2008年12月アーカイブ

良いお年を!

 今年もお世話になりました。

『ナウシカ解読』

 今日は稲葉振一郎『ナウシカ解読 ユートピアの臨界』(1996年、窓社)を読みました。

 本書は漫画版のナウシカに関する考察書です。したがって、漫画版を読んでいる読者を前提として書かれています。アニメ版しか見たことがない人は対象外です。

 漫画版は全7巻の物語です。アニメ版は2巻の途中までを切り取って構成された物語です。漫画版の世界を単純化してまとめており、漫画版の一部を簡略にした作品がアニメ版です。

 とはいえ、漫画版は筋道が複雑で錯綜しています。1巻から7巻終了まで10年以上も費やされている作品ですから、これは仕方のないことです。私も筋道を追えない部分がありました。

 漫画版ナウシカのこうした性質を踏まえ、本書は冒頭で物語のあらすじを説明しています。著者なりの視点でまとめられているものの、わかりやすい内容となっています。

 さらっと書きましたが、実はこのあらすじが本書の最大の魅力です。Wikipediaさんには背景や設定、登場人物についての項目はあるのですが、あらすじはごく簡単なものしかありません。

 本書では18ページに渡ってあらすじが丁寧に書かれています。これを読めば漫画版のややこしい流れが非常によく理解できます。素晴らしいあらすじです。

 あらすじに続いて、本書では物語の解読、つまりは、ナウシカに投影された作者宮崎駿の思想を解読する作業に進みます。が、それがどうでもよくなるくらいの、あらすじの出来です。

 正直、解読作業自体にはあまり魅力を感じませんでした。巻末には著者と宮崎駿との対談が掲載されていますが、お互いに話が噛み合っていない印象を受けました。いわゆる作者を超えた解読になっていると思いました。

 著者は難しく解読しすぎているのかもしれません。ナウシカの言動の意味を考えるために、ハンナ・アレーントやロバート・ノージックを援用する姿勢は過激に見えました。

 ただ、こうした姿勢は映画評論や芸術評論では普通のことでしょう。著者も同じ作業をナウシカを題材に実践しているに過ぎません。その意味では本書を素直に受け止められない私のほうに限界があるのです。

 そうは言いつつも、しかしながら、主題である解読作業の魅力が吹っ飛ぶほどの秀逸さがあらすじにはあると私は思いました。この点で私は本書を高く評価したいです。著者にとっては不本意でしょうが。

 なお、著者は大学教員です。普段は政治哲学や政治倫理を教えているようです。その研究活動の一環として本書は書かれているという位置づけになるでしょう。その意味では、純粋なナウシカ本とは言えないかもしれません。

 また、驚いたことに、本書は著者の最初の単著です。研究者人生の初っ端から漫画を大真面目に論じているのです。何だか非常に親近感を覚えました。

痴漢の冤罪を回避する方法

 今日は痴漢の冤罪を回避する方法です。

262:陽気な名無しさん 2007/02/10(土) 12:00:58 4r3bfDgE
あたし、去年マンコに「触りませんでした?」って電車内で騒がれたから
「あたしがぁ〜?冗談じゃないわ!なんであんたを触んなきゃなんないのよ!」
ってすぐに切り換えしてやったら「すいません」って謝ってきたわ
ちなみにあたしは短髪野郎系よ!
電車内では別の意味で注目されたけど冤罪よりましよね

 その手があったか! 護身術として覚えておきましょう。……実践の前に、ちょっと練習してみようかしら。←やけに乗り気だな

 なお、マンコとは卑猥な言葉ではなくテクニカルタームです。これはゲイ用語で女性を指します。どちらかと言えば、否定的な意味合いを含んでいます。

 というのも、ゲイから見ると女性は複雑な存在だからです。恋愛対象や性的対象ではなく、かといって自分の性別とも違う、けれども同じ種族の人間が女性です。

 そうした異形の存在である女性ですが、ゲイと男を取り合えば、確実に女性のほうが有利です。そう、ただ女性であるだけでゲイよりも有利なのです。

 ですから、あんたなんか女性器が付いているだけじゃないのよー!という意味を込めて、女性をマンコと呼ぶのです。とどのつまり、こんちくしょー!ってことです。

 えっ? やけに詳しいじゃないかって? これくらい現代社会の基礎教養ですよ。確か中学校で習うはずですが。←やな中学校だな

覚書 081227

金澤史男「シンポジウム 財政再建と税制改革」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・現在の国税収入は対GDP比で見たとき非常にみすぼらしくなっている。2002年のOECD統計を見ると、28か国中、国税収入の対GDP比は最下位である。地方税の対GDP比は28か国中7位であるが、両方足したとしても、OECDの中進国よりも低くなっている。ちなみに、国税が12.5%で、地方税が9%である。
・政府税調では国民負担率が低いことが国際競争力を高めることだとア・プリオリに前提している。しかし、国際経済フォーラムの競争力ランキングでは、1位はスイス、2位はフィンランド、3位はスウェーデン、4位はデンマークとなっており、2位から4位は公共部門が非常にしっかりしているところが並んでいる。国際競争力を高める要因は、透明性のある行政システム、イノベーションを生み出すような仕組み、そのイノベーションを知的財産としてしっかりと守っていく仕組み、人的な資本をしっかり育てること、である。「小さな政府」ではない。日本の企業にアンケートをすると、投資決定に関して租税水準の重要性はほとんどがネグリジブルである。国際競争力は租税負担率や国民負担率といった要素で構成されているのではなく、しっかりした政府、しっかりしたマクロバランスの財政が国際競争力にもつながってくるという視点が重要である。

林宜嗣「シンポジウム 財政再建と税制改革」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・国民負担率とは行政の役割がどの程度なのかという話であり、負担率だけで議論できるものではない。負担率が低ければ、公的な役割は少ないけども、その代わり一方で自己責任なり、私的な責任、負担が増えるという話である。現在の議論は公的金銭負担の議論である。その場合に行政の役割は所与だとされるため、それなら負担率は低いほうがよいということになる。例えば、介護ニーズは、「大きな政府」でも「小さな政府」でも同じである。「大きな政府」であれば、介護ニーズは公的な介護施設で、あるいは、公的な介護保険で負担してもらえるということである。「小さな政府」であれば、公的金銭負担は小さいが、その代わり家庭内介護などの私的な負担が増えることを考えなければならない。
・日本人はいまどういう考えなのか。例えば、自分の親は自分で看るべきだと考えているのか、あるいは場合によっては社会的入院でかまわない、むしろ医者がいてくれるほうが安心である、そのための負担はする、と考える国民ははたして本当にいないのか。金銭的な公的負担だけを議論するのではなくて、その金銭的公的負担をなくすということは、私的な負担あるいは自己責任が増えるということをきちんと説明しなければならない。もしかすると増税O.K.という話にもなるかもしれない。

金澤史男「シンポジウム 財政再建と税制改革」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・法人税の減税は必要ない。日本の企業課税は国際的に見ても必ずしも高くない。政府税調の資料では、実効税率の国際比較で、イギリスはロンドン、フランスのパリなどは国税だけしか計算されていない。ドイツ、フランスなどの地方税で外形標準課税をしている営業税、イギリスは国税になったNon-Domestic Rateなどの固定資産課税は実質的な企業負担になっているが、国際比較では含まれていない。アメリカの民間医療保険は連邦政府と州政府が規制をかけて実質的には公的な保険として機能している。基本的に事業種が負担しているのに、この負担が国際比較には入っていない。実際のところ、イギリスが日本より若干低いだけであり、ドイツと企業課税の負担はほぼ同じ、フランスやスウェーデンなどよりは現時点で日本のほうがずっと低い。
・日本の税率はすでに活力化されており中立的ではない。バブル崩壊後、銀行業はほとんど法人税を支払っていない。不良債権を処理するということであれば、税負担はゼロになる。証券税制の優遇措置、組織再編の連結納税制度も節税効果があるといわれている。租税特別措置は急速に広がっている。量的緩和政策や公的資金導入も同様である。いま求められているのは、正常化である。公平・簡素・中立を公正・簡素・活力にする目標が私には理解できない。現在が活力であって、これを中立・公平にしていくなかで財政再建を図っていくべきである。
・消費税増税で年金の財源にすることは必ずしも財政再建にならない。年金財源のうち基礎年金部分を社会保険料負担から税方式に替える場合、社会保険料はおおむね労使折半で負担しているため、社会保険料の減税が消費税の増税に取って代わるだけで、レベニュー・ニュートラルになってしまう。経済界が税方式を提案するのは、基礎年金部分が中核労働者だけでは支えられなくなってきているという危機感があるからだ。したがって、税方式への切り替えは、労働者以外の高齢者やニートたちに基礎年金部分の負担を広げていくことになる。

重森曉「人間発達の財政学を求めて マスグレイブ3機能説の再検討」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・現代財政は、1. 生活保障機能(生存権・発達権を保障するための共同的諸条件を整備し、格差是正と社会的公正を実現する機能)、2. 資本蓄積機能(生産の一般的条件を整え、資本蓄積を促進する機能)、3. 環境維持機能(人間と自然の物質代謝を制御し、地球自然環境の持続的可能性を確保する機能)、4. 体制維持機能(社会の諸階級・諸階層の対立を調整し、社会的統合をはかり、権力と体制を維持する機能)という4つの機能を果たしている。

山本栄一「租税論の展開に公共財の理論がもたらしたもの」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・マスグレイブの財政の3部門モデルは、応能課税中心であるこれまでの租税論に、応益課税が資源配分から見て効率的かつ負担の公平が図れる合理的な課税であることを明らかにし、租税体系にはこの両者の課税原則から導かれる税種を配置する必要を示唆している。
・公共財の理論は、1970年代には新たなテーマとして、財政学以外の研究者も参入して公共財を含むモデルの様々なバリエーションが提示されたが、1980年代に入ると最適課税論が新たなテーマとして登場して、公共財への関心は急速に衰えたように思える。しかし、公共財の理論の展開によって明らかになった公共財の性質、公共財に対する税負担の配分、応能・応益課税からなる租税体系のあり方といった視点は、現実の財政負担問題を解く様々な鍵を与えている。

亀田啓悟・李紅梅「事業別社会資本の生産性分析 国直轄事業・国庫補助事業・地方単独事業別の推計」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・3事業間に生産性格差は存在し、地方単独事業のみが有意な生産性をもつといえる。なおこの結果は、先行研究の技術的、制度的、政治的な要因が社会資本の生産性を阻害するとの指摘を裏付けるものといえる。

小林航・近藤春生「知事の在職期間と財政運営」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・既存研究では、基礎的財政赤字と知事の在職年数との間にU字型の関係が観察されていたが、本稿ではそのような関係は見られず、むしろ逆U字型か単調な右下がりになることが示される。

関口智「アメリカ租税政策と民間医療・年金保険 所得階層別実態の視点から」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・アメリカでは、伝統的に政府部門の社会保障債務(医療・年金保険等)の規模が小さいが、これは民間部門が医療・年金債務のシフトを受容してきたからでもある。近年、民間部門内部では従来の確定給付型に確定拠出型を加えた雇用主から、被用者個人への医療・年金債務のシフトが起こっている。政府はこれら一連のシフトを租税政策により促進し、社会保障財政の逼迫を回避する方向性を追求してきた。

『ゼミナール「女性学+男性学」』

 今日は小森治夫『ゼミナール「女性学+男性学」』(2002年、高菅出版)を読みました。

 本書は著者が開催していた大学ゼミナールでの内容を紹介するものです。題名からは、女性学の入門書のような内容を期待してしまいますが、実のところ、ゼミナールで女性学を扱った事実を語っているだけです。

 加えて、著者は女性学の専門家ではありません。ゼミナールで学生に関心がありそうな論題を模索して試行錯誤していたら、女性学に食いつきが良かったので、これを続けているという立場の門外漢です。

 したがって、何か新たな知見を得ようと本書を手にとることは明らかに間違いです。参加した学生に行ったアンケートの結果や、ゼミナールで扱った文献とビデオのリストが列挙されているだけです。

 本書はPDFで無料配布されていてもおかしくありません。しかしながら、こうした特徴を前提とすれば、例えば、アンケート結果は読み物としては面白いと言えます。

 アンケート結果では、ゼミナールで扱った文献やビデオなどについて学生が感想を書いています。この感想が大量に収録されているのです。これが本書の中身だと言っても言い過ぎではないほどの量です。

 感想はいずれも女性学が提起する論点を学生が素直に受け止めていることを示しています。やや優等生的な感想が目立ちますが、それでも性問題を考えるきっかけを存分に与えるゼミナールであったことがよくわかります。

 もちろん、これらの感想にも新しさはありません。ただ、女性学の限界、つまり、男ないし男社会を敵視しすぎている過激性を学生が敏感に感じ取っていることが明示されており、今後の女性学が取り組むべき課題が示唆されていると思いました。

 また、ゼミナールで取り上げた文献リストも有益でしょう。ゼミナールを開催した著者も参加した学生も初学者ですから、彼らが読んで関心をもった文献は、一般的にも読みやすい本であると思います。以下に挙げておきます。

伊藤公雄『男性学入門』(1996年、作品社)
井上輝子『女性学への招待』(1992年、有斐閣選書)
岡沢憲芙『おんなたちのスウェーデン 機会均等社会の横顔』(1994年、日本放送出版協会)
加藤秀一・坂本佳鶴惠・瀬地山角編『フェミニズム・コレクション 1・2・3』(1993年、勁草書房)
宿谷京子『アジアから来た花嫁』(1988年、明石書店)
匠雅音『核家族から単家族へ』(1997年、丸善ライブラリー)
中田照子・杉本貴代栄・J.L.サンボンマツ・N.S.オズボーン『学んでみたい女性学』(1995年、ミネルヴァ書房)
松井真知子『短大はどこへ行く ジェンダーと教育』(1997年、勁草書房)
松井やより『女たちのアジア』(1987年、岩波新書)
松井やより『女たちがつくるアジア』(1996年、岩波新書)
山田昌弘『結婚の社会学』(1996年、丸善ライブラリー)

 上記以外では、個人的に気になっていたことが解決した個所がありました。それは田島陽子が出題したと言われる女性学のクイズ問題について、彼女が出題した経緯がわかったことです。それは次のようなクイズ問題です。

 ある腕の立つ有名な外科医がいました。ある日、その外科医のもとに救急車で重症患者が運ばれてきました。その顔を見て、外科医は驚きました。なんと自分の息子だったのです。

 外科医は一生懸命手術を施したのですが、残念ながら息子さんは亡くなってしまいました。

 お葬式の時に、弔問客の一人が、お父さんに、「一生懸命手術をなさったのに、お亡くなりになって残念です」と挨拶しました。

 すると、お父さんは驚いた顔をして、「いえ、私は手術をしておりません」といいました。それは、なぜでしょうか?

