損失ではなく、健全な経済循環であることになる。ただし、企業倒産した分を補充する企業参入が確保されなければ、結果としては失業が増えるだけになる。いずれにしても、最低賃金の議論は、労働者の生活確保のためというよりは、非効率的な企業を切り捨てること、その一方で高水準の賃金を支払うことができる企業を育成すること、そうした産業構造の転換と高度化に関する論点が中軸にならざるをえないという印象を受けた。

森村進「失業者を増やしたければ最低賃金を引き上げなさい」『Business Labor Trend』2008年10月。
・覚書注:最低賃金を引き上げると、最賃以下で働かざるを得ない人が失業するので、むしろ失業率が増える、と主張している。が、具体的な話がないので、いったい何に基づいて議論しているのかよくわからない。例えば、最賃以下で働かざるを得ない人として低学歴低熟練の若者層が挙げられているが、そうした人々がどれくらいいるのかを示さないまま、失業者が増えると主張している。一般の議論にそうした若年層が念頭に置かれていないという限界はあると私も思うが、何も具体的な数値を出さずに失業者が増えると最低賃金の引き上げに反対している理由がわからない。もう少し建設的な議論ができないものか。

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benyamin ♂

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