『ナウシカ解読』

 今日は稲葉振一郎『ナウシカ解読 ユートピアの臨界』(1996年、窓社)を読みました。

 本書は漫画版のナウシカに関する考察書です。したがって、漫画版を読んでいる読者を前提として書かれています。アニメ版しか見たことがない人は対象外です。

 漫画版は全7巻の物語です。アニメ版は2巻の途中までを切り取って構成された物語です。漫画版の世界を単純化してまとめており、漫画版の一部を簡略にした作品がアニメ版です。

 とはいえ、漫画版は筋道が複雑で錯綜しています。1巻から7巻終了まで10年以上も費やされている作品ですから、これは仕方のないことです。私も筋道を追えない部分がありました。

 漫画版ナウシカのこうした性質を踏まえ、本書は冒頭で物語のあらすじを説明しています。著者なりの視点でまとめられているものの、わかりやすい内容となっています。

 さらっと書きましたが、実はこのあらすじが本書の最大の魅力です。Wikipediaさんには背景や設定、登場人物についての項目はあるのですが、あらすじはごく簡単なものしかありません。

 本書では18ページに渡ってあらすじが丁寧に書かれています。これを読めば漫画版のややこしい流れが非常によく理解できます。素晴らしいあらすじです。

 あらすじに続いて、本書では物語の解読、つまりは、ナウシカに投影された作者宮崎駿の思想を解読する作業に進みます。が、それがどうでもよくなるくらいの、あらすじの出来です。

 正直、解読作業自体にはあまり魅力を感じませんでした。巻末には著者と宮崎駿との対談が掲載されていますが、お互いに話が噛み合っていない印象を受けました。いわゆる作者を超えた解読になっていると思いました。

 著者は難しく解読しすぎているのかもしれません。ナウシカの言動の意味を考えるために、ハンナ・アレーントやロバート・ノージックを援用する姿勢は過激に見えました。

 ただ、こうした姿勢は映画評論や芸術評論では普通のことでしょう。著者も同じ作業をナウシカを題材に実践しているに過ぎません。その意味では本書を素直に受け止められない私のほうに限界があるのです。

 そうは言いつつも、しかしながら、主題である解読作業の魅力が吹っ飛ぶほどの秀逸さがあらすじにはあると私は思いました。この点で私は本書を高く評価したいです。著者にとっては不本意でしょうが。

 なお、著者は大学教員です。普段は政治哲学や政治倫理を教えているようです。その研究活動の一環として本書は書かれているという位置づけになるでしょう。その意味では、純粋なナウシカ本とは言えないかもしれません。

 また、驚いたことに、本書は著者の最初の単著です。研究者人生の初っ端から漫画を大真面目に論じているのです。何だか非常に親近感を覚えました。

自己紹介

benyamin ♂

2012年5月

    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

月別アーカイブ

Powered by Movable Type 5.13-ja
Support Wikipedia