 有名な問題です。これは、NHKで放映されていた「課外授業 ようこそ先輩」という番組で、田島陽子が母校の小学生で女性学を教える際に出題したクイズ問題でした。

 私は田島陽子の主張はあまり納得できませんが、この問題は秀逸だと評価していました。その評価を確実にするためにも、本当に彼女が出題したのかを確認したいと思っていました。本書でその作業ができました。

 とはいえ、本書は、総合的に見れば、お金を出してまで買う必要はないかと思います。ただ、上述したように、学生が書いた感想は実に豊富な量がまとめられていますので、彼らの声を聞きたい人には参考になるかもしれません。

 なお、田島陽子のクイズ問題の答えですが、えーと、誰でもわかりますよね。いやいやわかんないよ!という人は、テレパシーか何かで私までお問い合わせください。折り返し答えをビビッとお送りします。ヒントは社会的性差です。

ES細胞とがん細胞

 今日はES細胞とがん細胞です。

 ES細胞とは胚性幹細胞(Embryonic Stem cells)です。動物の発生初期の胚に含まれる、すべての組織に分化することができる細胞です。必要な臓器を作り出すことも可能となるため、再生医療や移植医療への応用が期待されています。

 現段階の研究水準では、ES細胞の分化を自由に制御できません。ES細胞が一定数集まると、お互いに役割分担を決めて、それぞれの組織に分化していきます。この過程での役割分担を人為的に制御できるところまでは研究は進んでいません。

 役割分担が決める前のES細胞はただ増殖するだけの存在です。本日付け日本経済新聞夕刊の1面のコラム、福岡伸一「究極のがん治療法」によれば、胚から取り出されたES細胞は何か組織を形成することなく、ひたすら増殖を細胞になってしまうようです。

 ES細胞のこうした性質はがん細胞にも言えることだと、コラムでは紹介されていました。がん細胞も何らかのきっかけでひたすら増殖を続けてしまう細胞です。この増殖を制御する方法、つまりがんの治療法はまだ確立されていません。

 がん細胞もES細部も、細胞が分化する過程で適正な役割分担を人為的に決めることができれば、自由な制御が可能になります。その意味では、両者に関する研究は繋がっていることになる、とのコラムでした。

 人類の未来を切り開くES細胞と、人類の宿敵とも言えるがん細胞に、意外な共通点があることに興味を覚えました。胚の発生と細部の分化に関しては、倫理的問題ばかりに焦点が当てられがちですが、純粋な研究領域として見た議論も必要だと思います。

製本作業 2回目

 今日は製本作業の2回目です。

 前回はこちらです。

 今回は生協にお願いしました。正確に言えば、生協を通じて製本作業を請け負っている業者さんです。

 前回と同様、コピーはこちらで用意して、製本作業だけをお願いしました。表紙と背表紙の原稿は持ち込み、様式はくるみ製本です。今回は24部を製本しました。

 料金は1冊315円でした。24冊で合計7,560円です。表紙や背表紙に別料金はかかりませんでした。315円ぽっきりです。前回は430円程度でしたので、100円ほど安く仕上がったことになります。

 ただ、納期は1週間程度でした。今回の場合、今月の15日月曜日に依頼して週末の20日土曜日に出来上がりました。土曜日の段階で受け取りは可能でしたが、終日の用事があったので、今日の22日月曜日に受け取りました。

 当日出来上がった前回とは異なり、納期は5日ほどかかります。その一方で、値段は今回の生協のほうがお安いです。仕上がりの出来映えは、少なくとも素人目にはまったく同じですので、料金と納期のいずれかを優先するかが要点となるでしょう。

 なお、表紙の色は今回もあさぎ色です。ふふふ。でも、みうら色とかあったら、迷わずに選びます。←何色だよ!

『G・W・ブッシュ政権の経済政策』

 今日は河音琢郎・藤木剛康編著『G・W・ブッシュ政権の経済政策 アメリカ保守主義の理念と現実』(2008年、ミネルヴァ書房)を読みました。

 ブッシュ政権については、政治的側面に議論が集中しがちでした。しかし、ブッシュ大統領が任期を終えることが確実となった昨今では、そうした政治的側面に関する議論は落ち着いています。本書はそうした機を捉え、これまでの議論では見えにくかった経済政策の側面を取り上げています。

 本書の問題意識は大きく2点あります。1点目は、ブッシュ政権期の経済政策を歴史的過程のなかで把握することです。レーガン政権以来の新自由主義を継承する側面とともに、前政権であるクリントン時代の政策運営からの連続性の側面が分析対象となっています。また、ブッシュ政権の独自的課題として安全保障問題があり、それと経済政策との関連も意識されます。

 2点目は、本書の副題にもあるように、経済政策に反映されたブッシュ政権の理念とその帰結である現実との関係を把握することです。ブッシュ大統領が実施しようとした政策理念がどのように政策として結実し、どのように現実に影響したのかを分析しようとしています。これは必然的に政策形成過程の分析にも踏み込むことを意味します。

 以上のような問題意識から、本書は個別問題として、財政・租税政策、地域産業政策、社会保障政策、対外金融政策、通商政策、援助政策の6分野を取り上げ、それぞれ検討を加えています。これで経済政策全体を網羅しているとは言えませんが、主要な領域には焦点を当てていると思います。

 個別問題の検討は非常に勉強になりました。とりわけ援助政策に関する分野は私がまったくの門外漢ということもあり、新鮮な知見が獲得できました。ブッシュ政権がクリントン政権期でへろへろになっていた援助政策を自由と民主主義の拡大という理念のもとに立て直したこと、その一方で、それはイラクやアフガニスタンへの傾斜配分を生み出し、他の国や地域への援助が不十分になっていることが、丁寧に描かれています。

 本書の中身それぞれは優れていますが、しかしながら、本書全体の統一性はほとんど見られません。上述した問題意識が本書の冒頭で高々と掲げられていますが、個別問題の分析では重要視されていません。地域産業政策や対外金融政策の分析では無視されていると言っても過言ではありません。その点ではまとまりのない本であると思います。

 ただ、問題意識そのものは重要な示唆を含んでいます。経済政策に対する安全保障問題の影響を考える分析視角や、政策が形成される場である議会での議論や議員の行動などを踏まえて経済政策を把握する姿勢は、従来にはない画期的な内容であると思います。政策分析を行なう上で今後は必須作業となることは間違いありません。

 気合いの入った本だと思いました。いや、ホントです。感銘を受けました。

覚書 081220

猿渡英明「欧州経済概観 08/12 10-12月期の景気下振れリスクが高まるユーロ圏」新光総合研究所『SRI 欧州経済ウォッチ<ユーロ圏・英国>』No.08-30、2008年12月。
・英国の7-9月期実質GDPは前期比マイナス0.5%となり、2008年に入って英国景気が徐々に不快調整にはまりつつある姿が鮮明となった。金融部門の調整は、住宅市況の悪化などを伴いながら、内需全般に波及しつつある。資産価格の上昇を担保とした信用供与により、過剰な消費や投資が行われていたという構図は、米国とほぼ同じといってよい。このため、金融機関の損失拡大を背景に信用供与が縮小すれば、自ずと景気は大幅な調整を強いられることとなる。輸出や製造業部門のウェートが低いだけに、内需の回復がない限り、景気全般が持ち直すことは困難であろう。景気が回復するためには、金融部門の一層の調整が一巡し、信用収縮に歯止めがかかる必要がある。しかし、回復の目途は依然としてたっておらず、2009年中の回復は難しい情勢にある。
・ユーロ圏の輸出シェアの推移:1. EU35.2%、2. 米国16.2%、3. 日本16.1%(2000-2005年)→1. EU35.6%、2. 17.5%日本、3. 11.9%米国(2008年)
・英国経済見通し:金融部門の調整が消費・住宅部門の調整へと波及。信用収縮がすでに始まっており、消費を中心に景気はかなり下振れする見通し。景気後退の構造は米国とほぼ同じ。住宅市場の底入れが景気回復の鍵を握る。BOEは最終的にゼロ付近までの利下げを強いられると予想。
・英国の主な経済政策:2008年12月-2009年12月まで、VATを2.5%引き下げ(17.5%→15.0%)。酒税、タバコ税、ガソリン税は恒久的に引き上げの方向。各種増税は延期(中小企業法人税:2010年4月へ、高額所得者所得税:2011年4月へ)。財政、金融、実質所得の改善などから2010年の景気回復を想定(英政府見解)。財政政策への評価は今のところやや低調。

「単身世帯の増加と求められるセーフティネットの再構築 『ひとりでも生きられる社会』に向けて」みずほ情報総研『研究レポート』2008年12月。
・これまで日本では家族が社会保障制度を補完する機能を果たしてきた。しかし、単身世帯の増加によってこうした機能の低下が予想される。社会保障制度の見直しが必要となる。
・単身世帯の増加が顕著になった1985年の単身世帯数を基準にして、2005年の男女別・年齢階層別の単身世帯数の倍率をみると、男性では50歳以上の年齢階層、女性では80歳以上の年齢階層で3倍以上に増えている。特に80歳以上の年齢階層では、男女ともに単身世帯数が5-7倍に増えている。注目すべきは、50代と60代の男性で単身世帯が4-5倍も増加している点である。単身世帯は高齢者で増えてきたとみられているが、中高年男性でも増加が著しい。
・単身世帯の増加要因は、年齢階層人口の増加に伴う「人口要因」と、結婚・世帯形成行動の変化に伴う「非人口要因」に分けられる。80歳以上の男女と70代男性で単身世帯が増加したのは、長寿化による年齢階層別人口の増加が主因と考えられる。一方、60代男性における単身世帯の伸びは、年齢階層別人口とともに、「未婚」と「離別」の増加が要因である。さらに50代男性の単身世帯の伸びは、非人口要因が主因となり、その多くは「未婚」の増加によると考えられる。以上のように、単身世帯の増加の背景には、高齢者人口の増加に加えて、50代・60代男性を中心に「未婚」や「離婚」の増加といった結婚・世帯形成行動の変化が挙げられる。
・単身世帯からみた現行の社会保障制度の課題としては、現行制度は、家族や企業によるセーフティネットを前提に設計されているため、単身世帯にとって不十分な点があげられる。というのも、単身世帯では同居家族がいないので、家族のセーフティネットが不十分である。また、単身世帯では、二人以上世帯に比較して、無業者や非正規労働に従事する者の割合が高いため、企業によるセーフティネットも不十分になりがちである。
・単身世帯のセーフティネットを再構築するためには、第一に、単身世帯の非正規労働者が「自助」で生活できるように環境整備が求められる。具体的には、非正規労働者を対象にした職業訓練の充実や、非正規労働者への不合理な処遇の是正である。また、高齢期の貧困を予防するため、非正規労働者への厚生年金の適用拡大なども必要である。第二に、単身世帯と地域社会の結びつきを強めて、地域社会における「共助」を強化する施策が求められる。第三に、「公助」の再構築として、家族と企業によるセーフティネットを前提に設計された社会保障制度を見直す必要がある。個別制度としては、生活保護制度や介護保険制度をの拡充が求められる。
・本稿における「単身世帯」とは、国勢調査の定義に則って、「世帯人員が1人の一般世帯」をいう。そして「一般世帯」とは、1. 住居と生計を共にしている人々の集まり、または一戸を構えて住んでいる単身者、2. これらの世帯と住居を共にし、別に生計を維持している間借り・下宿などの単身者、3. 会社・官公庁などの寄宿舎、独身寮などで居住している単身者である。上記2に示したように、住居を共にしていても生計を別にすれば「単身世帯」となるので、単身世帯は厳密には「一人暮らし」を意味するわけではない。しかし実際には、単身世帯のほとんどは「一人暮らし」と考えられる。例えば、2005年の全国の単身世帯において、上記2に該当する「間借り・下宿などの単身者」の割合は2.3%に過ぎない。上記3の「会社などの独身寮の単身者」と合わせても、7.5%である。したがって、単身世帯は「一人暮らし」とほぼ同義と捉えてかまわない。なお、病院・診療所の入院者、社会施設の入所者、寮・寄宿舎の学生・生徒などは「一般世帯」ではなく、「施設等の世帯」に属すので、「単身世帯」にはならない。例えば、高齢者が一人で老人ホームに入所しても、「単身世帯」に含まれない。
・男性の年齢階層別単身世帯数をみると、1985年と2005年ともに20代男性が最も多く、年齢階層が上がるにつれて減少している。20代で単身世帯が多いのは、進学や就職などを機に親元から離れて一人暮らしを始める若者が増えるためと考えられる。この点で、1985年と2005年は似ているが、違いとしては、20未満を除いた全ての年齢階層で2005年の単身世帯数が1985年を上回る点があげられる。一方、女性の単身世帯数をみると、両年ともに、20代と60-70代をピークとする二つのこぶがみられる。しかし、1985年は20代の単身世帯が60代の単身世帯よりも多かったが、2005年になると70代の単身世帯数が20代を上回っている。
・英国の国勢調査によれば、単身世帯とは一人暮らし(one person living alone)を意味する。そして、フルタイムあるいはパートタイムの管理者が駐在する共同施設の居住者は、単身世帯に含まないのが原則である。なお、英国の国勢調査は10年に1度行われており、直近の調査は2001年になる。
・英国における年齢階層別人口に占める単身者の割合を見ると、75歳以上男性の32%、同女性の61%が単身者となっている。日本の同割合は、男性10%、女性21%なので、英国では高齢者に占める単身者の割合が極めて高い。この背景には、英国の高齢者は子供と同居する習慣が乏しく、できる限り一人で暮らす傾向が強いことが大きい。また、英国では、日本に比べて、高齢者向け集合住宅などが整備されている点も影響していると考えられる。例えば、英国では「シェルタード・ハウジング(sheltered housing)」と呼ばれる高齢者向けの集合住宅がある。これは高齢者が独立して暮らせるように、ウォーデン(warden)と呼ばれる管理人が駐在し、入居者が必要とするサービスを外部に依頼することや、住居の修繕などを行っている。なお、英国では高齢単身者の比率が高いが、家族や友人や近隣の人などによって行われる無償介護の役割は小さくない。そして、単身世帯が多いことから、無償介護の62%は、別居する要介護者に対して行われている。ちなみに、「病気で寝込んだときに、誰に助けを頼むか」を高齢者に尋ねた意識調査をみると、「親族(別居家族)」「友人」「近隣の人」に依頼すると回答する者の割合が高い。英国の高齢単身者が生活を維持できるのは、こうしたインフォーマルな助け合いが大きいと考えられる。
・英国では家族や友人による介護も活発に行われている。しかし日本と異なるのは、一定時間以上の介護を行った介護者には「介護者手当て(Carer's Allowance)」が支給される点である。具体的には、看護手当てや障害手当てを受給する要介護者に、週35時間以上の介護をした者には、週50.55ポンドが支払われる。介護者は、要介護者の家族に限られないが、16歳以上であること、フルタイムの学生でないこと、週95ポンド以上の報酬を得ていないこと、などの要件を満たす必要がある。

