覚書 081206

近藤哲夫「英国FSAに見る規制制定プロセスの柔軟性」『知的資産創造』2008年10月号。
・ベターレギュレーションでは、規制は、透明で説明責任に裏付けられ、かかる負担はその効果に見合い、一貫性があり、規制の対象に焦点を当てたものであるべきとされる。ベターレギュレーションは、規制監督の当事者による不断の改善活動である。
・英国のベターレギュレーションの推進主体であるBRE(Better Regulation Executive:ビジネス・企業・規制改革省の一機関)と会計監査院は、2008年3月、FSA(Financial Service Association)をはじめとする5つの規制監督当局がベターレギュレーションに則った活動を行っているかについての調査報告書を公表した。この報告書では、FSAはいくつかの要改善点は見られるものの、総じて高い評価を受けている。なかでもFSAの優れた点の1つに、関係者への幅広いコンサルテーション(関係者の意見を広く求めること)の実施が挙げられている。これは、FSAの設立根拠法である金融サービス市場法のなかで、規制の制定に当たって要請されているものでもある。

渡部亮「市場経済システムの歴史3」『第一生命経済レポート』2008年12月。
・現代にも受け継がれる英国の開放型社会は人々の地理的移動を活発にした。自由契約の賃金労働(召使を含む)が増加し、勤勉と貯蓄をモットーに財産を蓄積し、子供が親から独立して核家族化する、そうした社会がいち早く、16?17世紀に形成された。親が結婚相手を決めるのではなく自由恋愛が認められ、しかも財産を形成した後の晩婚が多く、逆に近親相姦は少なかった。英国の封建制は、大陸欧州諸国におけるほど強固ではなく、個人主義のカルチャーが早い段階に形成されていたということができる。

岡久慶「イギリス 嘘発見器を使った性犯罪者監視制度の試行」国立国会図書館調査及び立法考査局『外国の立法』2008年11月。
・2008年9月19日、司法省犯罪者管理局は、保護監察官が釈放された性犯罪者の危険度を計測する手段として、嘘発見器によるテストを強制的に行う制度を3年間試行すると発表した。同局は、2009年4月から限定された地域で3年間の施行期間を持ち、その結果を踏まえて制度を全国に拡大するとしている。
・テストにおいては、性の遍歴、保釈条件の遵守、その他該当者が否定する犯した犯罪に関する事実確認という3つのカテゴリーにおいて、Yes/Noの二択でいくつかの質問に回答することが要請された。この結果、最初のテストを受けた者の79%、さらに再テストを受けた者の78%が観察や治療に関連する重要な情報を明かしており、これらの30%が嘘発見器の結果を突きつけられた結果によるものだった。嘘発見器のテストを受けた犯罪者は、受けなかった犯罪者に比べて再犯の危険性を認める傾向が見られ、試行に関わった保護監察官の90%以上が嘘発見器によるテストが業務上有効であると回答している。しかしながら、この試行はあくまで自己参加に基づくもので、参加したのは該当する犯罪者の43%にすぎない。嘘発見器導入に必要な、より正確なデータを確保するために、今回の強制的なテストを試行することになった。

岡久慶「イギリス 銀行業務法案」国立国会図書館調査及び立法考査局『外国の立法』2008年11月。
・2008年10月7日、財務省は、経営不振に陥った金融機関を救済する恒久的な法的枠組みを整え、イングランド銀行に金融市場の安定と預金者保護を促進する義務と権限を付与する銀行業務法案を提出した。野党からは法案に対する不満、批判も出ているが、大枠で超党派的支持が形成され、来年2月には制定される見込みである。
・銀行業務法案(Banking Bill)は、2008年9月に顕在化した金融危機に対応して発表されたものではない。2008年2月には、経営が悪化したノーザン・ロック銀行を国有化するための2008年銀行(特別措置)法が成立し、5月には次会期に提出する法案の概要が発表され、その中で金融市場の安定化や預金者保護を目的とした金融改革法草案の骨子が明らかにされるという動きがあった。銀行業務法案は、2009年2月に効力を失う銀行(特別措置)法の規定に恒久的な法的根拠を付与し、金融改革法草案の趣旨を盛り込んだ法案である。

