覚書 081227

金澤史男「シンポジウム 財政再建と税制改革」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・現在の国税収入は対GDP比で見たとき非常にみすぼらしくなっている。2002年のOECD統計を見ると、28か国中、国税収入の対GDP比は最下位である。地方税の対GDP比は28か国中7位であるが、両方足したとしても、OECDの中進国よりも低くなっている。ちなみに、国税が12.5%で、地方税が9%である。
・政府税調では国民負担率が低いことが国際競争力を高めることだとア・プリオリに前提している。しかし、国際経済フォーラムの競争力ランキングでは、1位はスイス、2位はフィンランド、3位はスウェーデン、4位はデンマークとなっており、2位から4位は公共部門が非常にしっかりしているところが並んでいる。国際競争力を高める要因は、透明性のある行政システム、イノベーションを生み出すような仕組み、そのイノベーションを知的財産としてしっかりと守っていく仕組み、人的な資本をしっかり育てること、である。「小さな政府」ではない。日本の企業にアンケートをすると、投資決定に関して租税水準の重要性はほとんどがネグリジブルである。国際競争力は租税負担率や国民負担率といった要素で構成されているのではなく、しっかりした政府、しっかりしたマクロバランスの財政が国際競争力にもつながってくるという視点が重要である。

林宜嗣「シンポジウム 財政再建と税制改革」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・国民負担率とは行政の役割がどの程度なのかという話であり、負担率だけで議論できるものではない。負担率が低ければ、公的な役割は少ないけども、その代わり一方で自己責任なり、私的な責任、負担が増えるという話である。現在の議論は公的金銭負担の議論である。その場合に行政の役割は所与だとされるため、それなら負担率は低いほうがよいということになる。例えば、介護ニーズは、「大きな政府」でも「小さな政府」でも同じである。「大きな政府」であれば、介護ニーズは公的な介護施設で、あるいは、公的な介護保険で負担してもらえるということである。「小さな政府」であれば、公的金銭負担は小さいが、その代わり家庭内介護などの私的な負担が増えることを考えなければならない。
・日本人はいまどういう考えなのか。例えば、自分の親は自分で看るべきだと考えているのか、あるいは場合によっては社会的入院でかまわない、むしろ医者がいてくれるほうが安心である、そのための負担はする、と考える国民ははたして本当にいないのか。金銭的な公的負担だけを議論するのではなくて、その金銭的公的負担をなくすということは、私的な負担あるいは自己責任が増えるということをきちんと説明しなければならない。もしかすると増税O.K.という話にもなるかもしれない。

金澤史男「シンポジウム 財政再建と税制改革」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・法人税の減税は必要ない。日本の企業課税は国際的に見ても必ずしも高くない。政府税調の資料では、実効税率の国際比較で、イギリスはロンドン、フランスのパリなどは国税だけしか計算されていない。ドイツ、フランスなどの地方税で外形標準課税をしている営業税、イギリスは国税になったNon-Domestic Rateなどの固定資産課税は実質的な企業負担になっているが、国際比較では含まれていない。アメリカの民間医療保険は連邦政府と州政府が規制をかけて実質的には公的な保険として機能している。基本的に事業種が負担しているのに、この負担が国際比較には入っていない。実際のところ、イギリスが日本より若干低いだけであり、ドイツと企業課税の負担はほぼ同じ、フランスやスウェーデンなどよりは現時点で日本のほうがずっと低い。
・日本の税率はすでに活力化されており中立的ではない。バブル崩壊後、銀行業はほとんど法人税を支払っていない。不良債権を処理するということであれば、税負担はゼロになる。証券税制の優遇措置、組織再編の連結納税制度も節税効果があるといわれている。租税特別措置は急速に広がっている。量的緩和政策や公的資金導入も同様である。いま求められているのは、正常化である。公平・簡素・中立を公正・簡素・活力にする目標が私には理解できない。現在が活力であって、これを中立・公平にしていくなかで財政再建を図っていくべきである。
・消費税増税で年金の財源にすることは必ずしも財政再建にならない。年金財源のうち基礎年金部分を社会保険料負担から税方式に替える場合、社会保険料はおおむね労使折半で負担しているため、社会保険料の減税が消費税の増税に取って代わるだけで、レベニュー・ニュートラルになってしまう。経済界が税方式を提案するのは、基礎年金部分が中核労働者だけでは支えられなくなってきているという危機感があるからだ。したがって、税方式への切り替えは、労働者以外の高齢者やニートたちに基礎年金部分の負担を広げていくことになる。

重森曉「人間発達の財政学を求めて マスグレイブ3機能説の再検討」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・現代財政は、1. 生活保障機能(生存権・発達権を保障するための共同的諸条件を整備し、格差是正と社会的公正を実現する機能)、2. 資本蓄積機能(生産の一般的条件を整え、資本蓄積を促進する機能)、3. 環境維持機能(人間と自然の物質代謝を制御し、地球自然環境の持続的可能性を確保する機能)、4. 体制維持機能(社会の諸階級・諸階層の対立を調整し、社会的統合をはかり、権力と体制を維持する機能)という4つの機能を果たしている。

山本栄一「租税論の展開に公共財の理論がもたらしたもの」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・マスグレイブの財政の3部門モデルは、応能課税中心であるこれまでの租税論に、応益課税が資源配分から見て効率的かつ負担の公平が図れる合理的な課税であることを明らかにし、租税体系にはこの両者の課税原則から導かれる税種を配置する必要を示唆している。
・公共財の理論は、1970年代には新たなテーマとして、財政学以外の研究者も参入して公共財を含むモデルの様々なバリエーションが提示されたが、1980年代に入ると最適課税論が新たなテーマとして登場して、公共財への関心は急速に衰えたように思える。しかし、公共財の理論の展開によって明らかになった公共財の性質、公共財に対する税負担の配分、応能・応益課税からなる租税体系のあり方といった視点は、現実の財政負担問題を解く様々な鍵を与えている。

亀田啓悟・李紅梅「事業別社会資本の生産性分析 国直轄事業・国庫補助事業・地方単独事業別の推計」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・3事業間に生産性格差は存在し、地方単独事業のみが有意な生産性をもつといえる。なおこの結果は、先行研究の技術的、制度的、政治的な要因が社会資本の生産性を阻害するとの指摘を裏付けるものといえる。

小林航・近藤春生「知事の在職期間と財政運営」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・既存研究では、基礎的財政赤字と知事の在職年数との間にU字型の関係が観察されていたが、本稿ではそのような関係は見られず、むしろ逆U字型か単調な右下がりになることが示される。

関口智「アメリカ租税政策と民間医療・年金保険 所得階層別実態の視点から」日本財政学会編『財政研究 第4巻 財政再建と税制改革』2008年10月。
・アメリカでは、伝統的に政府部門の社会保障債務(医療・年金保険等)の規模が小さいが、これは民間部門が医療・年金債務のシフトを受容してきたからでもある。近年、民間部門内部では従来の確定給付型に確定拠出型を加えた雇用主から、被用者個人への医療・年金債務のシフトが起こっている。政府はこれら一連のシフトを租税政策により促進し、社会保障財政の逼迫を回避する方向性を追求してきた。

自己紹介

benyamin ♂

2012年5月

    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

月別アーカイブ

Powered by Movable Type 5.13-ja
Support Wikipedia