「イギリス 外国人専門技術者の新たな受け入れ制度、運用開始」労働政策研究・研修機構『海外労働情報』2008年12月。
・今年初めから段階的に導入されているポイント制(外国人を入国目的や専門技術等に選別して、年齢や学歴などに基づく入国資格を定める制度)のうち、専門技術者などを対象とする第2区分の運用が11月末から新たに開始された。保有資格や、受け入れ先での給与水準などに基づいて計算されたポイントが、政府の定める水準を満たす外国人に対象を限定する。受け入れ側に対しても、外国人を雇用する職種の専門性や、EU域内での人材調達が困難であることの証明(労働市場テスト:一定期間の求人広告の実績など)を求める点は従来の制度と同様だが、新たな制度のもとでは、受け入れ先(スポンサー)としてのライセンス取得も義務付けている。また従来の制度とは異なり、外国人には一定の英語力も問われる。
・政府が人材不足と認める職種については、労働市場テストが免除される。職種の検討は、政府の諮問機関である移民提言委員会(Migration Advisory Committee)が実施することとされており、委員会は既に9月、政府に不足職種案を提出していた。委員会案は、旧制度のもとで政府が認めていたよりも広範な職種を人材不足としているものの、資格水準や資金額などの条件を明確に課しており、また従来の制度のもとで、不足職種リストに含まれていたソーシャル・ワーカーを除外するなど、対象職種の就業者数は旧制度に比べて30万人分圧縮されるとしていた。委員会案を受けて、国境局(UK Border Agency)は業界団体などから意見聴取を実施、最終的にソーシャル・ワーカーを復活させた不足業種リストを固めた。ソーシャル・ワーカーは就業者数にして10万人分に相当する計算で、このため旧制度からの圧縮幅は20万人分に減少した。国境局は委員会に対して、ソーシャル・ワーカーや上級介護労働者、看護師、シェフなどの職種について来年3月までに検討のうえ改定案を示すよう、改めて諮問している。
・企業からは、新制度の導入によるコスト増などに加え、国内では調達が困難な職種の労働者不足を助長するとの批判の声が強いが、移民提言委員会の委員長を務めるデビッド・メトカーフ教授は、企業が国内での採用活動を強化してより高い賃金を提示すれば、イギリス人労働者の応募が増加することによって人材不足は緩和されると一蹴し、さらにライセンスの審査にあたっては、イギリス人従業員の訓練が十分に行われているかも対象となりうるとの見方を示したという。

林田宏一「用地補償業務外部化に向けて 暗黙知化したノウハウの段階的移転」『NRI パブリックマネジメントレビュー』Vo.65、2008年12月。
・ロンドン市は外郭団体であるロンドン開発公社に用地補償業務を委託している。現在はロンドンオリンピックの整備に向けてオリンピック実行委員会より用地補償業務を受託している。重要なのは、ロンドン開発公社が用地補償の具体的な業務を「Surveyor」と呼ばれる専門家に委託していることである。Surveyorとは大学で土地、不動産に関する領域、建築、税務、法律等の単位を取得し、日本の不動産鑑定士相当の試験に合格して、王立サーベイヤー協会(Royal Institute of Chartered Surveyors)に登録している測量、鑑定、用地交渉の専門家である。ロンドン市では事業者と地権者の双方がSurveyorを擁立し、双方のSurveyorが取得対象となる地権者の土地と物件の補償額を算出する。その補償額をもとにSurveyor間で交渉を行い、妥当な補償額を確定する。ここで双方の合意が得られない場合は、土地裁判所で決着することになる。その際には、地権者の代理人として弁護士を立てることを土地裁判所はもとめている。なお、事業者が費用を負担することになっており、合意した補償額の3%前後がSurveyorに支払われる報酬である。

澤田康幸・山田浩之・黒崎卓「援助配分は貧困削減と整合的か? ドナー間比較」RIETI『ディスカッション・ペーパー』08-J-065、2008年12月。
・カナダ、フランス、日本、オランダ、イギリスの援助配分は、グローバル貧困ターゲッティングの理論に沿っており、貧困ギャップがより高い水準にある国に援助がより多く供給されていた。

大政美樹「主要国の金融政策動向」国際金融情報センター、2008年12月3日。
・英国:3.00%
・11月6日に1.50%ポイントの大幅利下げ。インフレ見通しが大幅に後退し、経済見通しは内外ともに著しく悪化と指摘、一次産品価格の急落にも言及。10月は0.5%ポイントの緊急同時利下げをしていた。2007年12月以降5回にわたり、累計2.75%ポイント利下げ。次回は12月3ー4日。

大政美樹「主要国の政治動向」国際金融情報センター、2008年12月3日。
・英国:特筆事項なし。

内閣府「世界の潮流 2008年 2 世界金融危機と今後の世界経済」2008年12月。
・今回の金融危機は、サブプライム住宅ローン問題に端を発しましたが、それはあくまできっかけに過ぎず、その根本の原因は、世界的に金融取引が急拡大する中で、金融機関のビジネスモデルやリスク管理、さらには金融当局の規制・監督体制が、新しい金融商品や金融イノベーションに対し十分に対応できていなかったことにあります。
・2008年9月15日の米大手投資銀行の破綻を契機として、「世界金融危機」が発生。欧米では、金融危機の経営不安が続くとともに、市場が機能不全に。ヨーロッパの危機は、アメリカ発の影響もあるが、アメリカ以上に高い金融機関のレバレッジ比率や住宅バブルの崩壊等、ヨーロッパ自身の問題によるところが大きい。新興国では、アメリカ発の直後の影響は小さかったものの、「質への逃避」や欧米金融機関による「レバレッジの解消」の影響を受けて、株価及び通貨が下落。世界大恐慌と比較すると、今回の危機の規模は、実物面及び金融面とも今のところ小さいが、1. グローバルな危機、2. 危機の波及が速い、3. 証券化により複雑化という点が特徴。金融危機の発生に対し、各国は迅速に金融対応策を実施。金融危機への資本注入とともに、不良債権の買取り等により金融危機のバランスシートから不良債権を切り離すことが重要だが、今のところ資本注入が先行。危機対応策により、中央銀行のバランスシートが急拡大しており、財政赤字の急激な拡大懸念とあいまって、「通貨の信認」の問題が発生する可能性。将来の「出口戦略」として、財政健全化に向けた道筋も示す必要。
・世界金融危機発生の背景は、マクロ経済的には、グローバル・インバランスの拡大に伴い欧米の金融市場への資金流入が拡大し、世界的な低金利とあいまって、金融機関の過剰なリスク・テイクを助長。また、新興国等からの資金フローがアメリカの債権投資に向かったため、金融政策を引き締めても長期金利が上昇しない状況になり、ますます過剰なリスク・テイクに傾斜。危機発生の根本原因は以下の問題に起因。1. 金融機関における不適切なリスク管理(証券化商品、オフバランス期間、リスク管理体制、インセンティブ構造)。2. 短期資金依存・高レバレッジ投資のビジネスモデル。3. 格付機関によるリスクの過小評価(格付手法、利益相反、格付けへの過度の依存)。金融規制・監督当局側も、新しい金融商品や金融イノベーションについていけず、対応が不十分。
・金融市場の正常化に向けては、高レバレッジの解消が必要。しかし、レバレッジの解消は、金融と実体経済の「負の悪循環」をもたらすおそれ。欧米の金融機関は、2003年以降大幅にレバレッジを拡大。2003年の水準まで、レバレッジ比率を戻すためには、ヨーロッパの銀行は、今後、総資産額を大幅に圧縮する必要。英国では約37%、ドイツでは約36%、フランスでは約17%程度の資産圧縮が必要。
・金融危機の再発防止に向けて、2008年11月の金融サミットの「首脳宣言」において、5つの原則と行動計画を決定。規制・監督体制の見直しも重要な課題の1つ。アメリカでは、南北戦争期及び1930年代からの歴史的経緯により、連邦政府・州政府にまたがり、複雑かつ重層的になっている体制の根本的な見直しが必要。今後は、新たな金融イノベーションを阻害しない一方で、適切なリスク管理が行われるような「より良い規制」(ベター・レギュレーション)により、「自由と規律」のバランスのとれた市場環境の構築が必要。
・英国では、住宅バブル崩壊と金融危機の影響はユーロ圏より大きく、景気後退は深く、長い。景気が穏やかに持ち直すのは2010年になってから。しかも、ユーロ圏と同様の下振れリスクに加え、デフレとなるリスクが2010年7?9月期に30%程度の見込み。
・過去の世界同時不況(第1次・第2次石油ショック後)との相違点は次の2点。1. BRICs等の成長著しい新興国の存在。ただし、世界経済に占めるシェアがまだ小さく、米欧日の成長率低下分をこれら新興国が補って世界全体の成長率を維持・拡大するのは容易ではない。2. 金融危機の存在。景気後退が銀行システムの混乱を伴う場合はより深刻化・長期化する(IMFによれば平均7.6四半期を要する)。
・先進国:OECD加盟(30か国)(アイスランド、アイルランド、アメリカ、英国、イタリア、オーストラリア、オーストリア、オランダ、カナダ、韓国、ギリシャ、スイス、スウェーデン、スペイン、チェコ、スロバキア、デンマーク、ドイツ、トルコ、日本、ニュージーランド、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、メキシコ、ルクセンブルク)
・ASEAN:シンガポール、インドネシア、カンボジア、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス。 ・覚書注:サブプライム金融危機について包括的にまとまっている佳良な資料であると評価できる。

「経済マンスリー 西欧」三菱東京UFJ銀行、2008年12月17日。
・2009年度の財政運営方針を示すプレバジェットレポートが11月24日に公表された。そこには経済情勢の急速な悪化に対処すべく、様々な経済対策が盛り込まれた。ただし、景気刺激策がある一方で、その財政負担を穴埋めするための将来の増税等、国民負担の増加策が含まれている。これは、財政規律を維持する姿勢を政府が示したという点で評価できるが、将来の負担増が見込まれるなかでは、景気刺激策の効果が限定的なものにとどまる可能性がある。主な景気刺激策としては、2008年12月1日から2009年12月31日まで付加価値税(VAT)率を17.5%から15.0%へ引き下げることや、環境関連投資の繰り上げ実施、子供手当てや年金支給額の増額などである。一方で、予定されていた増税については塩基を決定した。2010年4月からの高所得層の所得税控除額の縮小、2011年4月からの最高所得税率や国民保険料の引き上げ等である。VAT税率については、2010年1月1日以降、どうなるのかは明示されていないが、再び17.5%に戻されるとの見方がなされている。景気刺激策の効果についてみると、まず、子供手当や年金支給額の引き上げは、直接の所得増加につながることから、今後決まる引き上げ額によっては、消費への波及効果を期待できる面もある。しかし、VAT税率の引き下げは、既に消費不振のなかで多くの小売店が大幅な値下げを実施していること、食料品や衣料品にはそもそもVATがかからないこと、さらに、英国家計の債務負担は重いうえ、耐久消費財等高額品が動く住宅購入は住宅価格が下落するなか、低調であること等を踏まえると、その効果を期待することは難しい。
・11月の消費者物価上昇率は前年比4.1%と前月の同4.5%から下落した。電気・ガス等の公共料金は大幅引き上げの影響で前年比38.1%と高い伸びを示したものの、ガソリン代等燃料費を含む個人輸送機械関連費用が、原油価格急落の影響で前年比0.6%と先月の7.2%から大きく低下し、全体の上昇率を押し下げた。こうしたなか、イングランド銀行(BOE)は12月4日に100bpの利下げを実施し、政策金利であるレポ金利の水準を1951年11月以来となる2.00%とした。BOEは、2009年には燃料価格や食料品価格の下落に加え、VAT税率の引き下げがインフレ率を押し下げるとしている。また、11月に公表されたインフレレポートでは、中期的には、インフレ率は目標値である2.0%を下回るリスクが指摘されている。インフレ率の低下に加え、足元の景気が急速に悪化していることを踏まえると、もう一段の利下げは避けられないであろう。

平成不況に対する日本の対策の評価

 今日は平成不況に対する日本の対策の評価です。

【聖杯は何処に】日本の経験伝え恐慌防げ 野村総研チーフエコノミスト リチャード・クー
2008.12.16 02:54

 ここ数カ月の各国経済の落ち込みはあたかも、全世界が大恐慌に向かって突き進んでいるようだ。

 米国はもとより、欧州も景気が大幅に悪化。中国でも不動産バブルが崩壊した。日本でも11月の新車販売台数が前年同月比27%も落ちたように景気が後退している。

 日本は国内にそれほど大きな問題を抱えてはいないが、外需に偏り過ぎたため、輸出先の米国や中国、欧州の落ち込みのあおりを受けている。小泉純一郎内閣のころから内需拡大をなおざりにしていたツケが表面化した形だ。

 過去を振り返ると、同じことが全世界で起きたのは大恐慌が始まった1929年ごろまでさかのぼらなければならないだろう。

 世界経済の急激な落ち込みを引き起こしたのは、いくつかの国で起きた住宅バブルの同時崩壊だ。

 住宅バブルが崩壊すると、逆資産効果だけでなく、住宅を借金で買った人たちや彼らに金を貸した銀行のバランスシートが壊れてしまう。借金は残っているのに、それに見合う資産がなくなっているからだ。

 そうなると民間は一斉に利益の最大化から債務の最小化、つまり、貯蓄を増やし、借金を減らす方向に動く。これは個々のレベルでは正しい対応だが、みんなが同時に同じことをすると、民間の貯蓄と借金返済分を借りて使う人がいなくなり、それがデフレギャップとなって総需要が減少する。29年に始まった大恐慌では、この減少に歯止めをかけられず、米国の国内総生産(GDP)が4年間で46%も消滅する事態に陥った。

 今の世界はまさに大恐慌の入り口にさしかかり、市場も企業も、消費者も真っ青になっている。

 ところがここに一縷(いちる)の希望がある。日本がこの問題に対して答えを出したからだ。

 90年代の日本は、バブルのピークから商業用不動産の価格が87%も下がった。株や土地の下落によって1500兆円もの国民の富が失われた。企業は95年ごろから多い時で年間30兆円の巨額の借金返済に動いていた。