みずほ総合研究所「欧州経済・金融市場の概況」『みずほ欧州経済情報』2008年12月号。
・BOEは11月のMPCで150bpという異例の大幅利下げを決定。契機悪化への懸念を強め、200bpの利下げを検討したことが判明。インフレ・レポートでは2009年の成長率がマイナス2%にまで落ち込み、インフレ率がターゲット水準である2%を下回るとの予測を提示。BOEは引き続き積極的な金融緩和を進めていくと見込まれる。
・7?9月期の英実質GDPは前期比マイナス0.5%(年率マイナス2.0%、速報値から変わらず)となり、需要項目では個人消費(前期比0.2%)、固定資本形成(同マイナス2.4%)が2四半期連続で減少し、内需悪化が鮮明となった。英国GDPの6割強を占める個人消費が2四半期連続でマイナス成長に陥るのは1992年以来であり、英国は深刻な景気後退リスクに直面している。このため、政府が打ち出したVAT引き下げや低所得者支援などによる景気刺激策は英国景気の悪化を幾分緩和させることが期待される。ただし、個人消費を刺激するには不十分との見方も根強い。過去数年に渡る住宅ブームによって家計の抱える負債残高が大きく高まり、住宅価格上昇による資産効果などで貯蓄率が歴史的な低水準に低下しているためである。雇用・所得環境が悪化しつつある中、今後、家計はバランスシート調整を強いられ、個人消費の低迷長期化につながる可能性がある。
・インフレ率は低下に転じ始めた。10月のインフレ率は4.5%(前月比マイナス0.7Pt)、コア・インフレ(エネルギー、食品、アルコール、煙草を除く)も1.9%(前月比0.3Pt)に低下した。既に生産者物価上昇率も低下に転じており、今後、インフレは一段と低下していくとみられる。
・11月の金融政策委員会(MPC)では、150bpと事前予想を大きく上回る利下げが決定された。政策金利の調整幅が25bpであることが主流となっている中、今回の利下げ幅は異例である。さらに、議事録によれば200bpもの利下げを検討していたことが明らかになった。9月以降、金融危機の深刻化、内外経済の著しい減速、商品市況の下落によるインフレ圧力の後退によって、インフレ率がターゲット水準を大幅に下回るリスクが生じたことが理由である。また、高止まりが続くターム物銀行間金利を引き下げることも大幅利下げの一因であった。金融市場の事前予想を大きく上回るサプライズは、BOEへの信認に問題を生じさせる可能性があることを認識した上での決定であり、MPCがそれほどに英国景気の下ぶれリスクへの懸念を強めたことがうかがえる。

