患者の幹細胞を利用した臓器移植

 今日は患者の幹細胞を利用した臓器移植です。

患者の幹細胞を利用し「気管支」移植に成功 欧州の医師

ロンドン──患者本人の幹細胞を使った「気管支」移植に成功したと、欧州の医師が19日付の英医学誌ランセットに発表した。気管の移植手術はこれまで、ほとんど実施されたことがない。医師らによると、患者には移植手術後の拒絶反応も見られず、免疫抑制剤も不要で、これからの移植治療に新しい光明を見出す画期的な方法だとしている。

気管支移植手術を受けたのは、数年前から結核で苦しむ、スペイン・バルセロナ在住のコロンビア人、クラウディア・カスティージョさん(30)。今年3月に左肺の症状が悪化し、気道確保のために定期的な通院が必要となって、2人の子供の世話も出来ない状態になった。

当初はカスティージョさんの左肺を切除するしか方法はないと考えられたが、バルセロナのオスピタル・クリニックの医師パオロ・マキアリーニ氏が、気管移植手術を提案。各国の医師らから協力を得て、移植手術の実施が決まった。

まず、イタリア・パドヴァ大学の医師が、ドナーから提供を受けた気管から表面の細胞や、免疫反応に必要な遺伝情報を持つ「主要組織適合遺伝子複合体(MHC)抗原」を除去。気管を「骨格」部分だけの状態にした。

この作業と当時に、英ブリストル大学ではカスティージョさんの腰から骨髄細胞を取り出し、幹細胞の培養を開始。上皮細胞や軟骨細胞を作りだして、イタリア・ミラノ大学の医師が、骨格部のみとなった気管の表面で培養した。

カスティージョさんの幹細胞から作り出された各細胞が気管表面をくまなく覆い、移植できる状態になった。そこで、今年6月にカスティージョさんの左肺気管支と、新しい気管支を交換する移植手術を実施した。

術後の経過は良好で、拒絶反応も見られない。カスティージョさんは2人の子供の面倒も問題なく見られるようになり、近ごろは夜通しダンスできるまで回復したという。

ニューヨークのマウント・シナイ病院で気管移植手術を2005年に実施したエリック・ジェンデン医師は、気管支表面の細胞が確実に定着するまで、約3年はかかると指摘しながらも「この手法はすばらしい」と評価。

ドイツ・キール大学の外科医パトリック・バルンケ氏も、「患者自身の組織を使うということが鍵」と述べており、今後の移植手術において、患者の幹細胞から分化させた組織を使う頻度が高くなるだろうとしている。

2008.11.19 Web posted at: 20:49 JST Updated - CNN/AP
http://www.cnn.co.jp/science/CNN200811190030.html

 幹細胞を活用した臓器移植に成功したという記事です。幹細胞による臓器造成の発展段階を示す事例だと思います。

 現在の臓器移植の問題点は他人の臓器を移植することです。これには倫理的な論点も含まれますが、それ以上に、記事にもあるように、移植された臓器を患者の免疫系が拒絶してしまうという臨床的問題のほうが決定的です。

 一般に移植医療は、難病の患者さんを救う素晴らしい医療技術であると喧伝されています。しかし、一方では、移植された臓器を免疫系が拒絶しないように、免疫抑制剤を服用し続けなければならないという限界があります。

 免疫を抑制するわけですから、多くの場合、感染症などに対する抵抗力が極度に低下します。そのため深刻な疾患を抱え込む可能性が著しく上昇します。臓器移植により元々の病気は取り除かれることになりますが、一方では別の病気におびえなければなりません。

 臓器移植には、他人の臓器を利用する限り、不可避的な問題点があるのです。しかし、幹細胞を活用した臓器造成の技術が向上し、その臓器を移植できるようになれば、従来の臓器移植がもつ限界は著しく軽減するでしょう。

 今日の記事は臓器移植の新しい展開を示しています。幹細胞からの臓器造成という再生医療と組み合わせることが、今後の臓器移植における中軸的な技術となっていくでしょう。

 ただし、今日の記事についても消極的な部分を指摘しなければなりません。1つは、完全な臓器造成ではないことです。他人の気管支を土台にしています。2つは、気管支という臓器であることです。肺や心臓といった基幹的な臓器ではありません。3つは、各国の医師が協力していることです。通常の患者ではありえない取り組みでしょう。

 決して看過できない消極面があるとはいえ、今後の臓器移植の方向性を現す事例であると思います。

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benyamin ♂

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