 それでも日本のGDPは18年間、一度もバブルのピークを下回ることはなく、失業率も5%台で好転した。これは大変な成果である。

 では、なぜ日本は恐慌を防ぐことができたのか。

 政府が民間の貯蓄と借金返済分を借りて使うことを十数年間やってきたからだ。財政赤字は大きくなったが、その結果、国民所得(=GDP)は維持され、民間はその所得で借金返済を続け、2005年ごろからバランスシートはきれいになった。日本はどんなに資産価格が下がっても、正しい財政政策で国民所得を維持できることを人類史上初めて証明したのである。

 ところが、ここ十数年の日本の財政政策を評価しない人たちが内外を問わず大勢いる。彼らは「あんなに公共事業をやっても日本の経済は成長しなかった」とたたいている。しかし、この種の批判には実は暗黙の前提がある。

 「政府が財政政策をとらなくても経済はゼロ成長だった」という前提だ。「何もやらなくてもゼロ成長なのに、あれだけの公共事業をやっても成長しなかった。だから無駄なモノに金を使った」と批判する。だが、当時の日本は民間のデフレギャップ(貯蓄+借金返済)がGDP比で10%近くあり、数年でGDPが半分消えても不思議ではない状態だった。目前の大恐慌を防げたのは果断な財政政策をとったからなのだ。

 1930年代の大恐慌で米国が失った富はGDPの1年分といわれる。バブル崩壊後の日本では、株と土地だけでGDPの3倍もの富が吹き飛んだ。われわれが受けたダメージがいかに大きかったかがわかる。にもかかわらず日本は国民所得を維持することができた。この教訓を世界が学び、日本の成果を世界が理解すれば、危機に苦しむ各国国民の気持ちがどのくらい楽になるだろうか。

 くしくも現在の日本の総理大臣、麻生太郎氏は日本経済が抱える問題の本質を当初から完全に理解していた数少ない政治家であった。

 麻生首相は、もともと経営者なので、バランスシートの問題を理解している。借金返済の苦しさもその恐ろしさも理解している。また、民間が債務の最小化に向かっているときは中央銀行の金融緩和が効かなくなることも分かっている。だからこそ、麻生首相は財政出動の必要性を訴えているのだ。

 しかも外需が激減した今の日本は、少なくとも真水10兆円の政府支出の拡大が必要だ。減税をしても借金返済や貯蓄に回って景気対策にならないからだ。

 11月に行われた主要国と新興国20カ国による緊急首脳会合(金融サミット)でも麻生首相は日本の経験を訴え、財政出動に反対だった米国のスタンスを変えた。首脳声明にも財政出動の必要性を明記した。麻生首相は極めて重要な日本の成功例を必死で海外に伝えているのである。

 海外もようやく日本の成果に気付き始め、日本から学ぼうとしている。以前はあれだけ日本の公共事業と銀行への資本投入をたたいていた欧米諸国が、今やすべてこれらの政策を採用している。中国も57兆円もの景気刺激策を決めた。われわれはずっと正しいことをやってきたのだ。

 麻生首相は国内で、失言したとか、字を読み間違えたとか、想像もできない低次元の問題でたたかれているが、海外では中国の胡錦濤主席も米国のブッシュ大統領も必死に麻生首相の話を聞いて参考にしようとしている。日本の総理の話がこれだけ世界で注目されたことが過去にあっただろうか。

 日本にも優秀な政治家は多数いるが、海外に日本の経験を自身の言葉で、そして英語で話せる政治家はそう多くない。麻生首相は日本が世界を正しい方向へ導くためには不可欠な人物なのだ。

 字を読み間違えたくらいで、政権をつぶしてしまえという今のマスコミ世論は正気の沙汰(さた)ではない。

http://sankei.jp.msn.com/life/trend/081216/trd0812160255005-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/081216/trd0812160255005-n2.htm
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/081216/trd0812160255005-n3.htm

 膨大な債務を抱えても財政出動を行なってきた日本の不況対策は妥当だったという評価です。私も同様の評価です。公共投資が従来のような波及効果を失っているとはいえ、景気の下支え効果は健在であると考えており、日本の政策的対応は一定評価しています。

 麻生首相もこの点を理解しており、昨今の金融危機への対策として日本の経験を語っている姿を今日の記事は取り上げています。下賎な揚げ足取りで盛り上がっているマスコミも、麻生首相の積極的な活躍を受け入れなければならないでしょう。

 その一方で、財政出動を基軸とした不況対策の限界も指摘しなければなりません。最大の問題は裏返しとして政府債務が積み上がっていることです。景気が好転すれば、不況対策としての公共投資の意味も薄れますので、公共投資の削減を考えなければなりません。

 サブプライム金融危機が発生しなかったら、麻生政権は政府債務の縮小に本格的に取り組んだと思います。消費税を含めた増税を打ち出したのも債務縮小には必要な要素であるからでしょう。増税というとマスコミは脳髄反射的に批判しますが、これまでの財政出動の結果として積み上がった債務縮小には不可欠です。

 加えて、社会保障支出が今後もりもり増加することが確実である現状では、増税は不可欠ではなく、積極的に行なわれるべきだと思います。論点としては増税水準だけでしょう。この点を国民的に議論するためにも、これくらいの社会保障支出の増加にはこれくらいの増税が必要だ、という水準をいくつか提示するべきでしょう。

 話がそれましたが、いずれにしても批判的な議論からは政策の意義を見出すことはできないと思います。日本の不況対策は今や世界中が模範としており、実際に日本と同様の対策が実施されています。こうした日本の積極面をもっと正面から見据えていきたいものです。

 なお、敢えて指摘しませんでしたが、この記事は麻生首相を過度に大絶賛しています。リチャード・クーは麻生首相とのつながりが非常に深いのでしょう。逆に、持ち上げすぎて嘘くさくなっているところが皮肉的ですが。

中国が南京事件捏造写真を撤去

 今日は中国が南京事件捏造写真を撤去です。

南京大虐殺記念館、信憑性乏しい写真3枚を撤去
2008.12.17 21:04

 中国・南京市にある南京大虐殺記念館が、信憑(しんぴょう)性が乏しいと指摘されていた写真3枚の展示を取りやめたことが17日、政府関係者の話で明らかになった。「連行される慰安婦たち」「日本兵に惨殺された幼児たち」「置き去りにされ泣く赤ん坊」の3枚で、日本の研究者らは南京事件と無関係だと指摘していた。中国が同館の展示について“是正”に応じたのは初めて。ただ、30万人という犠牲者数の掲示や“百人斬(ぎ)り”など事実関係の疑わしい展示多数はそのままになっている。

 撤去された3枚の1枚は、南京攻略戦の前に撮られ、「アサヒグラフ」(1937年11月10日号)に掲載された写真で、農作業を終えたあと、兵士に守られて帰宅する女性や子供が写っている。これを中国側は旧日本軍が女性らを連行する場面と紹介し、「農村婦女は連れ去られ陵辱、輪姦、銃殺された」と説明していた。この写真は戦後、朝日新聞記者、本多勝一氏の著した『中国の日本軍』や中国系米国人作家のアイリス・チャン氏の著書『ザ・レイプ・オブ・南京』でも、残虐行為と関連づけて紹介されるなど、国内外で繰り返し誤用されてきたことで知られる。

 また、幼児たちの写真は、朝鮮現代史の学術書に掲載されたもので、匪賊(ひぞく)(盗賊集団)に殺された朝鮮の子供たちの遺体。赤ん坊の写真は米誌「ライフ」に掲載された報道写真で、撮影地は上海。いずれも南京の旧日本軍とは関係ないが、愛国主義教育の“模範基地”と指定される同館は「悲惨な史実」と紹介してきた。

 日本側は、事実無根だったと判明している“百人斬り”関係の展示品のほか、誤用や合成と指摘されている写真について、さまざまなルートを通じて撤去を求めてきたが、これまで同館は応じていなかった。

 85年に開館してからの同館の参観者の累計は1897万人。日本の修学旅行生らも訪問している。

http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/081217/acd0812172107008-n1.htm

 南京事件が「大虐殺」であった証拠としていた写真に信憑性がないことを中国がついに認めました。今回の撤去されたのはたった3枚の写真ですが、これにより「大虐殺」説は大きく修正を迫られることになるでしょう。

 中国は南京事件の真実を直視しようとしています。この背景には、日本側の粘り強い働きかけがあったことは確かでしょう。また、インターネットを通じて南京事件の史実が一般に知られるところとなり、中国の捏造行為への批判が高まったことも見逃せません。

 その一方で、中国が日本との関係を好転させようとしている動きの一環として把握するべきだと思います。世界におけるアメリカの覇権が動揺する現在、アジアの覇権を巡る動きが活発化しています。北朝鮮の核問題を話し合う六カ国協議はアメリカ抜きでアジアを運営できるのかを試す場所となっています。

 中国はアジアの覇権を担う姿勢を見せています。一方で、日本は対米従属を継続する方針を明らかにしています。アジアへのアメリカの介入を維持するために、北朝鮮の拉致問題や、韓国や中国との領土問題、歴史問題で、アジア諸国との対立を煽っています。

 アメリカのアジア介入は中国には不都合です。アメリカは台湾問題やチベット問題などで中国の動揺を誘ってきました。中国にとってはアメリカをアジアに引き止めようとする日本の行動は好ましくありません。かといって、それを批判することは日本との対立を深め、ますますアメリカの出番を増やしてしまいます。

 アメリカを排除するために、中国は日本との関係改善を模索しています。もちろん、これまでの対立点をすべて一挙に解消することはできません。日本への過度の譲歩と国内外に受け止められてしまいます。関係改善に向けた取り組みは徐々に進められています。その一環として今回の捏造写真の撤去があると言えるでしょう。

 いずれにしても、南京事件「大虐殺」説は今後、崩壊していくことは間違いないでしょう。「大虐殺」派はこの崩壊過程を真摯に受け止めなければなりません。自ら主張しているように、誤りを認めて謝罪してくれることを願っています。

派遣労働者解雇批判批判

 今日は派遣労働者解雇批判批判です。

派遣切り批判をあえて批判する

 自動車業界を中心に凄まじい数の非正規労働者がクビを切られている。自動車業界だけでも2万人を優に超える。それも契約期間の途中で、いきなり解雇だ。年の瀬を目前に突然、寒空に放り出される人々の憤激と不安はいかばかりであろうか。クビを切られる側がクビを切る側に、厳しい叱責を浴びせるのは当然のことだ。
 だがマスメディアが安っぽい正義感を振りかざして、 “派遣切り批判”を扇情的に繰り返す姿こそ批判されてしかるべきだ。 いざという時に雇用調整に踏み込むことは、企業として当然の経営判断だ。
 ところが日本の労働法制はそれを簡単には許さない。2000年代初めの不良債権危機当時、経営危機に瀕した大企業が続々とリストラをしたということになっているが、それは違う。日本の労働法制では正社員を一方的に解雇することはできない。当時「リストラ」と呼ばれた中身は「希望退職の募集」だ。倒産の危機が目前に迫っても、日本の企業は割増し退職金を払い、人件費を急増させるというプロセスを経なければ、雇用調整ができなかった。
 本来ならここで、日本の労働法制を真正面から見据えて、企業の解雇権と解雇される労働者の権利を守るための法改正や社会的なセーフティネットの構築をしなければならなかった。だがこれを素通りして、派遣をめぐる規制緩和だけが推し進められたところに問題の根があったのだろう。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20081212/119407/

 日本では正規労働者の解雇が法的に困難であるために派遣労働者が雇用調整の対象となっている、との内容です。もちろん、これは今さら確認する必要もないような事項です。日本の雇用問題を議論する際の基本認識です。

 ですが、記事にもあるように、この点を忘れて昨今の雇用情勢を扱う論者が意外に多いように思います。あたかも派遣労働者などの非正規労働者を解雇すること自体が悪いことであるかのようです。これは確かに論者の正義感ぶりが透けて見えます。

 企業は景気後退期に雇用を調整しますし、非正規労働者はその対象となることを前提とした雇用形態です。その意味で、日本の労働市場では当たり前のことが当たり前に発生しているだけだとの説明になるはずです。

 もちろん、解雇される労働者にとってみれば深刻な事態ですから、何かしらの対策が必要となります。ですが、解雇すること自体を批判するような議論には生産性がなく、建設的ではないと思います。