松浦茂「イギリス及びフランスの予算・決算制度」『レファレンス』2008年5月。
・イギリスでは成文法による財政に関する規定が限られる中、内閣の予算過程での権限は強力であり、これと比べると議会の力は限定的である。また、財政法案や歳出法案など租税又は支出のみを目的とする「金銭法案(Money Bill)」は、下院で先議される一方で、上院には否決権・修正権とも認められていない。
・法律ではないが、現在のイギリス財政を強く規律しているルールとして、ブレア政権期初期に定められた「ゴールデン・ルール」と「サステナビリティ・ルール」が存在する。「ゴールデン・ルール」は、景気循環を通じて、政府の借り入れの目的を投資目的に限定し、経常的経費を目的とする借り入れを行わないとするものである。「サステナビリティ・ルール」は、公共部門の純債務の対GDP比を安定的かつ慎重な水準に保つものであり、現在は、景気循環を通じて40%以内と設定されている。これらのルールは、1998年財政法に基づく予算関係文書である「経済財政戦略報告書」の1998年度版においてうたわれているものである。
・代表的な予算関係文書「プレバジェット・レポート」及び「財政説明書」における予算は、総管理歳出(Total Managed Expenditure:TME)として示される。TMEは、省庁別歳出限度額(Departmental Expenditure Limits:DEL)と単年度管理歳出(Annually Managed Exependiture:AME)の合計である。DELは、1998年以降、支出レビュー(Spending Review:SR)が定める、3年間の省庁ごとの歳出上限額に沿った単年度あたりの金額である。他方、AMEは社会保障費など、SRの3年間の予算枠とは別に財務省の毎年度の査定を受ける経費である。DELとAMEを合わせたTMEは、議会の議決対象ではなく、公的支出水準を管理し、財政ルールの達成を支援するために用いられる。なお、SRは、3年間の各省庁の歳出上限額を定めるとともに、公共サービス合意(Public Service Agreement)と呼ばれる成果目標を伴うものである。SRは議会の議決対象ではなく、3年間の上限額内で各省庁予算の繰越を100%認めるなど、複数年度予算の要素を取り入れるものである。SRの3年目は次期計画の1年目と重なっているため、SRの策定は1年おきに実施されている。実質的には2年制予算である。
・TMEと区別すべき予算の概念として、「議定費」(Supply Estimates)がある。TMEが上述のとおり、議決対象とならないのに対して、議定費は、議会の毎年度の議決対象となる国の経費である。また、TMEは国民経済計算の一般政府(中央政府、地方政府)と公的企業を合わせた範囲を対象とする。このため、地方政府の支出も含まれている。これに対して、議定費は、地方政府の支出を含まない。国の支出でも、国民保健基金(National Insurance Fund)や既定費(Consolidated Fund Standing Service)といった毎年度の議決対象外の経費(TMEの約37%)は、議定費に含まれない。更に、TMEが国民経済計算の計算基準に従って計上されるのに対して、議定書の計上方法は2003年度以降、旧来の現金ベースから企業会計ベースに全面移行している。
・なお、イギリスの決算は、2000年政府資源会計法(Government Resources and Accounts Act 2000)で導入された「資源会計」(Resource Accounts)により計上される。資源会計も企業会計ベースである点は議定費と同様であるが、議定費と異なり、資源会計には議決対象外の経費も含まれる。また、現時点では各省庁の資源会計が策定されているだけであり、全政府を連結して一貫性のある形で示す「全政府会計」(Whole of Government Accounts)はいまだ実現していない。
・統合国家資金が、会計区分としては我が国の一般会計に相当すると言われている。これに対して、我が国の財政投融資特別会計ないし国債整理基金特別会計に相当するものとして、国家貸付資金が置かれている。国家貸付基金は、国の借金を区分して計上するために、1968年国家貸付資金法により、統合国家資金から分離したものである。ただし、日本の特別会計のように、予算上、明確な区分がなされているわけではない。
・イギリスの会計年度は、日本と同様、4月から3月までである。例年10月頃に公表される「プレバジェット・レポート」により、議会における予算過程が始まる。同レポートは、1998年財政法により、財務省が作成し議会に提出することが義務付けられた法定の予算関係文書であり、4月の会計年度開始に先立ち、主要な経済問題を取り上げるとともに、新年度のTME見込み額を示すものである。翌年3月に、財務大臣は議会で予算演説を行い、政府の財政政策の概略を明らかにする。その際に財務省は、直近のTME見込み額などを掲載した予算関係文書「財政説明書」(Financial Statement and Budget Report)を公表する。この財政演説が行われる日をバジェット・デイ(Budget Day)と呼んでいる。予算演説後、下院での討論を経て、所得税、法人税など既存の税の税率設定と税制改正案を主たる内容とする財政法案が下院に提出される(第1読会)。同法案は、1日の審議である第2読会を経て、委員会に付託され審議される。その後、第3読会が下院本会議で行われ、法案が採決される。下院での可決後、上院の法案審議と女王の形式的な最下を経て7月頃に財政法が成立する。
・議会の承認が必要な支出である議定費については、毎年、7月の歳出法(Appropriation Act)、12月の国庫金支出法(Consolidated Fund Act)、3月の歳出法の、3本の法律が定められる。当初予算が承認されるのは、7月の歳出法である。このため、4月から7月までの支出については、暫定予算が編成され、前年12月の国庫金支出法で承認される。また、年度末の3月の歳出法案では、前年度の超過支出についての承認が行われる。なお、7月、12月、3月の各法律では、補正予算も併せて承認される。これらの法律を審議するために、一会期(11月から翌年10月)につき、3日の審議日が用意されている(Estimates Day)。審議日の少なくとも14日前までに、予算案が示されなければならない。ただし、7月に承認される当初予算(Main Estimates)については春に予算書を刊行する。下院の各省庁別特別委員会(Departmenttal Select Committees)では、各省庁予算案が精査される。その後、特別委員会の委員長をメンバーに含む、下院の連絡委員会(Liaison Committee)では、審議日における討論のための1ないし2の議題を決める。この議題を審議日に討論し、議定費の議決が下院で行われる。下院の審議では、総額の増加、支出構成の変化、又は歳入の現象を伴う修正提案を行うことができず、ある特定項目の支出を減少させる修正案のみが許される。下院で可決された歳出法案又は国庫金支出法案は、上院の審議と女王裁可を経て成立する。歳出法が成立し、議定費に関する議会の承認が得られると、女王は財務省に対し勅許状(Royal Order)を発し、統合国家資金から各省庁に対して資金配分を行うことが認められる。
・イギリスの会計検査院(National Audit Office:NAO)は、政府から独立した外部検査機関である。NAOは、議会の公金支出に対する監査の強化を目的とした、1983年会計検査法(National Audit Act 1983)により設立された。この法律以前は、財務省の外局である「国庫及び会計検査局」(Exchequer and Audit Department)が会計検査を担当していた。1983年会計検査法により、NAOは財務省から独立するとともに、議会に近い機関として位置付けられることになった。すなわち、NAOの院長は下院の吏員であることが法に明記され、NAO自身の予算や決算(監査)については、下院議員の代表からなる「公会計コミッション」の監督を受けることとなった。職員数は854名(2007年3月末現在)、予算は約7100万ポンド(2006年度)である。NAOの任務は、財務検査、VFM検査、議会委員会や各省庁に対する支援に大別される。このうち、国の官庁などの決算を検査する財務検査に、NAOはその資源の半分近くを投入している。また、VFM検査は、施策に関する評価・分析を行う検査であり、1983年会計検査法第6条により、経済性、効率性、有効性の観点からの検査として導入されたものである。NAOは年間60本程度のVFM報告書を刊行している。
・議会での決算審査は、下院決算委員会(Public Accounts Committee)で行われる。ここでは、NAOの報告書(多くはVFM報告書)をベースに審議が行われる。
・イギリスの予算・決算制度改革は、ブレア政権以降実施されてきた、1. 実質的な複数年度予算管理(3ヵ年)の導入による柔軟な予算執行、2. 財政ルール達成を支援するためのTMEなどによる公的管理支出管理、3. 企業会計原則に基づく決算(資源会計)の導入による各省庁の説明責任と効率性の向上、といった点に要約される。上記の1と3は、我が国と比べ大くくりな議決単位と相まって柔軟な予算編成・執行を可能とする代わりに、その成果に対して説明責任と効率性の向上を求めるというものであり、予算の効率化・質の向上という点で、一定の成果をもたらしていると言えよう。3ヵ年の複数年度予算管理は、年度末の無駄な予算消化を抑止させる効果が指摘されている。また、発生主義に基づく資源会計の導入は、省庁内管理の効率化と議会への説明責任向上に資するものとされ、その成果をもたらしつつある。例えば、国防省では資産内容の見直しが進み、不要な資産を大幅に減少させたと言われている。以上に加えて、2の財政ルール達成のための公的資金管理は、数字に現れた実績を示しており、ダーリング財務大臣の2008年度の予算演説では、1997年の政府純債務残高の対GDP比が43.3%であったのに対して、現在では、36.6%にまで減少していることが強調された。これらの成果を反面、複数の予算概念の並立、企業会計原則で計上された予算書・決算書の読みにくさ(会計の知識が必要)、政府全体の財務書類の未完成(一覧性の欠如)、といった点が課題として指摘できよう。
・Robert Rogers and Rhodri Walters, “How Parliament Works”, 6th ed., Longman, 2006, pp.265-286.
・HM Treasury, “Supply Estimates : a guidance manual”, 2007.
・HM Treasury, “Central Government Supply Estimates 2007-08”, Stationary Office, 2007, pp.9-12.
・HM Treasury, “Managing Public Money”, Stationary Office 2007.
・”United Kingdom”, OECD Journal on Budgeting, Vol.14 No.3, 2007.
・浅見敏彦編『世界の財政制度』金融財政事情研究会、1986年。

山口広文「コンテンツ産業振興の政策動向と課題」『レファレンス』2008年5月。
・財団法人デジタルコンテンツ協会の調査によると、我が国コンテンツ産業の市場規模は、2006年で、総額13兆9890億円となる。分野別には。図書・新聞・画像・テキストが5兆9861億円、映像が4兆8074億円、音楽・音声が1兆8996億円、ゲームが1兆2959億円である。
・米国のコンサルタント会社による調査では、2005年の世界のコンテンツ産業市場は、全体で約120兆円と見積もられている。うち最大のアメリカは37.4兆円、次いで日本が10.6兆円を占め、ヨーロッパではイギリス7兆円、ドイツが5.9兆円、フランスが3.9兆円、アジアでは、中国が2.3兆円、韓国が1.3兆円、台湾が0.9兆円の規模となっている。なお、この調査は、前述の調査に比べ、コンテンツ産業の範囲を少し狭く捉えており、一回り小さな数値となっている。
・コンテンツ産業市場を国全体の経済規模と対比してみると、GDPに対する比率では、日本は2.1%であるのに対して、アメリカが3.0%、イギリスが3.0%、台湾が2.8%となっており、日本は国の経済規模に比べてコンテンツ産業の市場規模が相対的に低い水準にある。
・イギリスでは、1997年に発足したブレア労働党政権は、関係省庁を横断した政策立案チームとして創造産業タスクフォース(Creative Industries Task Force:CITF)を設置して、「クール・ブリタニア」という標語を掲げて創造産業振興策に取り組んだ。この「創造産業(Creative Industries)」とは、骨董、建築、工芸、ファッションなどデザイン的な要素の強い活動まで幅広く含んでいる。CITFは、対象とする「創造産業」の現状把握と発展のための課題の検討に取り組み、「創造産業調査報告1998(Creative Industry Mapping Document 1998)」を作成し、その3年後には、追跡調査に基づく「創造産業調査報告書2001」を公表している。