 なお、今日の記事には2ページと3ページがあります。が、こちらは取り上げるような内容ではなかったので、最初の1ページ目だけを引用しました。

覚書 081213

佐藤令・大槻晶代・落美都里・澤村典子「主要国の各種法定年齢 選挙権年齢・成人年齢引き下げの経緯を中心に」国立国会図書館、調査及び立法考査局、基本情報シリーズ2、2008年12月。
・選挙権年齢の世界の趨勢は18歳であるといってよい。調査した189か国・地域のうち、18歳までに(16、17歳含む)選挙権を付与しているのは170か国・地域となっており、割合にして89.9%に上る。G8各国ではわが国以外すべての国が18歳、OECD加盟国30か国ではわが国と韓国(19歳)を除くすべての国が18歳までに選挙権を付与している。近年の注目すべき動きとしては、2007年6月にオーストラリアが国政レベルの選挙権を18歳から16歳に引き下げており、ドイツのように一部の州が地方選挙の選挙権年齢を先行的に16歳にしている例もある。イギリスやドイツでは16歳への引き下げが議論されている。選挙権年齢の18歳への引き下げは19世紀から20世紀初頭にかけて、まず南米諸国で行われた。欧米では1970年代に引き下げられ、アフリカ、アジア及びカリブ海の旧植民地諸国では1970年代から1990年代にかけて引き下げられている。一般的に選挙権年齢の引き下げの背景には、社会的変化と政治的な要因がある。「成人」は政治的成熟の基準となることが多く、社会的変化によって成人年齢が引き下げられるのに伴って選挙権年齢の基準となることが多い。1970年代の西側先進諸国や、民主化で直接選挙を導入した時のアジア、アフリカがその例である。その一方で、第二次世界大戦後の東欧の共産圏や1950年代末から1970年代にかけて革命があったキューバ、ニカラグア、イランなどは、選挙権年齢の引き下げが純粋に政治的な要因によって行われた例である。政治体制が転換する際には新しい政治体制の「民主的」な側面を強調しようとして、政治参加の有資格者を拡大する傾向にあり、そのために選挙権年齢が引き下げられると言われている。ソビエト連邦や東欧等の旧共産主義諸国が、18歳選挙権を欧米諸国よりも早い時期に導入した理由について、「政治教育的な意味あいが含まれているのではなかろうか」と推察している資料もある。
・大陸法系諸国の法制のルーツであるローマ法は、成人年齢を25歳としていた。一方、英米法系諸国の法制のルーツであるコモンローでは、成人年齢を21歳としていた。現在では、成人年齢は選挙年齢の引き下げの議論と密接な関連を有し、選挙権年齢とともに成人年齢を18歳とする国・地域が多いが、アメリカの一部の州、カナダの一部の州、韓国等のように、異なる年齢規定を有する国・地域もある。
・諸外国の立法例は、婚姻適齢の高低、男女の差の有無、適齢引き下げの特例の有無、成人年齢との関係等において多様である。世界的潮流として、近年の改正は、婚姻適齢の男女の差を無くす傾向にある。また、親の同意なし婚姻できる年齢と成人年齢とを一致させる傾向にあり、親の同意や裁判所の許可等の条件を付して例外的に適齢の引き下げを認める国・地域が多い。
・近代までは、刑事手続きにおいて成人と少年を区別して扱う現在のような裁判制度はなかった。そのため、刑事責任能力がないとされる年少者は刑罰を免れるが、刑事責任能力があるとされる年齢の者であれば、現在では少年として扱われ得る者であっても、成人と同じ裁判所で扱われた。しかし、近代になると、少年には、その人格と環境とに応じて成人と異なる処遇をすべきであるとの考え方が出てきた。1899年には、アメリカのイリノイ州において、世界に先駆けて少年裁判所の制度が確立された。これは、非行少年は保護に欠けた少年であり、これらの少年に対しては、親に代わって国が保護を与えるべきという国親思想(oarens patriae)に基づいたものである。その後、少年司法制度は世界中に広がり、少年として扱うことができる年齢は多くの国・地域で引き上げられていった。近年は、少年を18歳未満の者とする国・地域が多くなっている。しかし、ドイツのように、特別な事情がある場合には少年の年齢の上限を拡大し得る制度を設ける国がある。
・イギリスにおいて選挙権年齢引き下げの議論が行われたのは、1960年代半ばから後半にかけてのことである。労働党のウィルソン首相が選挙制度改革を下院議長に対して諮問したのを受けて、下院議長は、1965年5月、1949年国民代表法(Representation of the People Act 1949)の改正を審議する「選挙法に関する審議会(Conference on Election Law、通称Speaker’s Conference)」を発足させた。選挙人登録、選挙費用、選挙執行及び投開票など多岐にわたる諮問事項の筆頭に挙げられていたのは21歳となっている選挙権年齢引き下げの問題提起であった。その一方で、選挙権年齢の問題とは別に、従来コモンローによって21歳となっていた成人年齢は何歳が妥当であるかを諮問するために、政府は「成人年齢に関する委員会(The Committee on the Age of Majority、通称Latey Committee)」を1965年7月に設置した。2年にわたる審議を経て、成人年齢に関する委員会は1967年7月に、成人年齢を18歳に引き下げることが妥当であると政府に答申した。この議論の背景には、青少年が無責任又は反社会的である場合、それは責任を付与されていないことに一因があり、思いきって責任を付与することが青少年の無責任を療治し、責任感を涵養する一手段として実効性がある、という考え方がある。議会での法案審議を経て、1969年4月に1969年国民代表法(Representation of the People Act 1969)が、同年7月に1969年家族法改正法(Family Law Reform Act 1969)が制定され、選挙権年齢と成人年齢はともに18歳に引き下げられた。
・婚姻適齢は、1929年に婚姻適齢法(The Age of Marriage Act 1929)が制定されて以降、男女とも16歳となっているが、現行法である1949年婚姻法(Marriage Act 1949)第3条は、18歳未満の者が婚姻しようとする場合には、親の同意等が必要であると規定している。
・1908年児童法(Children Act 1908)により、16歳未満の者を成人の刑事手続きと区別して扱う少年裁判所(juvenile court)を初めて設置した。1927年に若年犯罪者に関する委員会は、1908年法以降の経験から、17歳未満の者を少年裁判所の管轄権に係属させるように勧告した。この勧告は、1933年児童少年法(Children and Young Persons Act 1933)に取り入れられ、同法では少年の年齢を17歳未満とし、1969年児童少年法(Children and Young Persons Act 1969)でも、少年裁判所が17歳未満の者についての裁判権を保持しつづけた。1991年刑事司法法(Criminal Justice Act 1991)は、少年裁判所を青少年裁判所(youth court)に名称変更し、対象とする年齢を18歳未満に引き上げた。これは、17歳は子供から大人への移行段階に当たり、その年齢層の持つ多様性から、少年と同等の扱いを可能にするためのである。

伊藤さゆり「12月 BOE 金融政策委員会:100bpの追加利下げで政策金利は2%に」ニッセイ基礎研究所『経済・金融フラッシュ』No.08?125、2008年12月5日。
・イングランド銀行(BOE)は、4?5日に金融政策委員会(MPC)を開催し、11月の150bpの大幅利下げに続く100bpの利下げを決めた。利下げ後の政策金利は2%となった。
・今回の声明文では、「景気後退のペースは加速」しており、「公的資金注入や資金調達支援、流動性強化などの対策でもマネー・信用市場の緊張は続いているため」、「一層の対策がなければ貸出は正常化しない」との判断が示された。また、11月の「インフレ報告」での見通し後の変化のうち、利下げとポンド安はインフレ上押し圧力、一層の景気後退と商品価格の下落は下押し圧力であり、プレバジェットで明らかにされた総額200億ポンド(GDP比1.4%)の景気対策は「予測期間中のインフレ率に大きな影響を及ぼすものではない」とした上で、「中期的に2%のインフレ目標を下回るリスクが高まった」と追加利下げの理由を説明した。
・前回のMPC以降も、外部環境は一段と悪化し、イギリス国内でも住宅市場の調整がさらに進行し、雇用・所得環境と悪化とCPIのピーク・アウト(9月前年同月比5.2%→10月同4.5%)が一層鮮明になっている。

投資企画部運用戦略グループ「Monthly Economics」三菱UFJ信託銀行『調査情報』2008年12月号。
・図表のみ。

山崎加津子「サルコジ、ブラウン、メルケル:金融対応で明暗?」大和総研ホールディングス、2008年12月9日。
・昨今の金融危機への対応策で、サルコジとブラウンは支持率を回復させた。一方、メルケルは短期的かつ迅速な対応策には消極的であり、批判が高まりつつある。

「イギリス 付加価値税の引き下げを軸に総額200億ポンド 政府の景気刺激策」労働政策研究・研修機構『海外労働情報』2008年12月。
・金融危機の影響で、イギリス経済は景気後退と雇用情勢の急速な悪化に見舞われている。
・統計局が11月に公表した7?9月期の雇用関連統計は、前月の発表分に次ぐ全般的な悪化を示している。失業率は5.8%で前期(4?6月期)から0.4ポイント上昇、失業者数は前期から14万人増の182万人と11年ぶりの高い水準に達した。解雇者数も、前期比2万9000件増の15万6000件と増加が続いている。直近の10月の求職者給付受給者数は、前月から3万6500人増の98万900人となった。地域別の失業率は、ウェールズの6.7%やイングランドの6.0%に対して、雇用状況が未だ好調なスコットランドや北アイルランドでは4%台と相対的に低く、景気後退の影響は地域毎にも異なる状況がうかがえる。とりわけ、失業率が急速に上昇しているウェールズやイングランド北部では、建設業や製造業の不振が大きく影響しているとみられる。
・財務省が11月下旬に発表した次年度の予算編成方針(pre-budget report)には、200億ポンド規模の景気対策が盛り込まれた。中心となるのは、12月から2009年末まで実施する付加価値税率の引き下げ(17.5%から15%へ)である。これは年間125億ポンドに相当する。減税による消費の活性化が狙いだ。併せて、低所得者層の税控除額の引き上げや児童手当の増額、年金受給者への手当ての支給など、景気低迷が特に影響を及ぼしやすい層への支援をはかる。また、公共投資30億ポンドを2010年度分から前倒しして住宅・学校の建設や道路整備などを実施するほか、中小企業の資金調達に対する政府保証や政府調達への参加の促進、法人税率の引き上げの延期など、企業向けの支援策を講じる。雇用面では、景気後退の影響が著しい産業部門で失業の危機にある人々の再訓練や、支援の必要な離職者に対して優先的に職業訓練を実施するほか、職業紹介や求職者給付などの窓口業務を行うジョブセンタープラスにおけるサービスの強化、また大企業とのパートナーシップによる雇用促進などに13億ポンドを投じる方針を示した。関連して、ジョブセンタープラスの人員を6000人増員する計画が、すでに雇用年金省より打ち出されている。離職者の円滑な再就職を支援することにより、国内で未だ60万件を超える求人の充足に結び付けたい考えだ。政府は、年15万ポンド超の高額所得者に対する所得税率を、現在の40%から2011年以降の45%に引き上げることなどで赤字を補うとしている。

木村誠希「マンチェスターにおける混雑賦課金制度について」自治体国際化協会『自治体国際化フォーラム』2008年10月号。
・混雑賦課金制度(コンジェスチョン・チャージ)は、マンチェスター市を中心とする10市で構成されるグレーター・マンチェスター地域の中心街を走行する車について一日で最高5ポンドの料金を課すという制度です。賦課されるのは、月曜から金曜の、午前7?9時30分までに市街地へ向かう車、午後4?6時30分までに市街地から出る車です。導入の主な目的は、市街地での渋滞緩和そのものに加えて、コンジェスチョン・チャージを課すことで得た資金を鉄道網などの公共交通機関の改善に利用することにあります。
・ロンドン、マンチェスターともコンジェスチョン・チャージによって得た資金を公共交通機関改善のために利用するという点では同じです。ただし、ロンドンにおいては徴収した資金の中から公共交通機関改善のための投資に回すのに対して、マンチェスターにおいては先に公共交通機関改善のための投資を行い、この投資した資金の回収手段としてコンジェスチョン・チャージが位置付けられている点が異なります。
・BBCがマンチェスター地域で2008年6月に実施した世論調査によると、62%が導入に反対しており、86%が住民投票を求めているという結果が出ました。反対の主な理由としてガソリン価格高騰による負担に加え、コンジェスチョン・チャージ導入によってさらに自動車利用のコストが高くなることが上げられていました。

松野下良子「活力あるロンドン・癒しのロンドン」自治体国際化協会『自治体国際化フォーラム』2008年10月号。
・ロンドンにはたくさんの人種がいる。ロンドンにはたくさんの公園がある。

「日本における最低賃金の経済分析」労働政策研究・研修機構『労働政策研究報告書』No.44、2005年10月14日。
・本報告書は、厚生労働省労働基準局賃金時間課より要請を受けた「産業別最低賃金制度に関する調査研究」の結果を取りまとめたものである。厚生労働省からの研究要請の主な内容は、大きく分けて次の2点である。1つは統計資料を用いた最低賃金に関する実態分析であり、もう1つはアンケート調査による最低賃金制度に関する雇い主の認識状況の把握である。前者の統計資料を用いた最低賃金に関する実態分析の中心は、地域別最低賃金額近辺及び産業別最低賃金額近辺における賃金の張り付き状況の確認である。統計資料としては、2003年『賃金構造基本統計調査』の個票を用いることによって賃金の張り付き状況を確認した。後者のアンケート調査は、雇い主に対して、地域別最低賃金制度・産業別賃金制度に関する認識状況、雇用者の賃金決定に際しての最低賃金の影響を中心として調査を行った。
・日本における最低賃金に関する研究業績の多くは、最低賃金の賃金下支え効果に関するものである。最低賃金が賃金の下支え効果を有するという結果とそうではないという結果に分かれるが、個票を使った詳細な結果をみる限り、最低賃金の賃金下支え効果は地域によって異なるという見方が妥当しているようである。
・2003年の『賃金構造基本統計調査』の個票を用いた分析によれば、一般労働者を対象とした場合には、どの都道府県も地域別最低賃金額付近での賃金の稠密な張り付き状況は確認できない。しかし、パートタイム労働者を対象とした場合には、状況は大きく一転する。沖縄県、北海道、山口県、福岡県等では、多くの労働者が地域別最低賃金額近辺に集中しており、つまり、最低賃金の賃金下支え効果があると考えられる。一方、東京都、山梨県、滋賀県等の地域では最低賃金額近辺における労働者の集積状況が他県に比べて弱く、労働者が地域別最低賃金額近辺に集中している状況は確認できない。続いて、低賃金労働者と年齢の関係の検討から、若年者及び高齢者で低賃金者の割合が高いことが明らかになった。その中でも特に、女性のパートタイム労働者でそれらの割合が高くなっている。最後に、最低賃金未満の賃金を受け取っている労働者がどのような属性を有しているのか検討している。性別にみると女性で、就業形態別にみるとパートタイム労働者で、年齢階層でみると若年者もしくは高齢者で、勤続年数の長短でみると勤続年数の短い者で、学歴でみると低学歴の者で、企業規模でみると小企業の者で、最低賃金未満の賃金を受け取っている者の割合が高くなっている。これらの結果は予想されるところであるが、計量分析の結果は多少われわれの期待を裏切る結果となっている。産業別にみると、金融・保険業等で最低賃金未満者の割合が高く、鉱業等でその割合が低くなっているのである。
・産業別最低賃金のうち、鉄鋼業、電気機械器具製造業、各種商品小売業の3産業について、産業別最低賃金額近辺における賃金の張り付き状況について検討した結果、地域別最低賃金の場合と同様に、一般労働者については最低賃金額近辺に賃金が集積している状況は確認できない。パートタイム労働者を対象とした場合、業種により結果は大きく異なっている。鉄鋼業の場合、対象となった県は少ないものの、その多くの県で産業別最低賃金額近辺に賃金が集積している状況が確認できた。電気機械器具製造業の場合にも、多くの県で産業別最低賃金額近辺に多くの労働者が集積している状況が確認できている。各種商品小売業の場合には、産業別最低賃金額近辺における張り付き状況のパターンが3つに分類されている。3業種についても、パートタイム労働者の賃金分布と産業別最低賃金額の間には様々な関係が考えられることから、産業別最低賃金制度の有効性を論じる際には、対象となる業種および地域について詳細な検討を行う必要のあることが示唆される。また併せて、産業別最低賃金の設定により当該地域の賃金底上げが図られ、産業別最低賃金を設定していない地域との間に産業間賃金格差が生じるかどうかについて、各種商品小売業を対象業種として、『賃金構造基本統計調査』の個票を用いた賃金関数の推計を行った結果、産業別最低賃金を設定している県の方がそうでない県に比べて平均賃金が高いという結果が得られている。
・日本では最低賃金が労働需要行動に制約を与えており、最低賃金適用部門で吸収しきれない労働者が最低賃金未満者として顕在化している。
・地域別最低賃金額を知っていると回答した事業者は46.6%であるが、調査票に記入してもらった金額と実際の地域別最低賃金額とを照合した結果、本当に地域別最低賃金額を知っている事業者は24.2%でしかなかった。
・覚書注:日本の最低賃金について実情を詳細に調査している研究であると評価できる。雇用や賃金をめぐっては、ワーキングプアとか非正規労働とかフリーターとか、言葉だけが先行してイメージ中心の議論が行われている論壇状況を踏まえると、まずは本研究を参考に共通の認識土台を形成することが不可欠の作業であろう。政府大企業批判のイデオロギー的議論が跋扈しすぎである。なお、本研究の限界を指摘しておけば、経年的な分析がない点である。最低賃金額近辺での労働者が多い地域や産業が、以前からそうだったのか、ある局面からそうなったのか、に立ち入らないと、一時的な現象としてのみ理解できてしまう。政策的な対応を検討するためにも、歴史的な接近が必要となるだろう。

麻生首相の失言

 今日は麻生首相の失言です。

 麻生首相は昨今、2つの失言でマスコミから攻撃されました。1つ目は、11月19日にあった全国都道府県知事会議での「医師には社会常識が欠落している」という発言です。2つ目は、11月20日の経済財政諮問会議で「たらたら飲んで食べて何もしない人の分の金を何で私が払うんだ」という発言です。

 マスコミの攻撃を受けて、多くの国民が「酷いことを言う首相もいたもんだ」との印象を受けたことだろうと思います。私も同じような印象でした。もっとも私は、それを首相攻撃の材料にしようという高尚な思いつきには至りませんでしたが、まずいことを言ってしまったなと心配になりました。

 その一方で、麻生首相がここまで不用意な発言を本当にしたのだろうか、と疑問にも思いました。そこで、それぞれの発言の真意を探るべく、実際にはどのような文脈で言ったのか、議事録を調べてみました。失言と攻撃されている発言について、自分の目で確かめてみようということです。

政府主催全国都道府県知事会議平成20年度会議録(PDF)
32〜33ページ
 それから、堂本さんの言われた地方の病院、これは群馬の話と基本的には同じなんだと思うんですけれども、これは医者の確保という話なんですが、自分で病院を経営しているから言うわけじゃないけど、はっきり言って大変ですよ。もっとも社会的常識がかなり欠落している人が多いとおもっとかなきゃいかんわけでしょうが。うちは何百人と扱っていますからよくわかりますよ。とにかくものすごく価値観が違いますから。それはそれで、そういう方をどうするかという話を真剣にやらないと、医者の中でも全然違いますから。ほんとうに何百人と扱われたらわかると思いますけれども、すごく違います。
 そういったのをよくわかった上で、これはほんとうに大問題なんであって、子供、いわゆる小児科、それから婦人科というところが猛烈に問題になっていますけれども、これは急患が多いからですね。皮膚科なんていって、水虫で急患はいませんから。だから、そういった意味では、急患が多いところはみんな人が引く。だったら、その分だけ点数を上げたらと。ほかのところと点数を全然変えたらどうですとか、これはいろいろ言っていくと問題点がいっぱい指摘できて、今、医師会もいろいろ、厚生省もといって、実はもうこなしていけば5年ぐらい前、もっと前かな、僕が政調会長のときにこの話をしたんだと思うんですけれども、必ずこういうことになりますよと申し上げて、そのままずっと両方でやられて答えが出てこないままになっていますので、これは正直、これだけ激しくなってくれば、責任はおたくら、お医者さんの話じゃないんですかと。しかも、お医者の数は減らせ、減らせと、多過ぎると言ったのはどなたでしたという話も申し上げて、この点につきましては私どもとしてかなり、党としても結構激しく申し上げた記憶があります。
 そういった意味では、ぜひこの問題につきましては、臨床研修医制度というものの見直しなどにつきましては、改めて考え直さないかんと思いますし、大学の医学部の定員につきましても、過去最大限まで増やすという話をしておりますが、これは出てくる医者は今から先の話ですから、目先のところをどうするのかというところで、医師不足の声というのは真摯に受けとめないかんところだと、私どももそう思っております。

経済財政審問会議平成 20年第25回経済財政諮問会議議事要旨(PDF)
11ページ
 67歳、68歳になって同窓会に行くと、よぼよぼしている、医者にやたらにかかっている者がいる。彼らは、学生時代はとても元気だったが、今になるとこちらの方がはるかに医療費がかかってない。それは毎朝歩いたり何かしているからである。私の方が税金は払っている。たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金を何で私が払うんだ。だから、努力して健康を保った人には何かしてくれるとか、そういうインセンティブがないといけない。予防するとごそっと減る。
 病院をやっているから言うわけではないが、よく院長が言うのは、「今日ここに来ている患者は600人ぐらい座っていると思うが、この人たちはここに来るのにタクシーで来ている。あの人はどこどこに住んでいる」と。みんな知っているわけである。あの人は、ここまで歩いて来られるはずである。歩いてくれたら、2週間したら病院に来る必要はないというわけである。その話は、最初に医療に関して不思議に思ったことであった。
 それからかれこれ30年ぐらい経つが、同じ疑問が残ったままなので、何かまじめにやっている者は、その分だけ医療費が少なくて済んでいることは確かだが、何かやる気にさせる方法がないだろうかと思う。

 麻生首相の発言は実際には以上のような内容でした。マスコミはごく一部を切り取って報道していたのです。こうした切り取り報道は今に始まったことではありませんが、今回も同じ手段が使われたことが確認できました。事実を報道するが真実は報道しないマスコミの常套手段です。

 麻生首相の全体的な発言を見て、これをどのように評価するかについては議論があるべきでしょう。無理に首相の発言を支持する必要はありません。しかし、マスコミが切り貼り報道で印象操作をしているような、失言だと攻撃すべき内容ではないと思います。むしろ、確かにその通りだと納得できる発言ではないでしょうか。

 マスコミが印象操作によって世論誘導するはいつものことです。マスコミの一面的な主張が世論一般だと喧伝し、真実であるかのように国民側に信じ込ませることも常道です。私たちはついうっかりすると、マスコミの情報を鵜呑みにして、同じ主張をすることが正義だと考えてしまいます。マスコミ以外でも政治団体や運動団体は同様の手法を駆使してきます。

 だからこそ、まずは自分で調べてみる作業が必要となります。さすがに、マスコミが報道するすべてのことについて調べることは難しいでしょうが、気になった問題や、重大だと考える問題については、ネットを活用して自分なりに調べてみましょう。マスコミが哀れに思えてきますよ。

『戦後史のなかの日本社会党』

 今日は原彬久『戦後史のなかの日本社会党 その理想主義とは何であったのか』(2000年、中公新書)を読みました。

 日本社会党はいわゆる55年体制の一翼を担う政党でしたが、一度も単独政権に就くことなく、半世紀後の現在では事実上消滅している政党です。本書の課題は、日本社会党の誕生から崩壊までを一気に俯瞰することにあります。

 日本社会党の直接的な起源は戦前の無産政党です。1925年に日本初の近代的社会主義政党を目指してつくられた農民労働党の後身として、労働農民党が1926年に創設されます。これらが分裂した3つの無産政党、日本無産党系、日本労働党系、社会民衆党系が日本社会党の源流です。

 これら3つの勢力が結集して日本社会党は1945年の11月に結党されます。が、3つの勢力は戦前からの対立を解消できていませんでした。それは、日本無産党系は左派的な思想、つまり、階級闘争の政党であった一方で、日本労働党系や社会民衆党系は国民政党であった、という対立です。

 1947年の総選挙で日本社会党は第1党となり、片山連立政権が成立しますが、左派は事実上入閣を許されず、党内で野党となっていました。続く芦田連立政権でも左派の軽視は続きました。両派の対立はサンフランシスコ講和条約への賛否をめぐって激化し、ついに1951年、日本社会党は左派と右派に分裂します。

 分裂後、左派は国内での再軍備論争において非武装中立論を唱えることで勢力を伸ばしました。他方で、右派は再軍備に対して統一的な立場を示すことができず、支持を拡大することができませんでした。こうした左派が優位である状況のなかで、1955年に両派は再び日本社会党として統一を果たしました。同年には保守合同で自由民主党が結成され、55年体制が成立します。

 55年体制の下、日本社会党には2大政党制の一端としての期待が集まりました。しかしながら、勢力が伸び悩んでおり、1958年の総選挙で自民党287議席に対して日本社会党166議席に迫ったのを最高到達点として、野党第1党の地位に甘んじることになりました。日米安全保障条約改定に臨み、日本社会党は条約破棄を掲げて勢力拡大を目指しますが、1960年に同条約は自然成立してしまいます。

 1960年代以降、日本社会党は停滞の時代を迎え、やがて低落していきます。安保闘争敗北以降は、非武装中立が日本社会党の基本路線となりました。しかし、対外行動としては、ソ連や中国、北朝鮮などの共産諸国との関係を重視する一方で、アメリカとの関係は一貫して敵対的です。基本路線である非武装中立のうち、中立は自らの行動によって空洞化していきました。

 日本社会党の凋落を決定的にした契機は、皮肉にも政権に就いたことでした。1993年総選挙では自民党勢力が分裂し、新生党が60議席、新党さきがけが13議席、日本新党が35議席を獲得する一方で、自民党は228議席と定数511議席の過半数には届きませんでした。日本社会党も77議席と数を大きく減らしますが、非自民・非共産の8党派で組織された細川連立内閣に与党第1党として参加することになります。

 政権に参加することで、日本社会党は自らの基本路線が貫徹できない事態に直面します。1993年11月に自衛隊法改定が閣議決定されます。これは在外邦人救出のために自衛隊の海外派遣を認める改正でした。これに対して日本社会党は政権維持を理由に容認しました。非武装中立のうち、ついに非武装の部分も空洞化してしまったのです。

 細川連立政権崩壊後、羽田連立政権を経て、1994年に成立した村山連立政権では、日本社会党党首であった村山首相が、日本社会党の党是を否定します。つまり、日米安保と自衛隊の是認、国旗国歌の尊重、非武装中立の破棄、を首相就任直後の国会演説で宣言したのです。後にこれは日本社会党の党大会でも追認されました。

 1995年の参院選で日本社会党は改選議席数41のうち獲得議席数16と惨敗します。これを受けて村山連立政権は1996年頭に総辞職し、その直後に開催された党大会で日本社会党は名称を社会民主党に変更しました。この際、旧来の右派や中間派を中心に政党を飛び出して、同年に民主党を結成します。社民党は旧来の左派が支配する政党となりました。

 1996年総選挙に社民党は35議席の勢力で臨むことになりました。しかし、その勢力の衰えは止まらず、総選挙の獲得議席数15となりました。55年体制の下で野党第1党として活躍してきた日本社会党は、ここにその名前とともに終焉を告げたのです。

 本書では日本社会党の凋落要因について、同党が掲げる非武装中立が理想主義に過ぎており、それが現実離れしていたことを指摘しています。非武装中立の非現実さは日本社会党が政権参加した際に、これを破棄した事実に端的に現れています。つまり、政権党として直面する現実にその理想主義が通用しなかったのです。

 55年体制の下では、日本社会党は政権党ではなく野党でした。この図式のおかげで、日本社会党の理想主義は現実に遭遇することなく、維持されることになりました。理想主義の限界は1960年安保闘争の敗北によって早くも示されていましたが、その後も55年体制は継続され、1990年代前半の連立政権参加まで温存されました。

 本書では明示されていませんが、日本社会党の限界は結成当初にあったと私は思いました。つまり、左派を抱え込んだことです。非武装中立という理想論に固執する左派を切り捨て、右派や中間派を中心とした政党を結成することができれば、日本の社民主義政党として成長できたのではないかと思います。

 なお、本書では日本の福祉国家成立に関して日本社会党の果たしが役割が大きく捨象されています。こうした側面を重視すれば、本書は結論ありきの一方的な叙述であると評価することもできます。しかしながら、日本社会党の挫折、つまり、非武装中立という理想主義が現実に突き当たって消えていく過程を鮮明に描いたという到達点の魅力は否定できません。今後の日本政治を展望していく上で、本書は参考にすべき必須の業績であると思います。

『素描・1960年代』

 今日は川上徹・大窪一志『素描・1960年代』(2007年、同時代社)を読みました。

 1960年代と言えば、左翼運動や学生運動が日本中に広がり、破壊活動に勤しんでいた時代です。その後、それらの運動への一般的嫌悪感を人々の間に醸成し、その悪印象が現在まで続いているという点では、日本の分岐点となった時代と言えるでしょう。

 本書の著者たちは1960年代に学生運動の担い手であった人々です。具体的には、共産党=民青系の学生運動を実際に展開していた人々です。さらに詳細に言えば、本書の中軸的な著者である川上徹は民青の幹部として活躍しながらも、1970年代初頭に分派活動を理由に除名された人です。

 学生運動のど真ん中にいた川上が、大窪一志を進行役として、自らの民青での体験を媒介に1960年代を描き出そうとする試みが本書です。民青とは共産党(日本共産党)の青年組織である日本民主青年同盟の略称です。これは戦後における共産党直系の学生組織です。

 1940年代末に民青を含む全日本学生自治会総連合(全学連)が結成され、学生運動は全国的に統一されます。これを主として共産党が指導していました。1950年以降は全学連を中軸に学生組織が分裂していきます。学生運動に対する共産党の指導のあり方や、共産党自体の方針のあり方を巡って、独自運動路線を展開しようとします。

 民青内部でも共産党への対抗勢力が形成されていきます。民青幹部であった川上は、1970年ごろから共産党の方針に不信を抱き始めます。発端は1970年に共産党が議会主義へと大きく転換したことでした。勢力拡大と学習が民青の基本的な活動となったのです。

 共産党の路線転換に疑問を感じた人は川上のほかにも民青内部にいました。彼らが1つの集団として形成されたのは1971年の夏です。当面の目標は民青への年齢制限導入を撤回させることでした。年齢制限によって大量の幹部の首を切り、共産党の新路線を民青に強要しようとしていることを見抜いたためです。

 共産党は年齢制限の導入を1972年6月の全国大会で決議することを目指していました。その準備となる会議を同年5月に開催し、そこに共産党の代表者を送り込んで決着を図ろうとします。川上たちは事前に根回しをして、この会議で他の参加者たちに共産党の方針へ質問や疑問をさせるように説得して回ります。