労働政策研究・研修機構「欧州における働き方の多様化と労働時間に関する調査」『JILPT 資料シリーズ』No.41、2008年5月。
・イギリスにおいて柔軟な働き方が普及する受け皿となった要因としては、経済のサービス化や教育水準の上昇などの影響から、女性の労働市場への参入が進み、これに伴って育児などの義務を負った労働者が増えたことがある。また、職業生活から家庭生活へと労働者の志向性が変化し、欧州諸国に比して顕著といわれる長時間労働の文化を見直す機運が高まっていたこともその一因だ。さらに企業の側でも、景気が上向くに従って専門職などの人材不足に直面したために、とりわけ人材の獲得とその定着に向けて魅力的な職場環境を整える必要から、労働者に働く時間帯や長さに関する選択肢を与えるような労働時間制度を受容する雰囲気が生まれていたといわれる。
・一方、政府も、今後の少子高齢化に伴う労働力不足や福祉コストの増加への対応策として、女性の就業率の向上を重視していた。イギリスは、他のEU加盟国に比して女性の就業率が高いが、その多くを短時間・低賃金・低熟練の雇用が占めており、その大きな要因は育児・家事負担からくる労働時間の制約だ。このため、家庭責任と仕事とのマッチングによってこの衝突を緩和し、女性により就業しやすい環境と望ましい雇用を生み出すことが、大きな目的となった。保守党政権下のイギリスでは、ワークライフバランスは労使間の自主的な決定にゆだねられるべき事項であるとの考え方がとられてきたといわれ、また企業側も、育児休暇などの法制化に強く反対していたが、労働党政権によるワークライフバランス政策の導入は、いわばこれまで企業側のニーズからもっぱら論じられ、定着してきた柔軟性に、労働者側のニーズが明確な形で導入されたものと位置付けることができる。
・政府によるワークライフバランス政策あるいは柔軟な働き方の促進策に関する議論は、企業に対する経済的な影響を論ずる視点と、より大きな枠組みから社会的な影響を論ずる視点に大別される。このうち、企業への影響に関する議論の焦点は、生産性あるいはパフォーマンスへの影響といえる。政府はワークライフバランス政策を企業に普及させるにあたって、1. 採用可能な人材の幅が広がる、2. 従業員の定着率やモチベーションが高まる、3. ストレスが減って欠勤率や離職率が改善する、4. 生産性が向上する、などをその利点として挙げているが、このうち、従業員のモチベーションや定着率の改善等は、事例研究や実証分析によってその効果が認められるとの評価が定まってきている。しかし、生産性への効果については、費用対効果の比率や収益や企業規模などとの因果関係の整理が難しいこともあり、評価は様々だ。いろいろな柔軟な働き方に関する制度を導入している企業は年々増加しており、企業がこういった制度の導入に一定の合理性を認めていることも明らかだが、やはり柔軟な働き方に関する規制やその強化は、企業にとってコスト増と捉えられているところが大きい。一方、社会的・制度的な観点からの議論では、政策自体の是非よりも、女性の就労や家庭における責任の現状の是非をめぐっての批判の声が大きい。政府は、女性の就業率を向上させるための一連の施策と併せて、父親休暇の制度化・拡充も行ってきており、片稼ぎ・長時間労働文化の是正による生産性の改善や、メンタルヘルスの問題の緩和などの観点からも、男性の働き方を変えることの重要性を視野に入れている。多くの論者は、政策の進展の遅さやその不徹底には不満を表明しつつも、女性の就労支援を中心にこれらの課題に取り組む政府の方針については、これを支持しているとみられる。ただし、現実問題として、家事や育児・介護の担い手は依然として女性であり、また政府が積極的な就業支援を目指している一人親家庭の親も、その9割以上が女性である。ワークライフバランス政策にとりわけ批判的な意見は、一連の政策が結局のところ女性に家事や育児、介護の責任を負わせることを暗黙のうちに前提としており、性差別を助長もしくは容認しているとするものだ。事実、女性は育児などの負担から柔軟な働き方を選ばざるを得ないため、結果として低賃金職種に追いやられることが多く、また昇進も別コースになりやすい。
・一連の調査からは、1. 柔軟な働き方は企業にも労働者にも定着してきている、2. 子供を持つ親だけでなく、職務上そういった働き方が適した労働者にも普及しつつある、3. ただし企業の間では、政府が当初喧伝していた生産性や欠勤率などのメリットに対する疑問が広がりつつある、4. また一方、とりわけ長時間労働が顕著な層(例えば女性管理職・専門職など)は、必ずしもこういった制度の恩恵を被っていない、といった状況がうかがえる。ただ、一方で、5. 雇用者の多くは現在の働き方に満足しているとの結果も出ている。