 通常は誰も何も発言せず、全員が意義なしで一致することが黙契の会議です。しかし、5月の準備会議では参加者達が次々と疑問や質問を発言しました。共産党の代表者は何度も立ち往生します。大成功です。結果、何も決められないまま会議は終了しました。川上たちの勝利です。

 しかしながら、彼らの活躍もそこまででした。準備会議の直後に催された慰安旅行の復路、彼らが乗ったバスはそのまま共産党本部へと直行し、1名ずつばらばらに拘束されます。そこで厳しい査問を受けて除名され、対抗勢力は徹底的に解体されました。1971年夏から1972年5月までのわずか10ヶ月の活動でした。

 本書が対象とする今回の事件は1970年代初めの出来事です。これは1960年代の延長線上で考えなければなりません。1960年代は学生運動の観点から見れば、全学連という統一組織に終結した人々が、各自が理想とする運動路線を見出し、実践していった時期だと思います。その動きが民青に波及したのです。

 ただ、本書の場合、共産党を否定するなかで展開していった1960年代の運動路線とは異なり、あくまで共産党の内部で対立していただけでした。好意的に解釈すれば、共産党に対して抱いた疑問、いや、彼らなりの悩みを理解してほしかっただけではないかと思います。

 真っ当な議論をしようとした彼らを、しかしながら、共産党は分派活動だとして排除しました。共産党組織を貫く原理である民主集中制では全体方針に対抗する勢力は無差別的に分派だとみなされるのです。著しく前近代的な組織ですが、良くも悪くもこれが共産党なのでしょう。

 1960年代に暴れまわった学生運動は共産党への対抗から生じた勢力でした。意地悪く言えば、共産党が彼らを包摂できる枠組みを提示できなかったために分裂してしまったのでしょう。勢力拡大を追及している一方で、従順ではない身内を分裂させ切り捨てています。当時の学生運動はそうした矛盾が原動力であったのでは、と本書を読んで感じました。

『裁判員制度の正体』

 今日は西野喜一『裁判員制度の正体』(2007年、講談社現代新書)を読みました。

 本書の著者は元判事の大学教員です。したがって、法曹界にいた人が裁判員制度について語ることが本書の主要な内容となっています。本書は法律の専門家からも評価が高いそうです。

 とはいえ、あくまで法曹界からの裁判員制度に関する議論を展開していますので、基本的に至極批判的な叙述が満載の本です。裁判員制度に対する批判意見とはどういうものかを知るには良い本でしょう。

 本書を貫く立場は裁判所に一般市民の感覚や意見は必要ないというものです。法律専門家の認識を大きく是とした上で、そこに一般市民の認識を取り入れることを正面から拒否しています。

 裁判員制度導入の理由として、裁判への社会常識の反映があります。本書では冒頭でこれが否定されます。その一方で、裁判に一般市民を巻き込むことが非常識であることが最後まで延々と語られます。

 従来の裁判ではなかったことをしようとしているのが裁判員制度です。したがって、従来の裁判における常識にはそぐわないことは理論的に考えても当然のことです。それを非常識だと一刀両断しています。

 やはり法曹界の人間は一般市民の感覚とは乖離してしまっているなと痛感させられました。本書は逆説的に裁判員制度の必要性を訴えていると言えるでしょう。

 それ以外で目に付いたのは次の2点です。1つ目は、陪審制や参審制との比較です。イギリスやアメリカで採用されている陪審制では陪審員は有罪か無罪の判断を裁判官抜きで行います。参審制はドイツやフランスの制度であり、こちらでは参審員は裁判官とともに有罪無罪の判断だけでなく、法適用、量刑も判断します。日本ではアメリカの陪審制に対する認知度が高く、裁判への市民参加というと陪審制と思われがちですが、裁判員制度は陪審制よりも参審制のほうに近い制度です。

 もう1つは、裁判員の断り方です。本書ではいくつか合法的な断り方が紹介されていますが、最も面白かったのは、裁判当日に酒を飲んでいくことです。酔っ払いは裁判員の解任理由になるようです。手っ取り早くて効果的な方法だと思いました。画期的です。

 ただ、こうした方法を堂々と公開しても良いものなのでしょうか。国旗国歌法が制定されているにも関わらず、学校の始業式や終業式で国歌を歌うなと指導する教師は社会的にも法的にも罰せられます。同じく糾弾されても文句は言えないでしょう。もっとも、裁判員制度は一般市民の間でも批判が広がっていますので、そうした認識を根拠とすれば罰せられないでしょうが。……社会常識の反映という裁判員制度の導入理念がますます至極適切に思えてきました。

 なお、私は裁判員制度を是非とも導入すべきだと思います。節々で繰り返し言っていますが、裁判に一般市民の感覚を持ち込むべきだと考えるからです。

 ただし、現在の裁判員制度は対象となる事件が深刻すぎる点が問題でしょう。死刑や無期懲役を判断しなければならない事件にいきなり裁判員制度を導入するのではなく、まずは身近な窃盗や痴漢などから導入すべきです。そこでの経験を踏まえて、次第に重大事件へと対象を広げていく慎重さが必要ではないでしょうか。

 私は裁判員に選出されたら積極的に裁判に参加したいと思います。

覚書 081206

近藤哲夫「英国FSAに見る規制制定プロセスの柔軟性」『知的資産創造』2008年10月号。
・ベターレギュレーションでは、規制は、透明で説明責任に裏付けられ、かかる負担はその効果に見合い、一貫性があり、規制の対象に焦点を当てたものであるべきとされる。ベターレギュレーションは、規制監督の当事者による不断の改善活動である。
・英国のベターレギュレーションの推進主体であるBRE(Better Regulation Executive:ビジネス・企業・規制改革省の一機関)と会計監査院は、2008年3月、FSA(Financial Service Association)をはじめとする5つの規制監督当局がベターレギュレーションに則った活動を行っているかについての調査報告書を公表した。この報告書では、FSAはいくつかの要改善点は見られるものの、総じて高い評価を受けている。なかでもFSAの優れた点の1つに、関係者への幅広いコンサルテーション(関係者の意見を広く求めること)の実施が挙げられている。これは、FSAの設立根拠法である金融サービス市場法のなかで、規制の制定に当たって要請されているものでもある。

渡部亮「市場経済システムの歴史3」『第一生命経済レポート』2008年12月。
・現代にも受け継がれる英国の開放型社会は人々の地理的移動を活発にした。自由契約の賃金労働(召使を含む)が増加し、勤勉と貯蓄をモットーに財産を蓄積し、子供が親から独立して核家族化する、そうした社会がいち早く、16?17世紀に形成された。親が結婚相手を決めるのではなく自由恋愛が認められ、しかも財産を形成した後の晩婚が多く、逆に近親相姦は少なかった。英国の封建制は、大陸欧州諸国におけるほど強固ではなく、個人主義のカルチャーが早い段階に形成されていたということができる。

岡久慶「イギリス 嘘発見器を使った性犯罪者監視制度の試行」国立国会図書館調査及び立法考査局『外国の立法』2008年11月。
・2008年9月19日、司法省犯罪者管理局は、保護監察官が釈放された性犯罪者の危険度を計測する手段として、嘘発見器によるテストを強制的に行う制度を3年間試行すると発表した。同局は、2009年4月から限定された地域で3年間の施行期間を持ち、その結果を踏まえて制度を全国に拡大するとしている。
・テストにおいては、性の遍歴、保釈条件の遵守、その他該当者が否定する犯した犯罪に関する事実確認という3つのカテゴリーにおいて、Yes/Noの二択でいくつかの質問に回答することが要請された。この結果、最初のテストを受けた者の79%、さらに再テストを受けた者の78%が観察や治療に関連する重要な情報を明かしており、これらの30%が嘘発見器の結果を突きつけられた結果によるものだった。嘘発見器のテストを受けた犯罪者は、受けなかった犯罪者に比べて再犯の危険性を認める傾向が見られ、試行に関わった保護監察官の90%以上が嘘発見器によるテストが業務上有効であると回答している。しかしながら、この試行はあくまで自己参加に基づくもので、参加したのは該当する犯罪者の43%にすぎない。嘘発見器導入に必要な、より正確なデータを確保するために、今回の強制的なテストを試行することになった。

岡久慶「イギリス 銀行業務法案」国立国会図書館調査及び立法考査局『外国の立法』2008年11月。
・2008年10月7日、財務省は、経営不振に陥った金融機関を救済する恒久的な法的枠組みを整え、イングランド銀行に金融市場の安定と預金者保護を促進する義務と権限を付与する銀行業務法案を提出した。野党からは法案に対する不満、批判も出ているが、大枠で超党派的支持が形成され、来年2月には制定される見込みである。
・銀行業務法案(Banking Bill)は、2008年9月に顕在化した金融危機に対応して発表されたものではない。2008年2月には、経営が悪化したノーザン・ロック銀行を国有化するための2008年銀行(特別措置)法が成立し、5月には次会期に提出する法案の概要が発表され、その中で金融市場の安定化や預金者保護を目的とした金融改革法草案の骨子が明らかにされるという動きがあった。銀行業務法案は、2009年2月に効力を失う銀行(特別措置)法の規定に恒久的な法的根拠を付与し、金融改革法草案の趣旨を盛り込んだ法案である。

みずほ総合研究所「欧州経済・金融市場の概況」『みずほ欧州経済情報』2008年12月号。
・BOEは11月のMPCで150bpという異例の大幅利下げを決定。契機悪化への懸念を強め、200bpの利下げを検討したことが判明。インフレ・レポートでは2009年の成長率がマイナス2%にまで落ち込み、インフレ率がターゲット水準である2%を下回るとの予測を提示。BOEは引き続き積極的な金融緩和を進めていくと見込まれる。
・7?9月期の英実質GDPは前期比マイナス0.5%(年率マイナス2.0%、速報値から変わらず)となり、需要項目では個人消費(前期比0.2%)、固定資本形成(同マイナス2.4%)が2四半期連続で減少し、内需悪化が鮮明となった。英国GDPの6割強を占める個人消費が2四半期連続でマイナス成長に陥るのは1992年以来であり、英国は深刻な景気後退リスクに直面している。このため、政府が打ち出したVAT引き下げや低所得者支援などによる景気刺激策は英国景気の悪化を幾分緩和させることが期待される。ただし、個人消費を刺激するには不十分との見方も根強い。過去数年に渡る住宅ブームによって家計の抱える負債残高が大きく高まり、住宅価格上昇による資産効果などで貯蓄率が歴史的な低水準に低下しているためである。雇用・所得環境が悪化しつつある中、今後、家計はバランスシート調整を強いられ、個人消費の低迷長期化につながる可能性がある。
・インフレ率は低下に転じ始めた。10月のインフレ率は4.5%(前月比マイナス0.7Pt)、コア・インフレ(エネルギー、食品、アルコール、煙草を除く)も1.9%(前月比0.3Pt)に低下した。既に生産者物価上昇率も低下に転じており、今後、インフレは一段と低下していくとみられる。
・11月の金融政策委員会(MPC)では、150bpと事前予想を大きく上回る利下げが決定された。政策金利の調整幅が25bpであることが主流となっている中、今回の利下げ幅は異例である。さらに、議事録によれば200bpもの利下げを検討していたことが明らかになった。9月以降、金融危機の深刻化、内外経済の著しい減速、商品市況の下落によるインフレ圧力の後退によって、インフレ率がターゲット水準を大幅に下回るリスクが生じたことが理由である。また、高止まりが続くターム物銀行間金利を引き下げることも大幅利下げの一因であった。金融市場の事前予想を大きく上回るサプライズは、BOEへの信認に問題を生じさせる可能性があることを認識した上での決定であり、MPCがそれほどに英国景気の下ぶれリスクへの懸念を強めたことがうかがえる。