みずほ総合研究所「公的年金の世代内格差の実態 低年金対策はどうすべきか」『みずほリポート』2008年6月27日。
・厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2006年調査)により、雇用形態別の現在の平均賃金から算出した年金月額を比較すると、20歳から60歳になるまでの40年間同じ雇用形態で働いた場合に、正社員は男性が月額17.0万円、女性が14.6万円となる。また、非正社員で、週40時間労働で40年間働き、厚生年金に加入したとしても賃金水準が正社員より低いため、厚生年金の額が抑制され、男性は11.0万円、女性は10.3万円と、正社員の6?7割程度にとどまる。また、厚生年金に加入しない短時間労働者や自営業者、専業主婦等は基礎年金のみとなり、年金額は4.1万円(最低25年)?6.6万円(40年満額)と正社員の3?4割にとどまり、現役時代の雇用形態により加入する年金制度と賃金水準により、将来の年金額が大きく異なる。
・社会保険庁の調査によると、2007年12月時点の無年金者数は、最大で110万人(2007年4月1日現在で60歳以上の者)に上るとされている。このうち、これまでの保険料納付済期間が短く、今後、保険料を納付可能な70歳までの期間について保険料を納付しても無年金となる者は、最大で73万人である。また、60歳未満(2007年4月1日現在)で、既に、今後、保険料納付可能な70歳までの期間を納付しても無年金となる者は最大で45万人おり、将来の無年金者数はさらに増加する見通しである。

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benyamin ♂

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