松浦茂「イギリス及びフランスの予算・決算制度」『レファレンス』2008年5月。
・イギリスでは成文法による財政に関する規定が限られる中、内閣の予算過程での権限は強力であり、これと比べると議会の力は限定的である。また、財政法案や歳出法案など租税又は支出のみを目的とする「金銭法案(Money Bill)」は、下院で先議される一方で、上院には否決権・修正権とも認められていない。
・法律ではないが、現在のイギリス財政を強く規律しているルールとして、ブレア政権期初期に定められた「ゴールデン・ルール」と「サステナビリティ・ルール」が存在する。「ゴールデン・ルール」は、景気循環を通じて、政府の借り入れの目的を投資目的に限定し、経常的経費を目的とする借り入れを行わないとするものである。「サステナビリティ・ルール」は、公共部門の純債務の対GDP比を安定的かつ慎重な水準に保つものであり、現在は、景気循環を通じて40%以内と設定されている。これらのルールは、1998年財政法に基づく予算関係文書である「経済財政戦略報告書」の1998年度版においてうたわれているものである。
・代表的な予算関係文書「プレバジェット・レポート」及び「財政説明書」における予算は、総管理歳出(Total Managed Expenditure:TME)として示される。TMEは、省庁別歳出限度額(Departmental Expenditure Limits:DEL)と単年度管理歳出(Annually Managed Exependiture:AME)の合計である。DELは、1998年以降、支出レビュー(Spending Review:SR)が定める、3年間の省庁ごとの歳出上限額に沿った単年度あたりの金額である。他方、AMEは社会保障費など、SRの3年間の予算枠とは別に財務省の毎年度の査定を受ける経費である。DELとAMEを合わせたTMEは、議会の議決対象ではなく、公的支出水準を管理し、財政ルールの達成を支援するために用いられる。なお、SRは、3年間の各省庁の歳出上限額を定めるとともに、公共サービス合意(Public Service Agreement)と呼ばれる成果目標を伴うものである。SRは議会の議決対象ではなく、3年間の上限額内で各省庁予算の繰越を100%認めるなど、複数年度予算の要素を取り入れるものである。SRの3年目は次期計画の1年目と重なっているため、SRの策定は1年おきに実施されている。実質的には2年制予算である。
・TMEと区別すべき予算の概念として、「議定費」(Supply Estimates)がある。TMEが上述のとおり、議決対象とならないのに対して、議定費は、議会の毎年度の議決対象となる国の経費である。また、TMEは国民経済計算の一般政府(中央政府、地方政府)と公的企業を合わせた範囲を対象とする。このため、地方政府の支出も含まれている。これに対して、議定費は、地方政府の支出を含まない。国の支出でも、国民保健基金(National Insurance Fund)や既定費(Consolidated Fund Standing Service)といった毎年度の議決対象外の経費(TMEの約37%)は、議定費に含まれない。更に、TMEが国民経済計算の計算基準に従って計上されるのに対して、議定書の計上方法は2003年度以降、旧来の現金ベースから企業会計ベースに全面移行している。
・なお、イギリスの決算は、2000年政府資源会計法(Government Resources and Accounts Act 2000)で導入された「資源会計」(Resource Accounts)により計上される。資源会計も企業会計ベースである点は議定費と同様であるが、議定費と異なり、資源会計には議決対象外の経費も含まれる。また、現時点では各省庁の資源会計が策定されているだけであり、全政府を連結して一貫性のある形で示す「全政府会計」(Whole of Government Accounts)はいまだ実現していない。
・統合国家資金が、会計区分としては我が国の一般会計に相当すると言われている。これに対して、我が国の財政投融資特別会計ないし国債整理基金特別会計に相当するものとして、国家貸付資金が置かれている。国家貸付基金は、国の借金を区分して計上するために、1968年国家貸付資金法により、統合国家資金から分離したものである。ただし、日本の特別会計のように、予算上、明確な区分がなされているわけではない。
・イギリスの会計年度は、日本と同様、4月から3月までである。例年10月頃に公表される「プレバジェット・レポート」により、議会における予算過程が始まる。同レポートは、1998年財政法により、財務省が作成し議会に提出することが義務付けられた法定の予算関係文書であり、4月の会計年度開始に先立ち、主要な経済問題を取り上げるとともに、新年度のTME見込み額を示すものである。翌年3月に、財務大臣は議会で予算演説を行い、政府の財政政策の概略を明らかにする。その際に財務省は、直近のTME見込み額などを掲載した予算関係文書「財政説明書」(Financial Statement and Budget Report)を公表する。この財政演説が行われる日をバジェット・デイ(Budget Day)と呼んでいる。予算演説後、下院での討論を経て、所得税、法人税など既存の税の税率設定と税制改正案を主たる内容とする財政法案が下院に提出される(第1読会)。同法案は、1日の審議である第2読会を経て、委員会に付託され審議される。その後、第3読会が下院本会議で行われ、法案が採決される。下院での可決後、上院の法案審議と女王の形式的な最下を経て7月頃に財政法が成立する。
・議会の承認が必要な支出である議定費については、毎年、7月の歳出法(Appropriation Act)、12月の国庫金支出法(Consolidated Fund Act)、3月の歳出法の、3本の法律が定められる。当初予算が承認されるのは、7月の歳出法である。このため、4月から7月までの支出については、暫定予算が編成され、前年12月の国庫金支出法で承認される。また、年度末の3月の歳出法案では、前年度の超過支出についての承認が行われる。なお、7月、12月、3月の各法律では、補正予算も併せて承認される。これらの法律を審議するために、一会期(11月から翌年10月)につき、3日の審議日が用意されている(Estimates Day)。審議日の少なくとも14日前までに、予算案が示されなければならない。ただし、7月に承認される当初予算(Main Estimates)については春に予算書を刊行する。下院の各省庁別特別委員会(Departmenttal Select Committees)では、各省庁予算案が精査される。その後、特別委員会の委員長をメンバーに含む、下院の連絡委員会(Liaison Committee)では、審議日における討論のための1ないし2の議題を決める。この議題を審議日に討論し、議定費の議決が下院で行われる。下院の審議では、総額の増加、支出構成の変化、又は歳入の現象を伴う修正提案を行うことができず、ある特定項目の支出を減少させる修正案のみが許される。下院で可決された歳出法案又は国庫金支出法案は、上院の審議と女王裁可を経て成立する。歳出法が成立し、議定費に関する議会の承認が得られると、女王は財務省に対し勅許状(Royal Order)を発し、統合国家資金から各省庁に対して資金配分を行うことが認められる。
・イギリスの会計検査院(National Audit Office:NAO)は、政府から独立した外部検査機関である。NAOは、議会の公金支出に対する監査の強化を目的とした、1983年会計検査法(National Audit Act 1983)により設立された。この法律以前は、財務省の外局である「国庫及び会計検査局」(Exchequer and Audit Department)が会計検査を担当していた。1983年会計検査法により、NAOは財務省から独立するとともに、議会に近い機関として位置付けられることになった。すなわち、NAOの院長は下院の吏員であることが法に明記され、NAO自身の予算や決算(監査)については、下院議員の代表からなる「公会計コミッション」の監督を受けることとなった。職員数は854名(2007年3月末現在)、予算は約7100万ポンド(2006年度)である。NAOの任務は、財務検査、VFM検査、議会委員会や各省庁に対する支援に大別される。このうち、国の官庁などの決算を検査する財務検査に、NAOはその資源の半分近くを投入している。また、VFM検査は、施策に関する評価・分析を行う検査であり、1983年会計検査法第6条により、経済性、効率性、有効性の観点からの検査として導入されたものである。NAOは年間60本程度のVFM報告書を刊行している。
・議会での決算審査は、下院決算委員会(Public Accounts Committee)で行われる。ここでは、NAOの報告書(多くはVFM報告書)をベースに審議が行われる。
・イギリスの予算・決算制度改革は、ブレア政権以降実施されてきた、1. 実質的な複数年度予算管理(3ヵ年)の導入による柔軟な予算執行、2. 財政ルール達成を支援するためのTMEなどによる公的管理支出管理、3. 企業会計原則に基づく決算(資源会計)の導入による各省庁の説明責任と効率性の向上、といった点に要約される。上記の1と3は、我が国と比べ大くくりな議決単位と相まって柔軟な予算編成・執行を可能とする代わりに、その成果に対して説明責任と効率性の向上を求めるというものであり、予算の効率化・質の向上という点で、一定の成果をもたらしていると言えよう。3ヵ年の複数年度予算管理は、年度末の無駄な予算消化を抑止させる効果が指摘されている。また、発生主義に基づく資源会計の導入は、省庁内管理の効率化と議会への説明責任向上に資するものとされ、その成果をもたらしつつある。例えば、国防省では資産内容の見直しが進み、不要な資産を大幅に減少させたと言われている。以上に加えて、2の財政ルール達成のための公的資金管理は、数字に現れた実績を示しており、ダーリング財務大臣の2008年度の予算演説では、1997年の政府純債務残高の対GDP比が43.3%であったのに対して、現在では、36.6%にまで減少していることが強調された。これらの成果を反面、複数の予算概念の並立、企業会計原則で計上された予算書・決算書の読みにくさ(会計の知識が必要)、政府全体の財務書類の未完成(一覧性の欠如)、といった点が課題として指摘できよう。
・Robert Rogers and Rhodri Walters, “How Parliament Works”, 6th ed., Longman, 2006, pp.265-286.
・HM Treasury, “Supply Estimates : a guidance manual”, 2007.
・HM Treasury, “Central Government Supply Estimates 2007-08”, Stationary Office, 2007, pp.9-12.
・HM Treasury, “Managing Public Money”, Stationary Office 2007.
・”United Kingdom”, OECD Journal on Budgeting, Vol.14 No.3, 2007.
・浅見敏彦編『世界の財政制度』金融財政事情研究会、1986年。

山口広文「コンテンツ産業振興の政策動向と課題」『レファレンス』2008年5月。
・財団法人デジタルコンテンツ協会の調査によると、我が国コンテンツ産業の市場規模は、2006年で、総額13兆9890億円となる。分野別には。図書・新聞・画像・テキストが5兆9861億円、映像が4兆8074億円、音楽・音声が1兆8996億円、ゲームが1兆2959億円である。
・米国のコンサルタント会社による調査では、2005年の世界のコンテンツ産業市場は、全体で約120兆円と見積もられている。うち最大のアメリカは37.4兆円、次いで日本が10.6兆円を占め、ヨーロッパではイギリス7兆円、ドイツが5.9兆円、フランスが3.9兆円、アジアでは、中国が2.3兆円、韓国が1.3兆円、台湾が0.9兆円の規模となっている。なお、この調査は、前述の調査に比べ、コンテンツ産業の範囲を少し狭く捉えており、一回り小さな数値となっている。
・コンテンツ産業市場を国全体の経済規模と対比してみると、GDPに対する比率では、日本は2.1%であるのに対して、アメリカが3.0%、イギリスが3.0%、台湾が2.8%となっており、日本は国の経済規模に比べてコンテンツ産業の市場規模が相対的に低い水準にある。
・イギリスでは、1997年に発足したブレア労働党政権は、関係省庁を横断した政策立案チームとして創造産業タスクフォース(Creative Industries Task Force:CITF)を設置して、「クール・ブリタニア」という標語を掲げて創造産業振興策に取り組んだ。この「創造産業(Creative Industries)」とは、骨董、建築、工芸、ファッションなどデザイン的な要素の強い活動まで幅広く含んでいる。CITFは、対象とする「創造産業」の現状把握と発展のための課題の検討に取り組み、「創造産業調査報告1998(Creative Industry Mapping Document 1998)」を作成し、その3年後には、追跡調査に基づく「創造産業調査報告書2001」を公表している。

労働政策研究・研修機構「欧州における働き方の多様化と労働時間に関する調査」『JILPT 資料シリーズ』No.41、2008年5月。
・イギリスにおいて柔軟な働き方が普及する受け皿となった要因としては、経済のサービス化や教育水準の上昇などの影響から、女性の労働市場への参入が進み、これに伴って育児などの義務を負った労働者が増えたことがある。また、職業生活から家庭生活へと労働者の志向性が変化し、欧州諸国に比して顕著といわれる長時間労働の文化を見直す機運が高まっていたこともその一因だ。さらに企業の側でも、景気が上向くに従って専門職などの人材不足に直面したために、とりわけ人材の獲得とその定着に向けて魅力的な職場環境を整える必要から、労働者に働く時間帯や長さに関する選択肢を与えるような労働時間制度を受容する雰囲気が生まれていたといわれる。
・一方、政府も、今後の少子高齢化に伴う労働力不足や福祉コストの増加への対応策として、女性の就業率の向上を重視していた。イギリスは、他のEU加盟国に比して女性の就業率が高いが、その多くを短時間・低賃金・低熟練の雇用が占めており、その大きな要因は育児・家事負担からくる労働時間の制約だ。このため、家庭責任と仕事とのマッチングによってこの衝突を緩和し、女性により就業しやすい環境と望ましい雇用を生み出すことが、大きな目的となった。保守党政権下のイギリスでは、ワークライフバランスは労使間の自主的な決定にゆだねられるべき事項であるとの考え方がとられてきたといわれ、また企業側も、育児休暇などの法制化に強く反対していたが、労働党政権によるワークライフバランス政策の導入は、いわばこれまで企業側のニーズからもっぱら論じられ、定着してきた柔軟性に、労働者側のニーズが明確な形で導入されたものと位置付けることができる。
・政府によるワークライフバランス政策あるいは柔軟な働き方の促進策に関する議論は、企業に対する経済的な影響を論ずる視点と、より大きな枠組みから社会的な影響を論ずる視点に大別される。このうち、企業への影響に関する議論の焦点は、生産性あるいはパフォーマンスへの影響といえる。政府はワークライフバランス政策を企業に普及させるにあたって、1. 採用可能な人材の幅が広がる、2. 従業員の定着率やモチベーションが高まる、3. ストレスが減って欠勤率や離職率が改善する、4. 生産性が向上する、などをその利点として挙げているが、このうち、従業員のモチベーションや定着率の改善等は、事例研究や実証分析によってその効果が認められるとの評価が定まってきている。しかし、生産性への効果については、費用対効果の比率や収益や企業規模などとの因果関係の整理が難しいこともあり、評価は様々だ。いろいろな柔軟な働き方に関する制度を導入している企業は年々増加しており、企業がこういった制度の導入に一定の合理性を認めていることも明らかだが、やはり柔軟な働き方に関する規制やその強化は、企業にとってコスト増と捉えられているところが大きい。一方、社会的・制度的な観点からの議論では、政策自体の是非よりも、女性の就労や家庭における責任の現状の是非をめぐっての批判の声が大きい。政府は、女性の就業率を向上させるための一連の施策と併せて、父親休暇の制度化・拡充も行ってきており、片稼ぎ・長時間労働文化の是正による生産性の改善や、メンタルヘルスの問題の緩和などの観点からも、男性の働き方を変えることの重要性を視野に入れている。多くの論者は、政策の進展の遅さやその不徹底には不満を表明しつつも、女性の就労支援を中心にこれらの課題に取り組む政府の方針については、これを支持しているとみられる。ただし、現実問題として、家事や育児・介護の担い手は依然として女性であり、また政府が積極的な就業支援を目指している一人親家庭の親も、その9割以上が女性である。ワークライフバランス政策にとりわけ批判的な意見は、一連の政策が結局のところ女性に家事や育児、介護の責任を負わせることを暗黙のうちに前提としており、性差別を助長もしくは容認しているとするものだ。事実、女性は育児などの負担から柔軟な働き方を選ばざるを得ないため、結果として低賃金職種に追いやられることが多く、また昇進も別コースになりやすい。
・一連の調査からは、1. 柔軟な働き方は企業にも労働者にも定着してきている、2. 子供を持つ親だけでなく、職務上そういった働き方が適した労働者にも普及しつつある、3. ただし企業の間では、政府が当初喧伝していた生産性や欠勤率などのメリットに対する疑問が広がりつつある、4. また一方、とりわけ長時間労働が顕著な層(例えば女性管理職・専門職など)は、必ずしもこういった制度の恩恵を被っていない、といった状況がうかがえる。ただ、一方で、5. 雇用者の多くは現在の働き方に満足しているとの結果も出ている。

みずほ総合研究所「公的年金の世代内格差の実態 低年金対策はどうすべきか」『みずほリポート』2008年6月27日。
・厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2006年調査)により、雇用形態別の現在の平均賃金から算出した年金月額を比較すると、20歳から60歳になるまでの40年間同じ雇用形態で働いた場合に、正社員は男性が月額17.0万円、女性が14.6万円となる。また、非正社員で、週40時間労働で40年間働き、厚生年金に加入したとしても賃金水準が正社員より低いため、厚生年金の額が抑制され、男性は11.0万円、女性は10.3万円と、正社員の6?7割程度にとどまる。また、厚生年金に加入しない短時間労働者や自営業者、専業主婦等は基礎年金のみとなり、年金額は4.1万円(最低25年)?6.6万円(40年満額)と正社員の3?4割にとどまり、現役時代の雇用形態により加入する年金制度と賃金水準により、将来の年金額が大きく異なる。
・社会保険庁の調査によると、2007年12月時点の無年金者数は、最大で110万人(2007年4月1日現在で60歳以上の者)に上るとされている。このうち、これまでの保険料納付済期間が短く、今後、保険料を納付可能な70歳までの期間について保険料を納付しても無年金となる者は、最大で73万人である。また、60歳未満(2007年4月1日現在)で、既に、今後、保険料納付可能な70歳までの期間を納付しても無年金となる者は最大で45万人おり、将来の無年金者数はさらに増加する見通しである。

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