覚書 090104

寺島実郎「時代の象徴としてのドバイ 巨大開発の光と影」三井物産戦略研究所『脳力のレッスン』2008年11月号。
・ドバイはアラブ首長国連邦(UAE)を構成する7つの首長国の一つである。1833年以来、マクトウム家という首長一族がこの地を治めてきた。実はドバイには〃UAEのアブダビと比べ石油はあまり出ず、1966年に油田が発見され、1980年代までドバイを潤した時代もあったが、現在の繁栄基盤を築いた建国の父シェイク・ラシードは「石油に依存しない国造り」を考えたのである。
・ドバイは1853年に他の首長国とともに英国の保護領となった。大英帝国によってインド支配の中継地としてドバイは重要だった。また、中東に大勢力を誇っていたオスマントルコやペルシャ、そしてこの地域への影響力の拡大を狙うロシアやフランスを牽制するためにも「首長」という存在を利用する戦略が採られ、それが今日に至るまでこの地に埋め込まれたのである。
・1967年に英国はスエズ以東からの撤退を発表、1971年にUAEは独立を迎える。1967年に「ポート・ラーシッド計画」という港湾開発に着手したシェイク・ラシッドは、1985年にはジュベル・アリ・フリーゾーンにまで構想を発展させ、ドバイを中東の一大物流拠点とした。2007年の世界港湾ランクにおいてはついに7位にまで上がってきた。ドバイは「中東のシンガポール」ともいわれるが、国土面積も狭く資源に乏しく、人口も工業生産力も小さな国が世界に冠たる経済国家になりうる事例として、両国には共通性がある。物流拠点というだけでなく、ITの時代に対してメディア・シティ、インターネット・シティを建設し、医療特区としてのヘルスケア・シティ、そして国際金融センターを育成し、そこに世界からのビジネスや観光、コンベンション(会議)を目的とする訪問客をひきつける豪華ホテルや巨大ショッピングモール、エンターテインメントパークを配置するという総合戦略が展開され、付加価値を増幅させたのである。

「カーボン・オフセットとは? 低炭素社会における新しいビヘイビア」中央三井トラスト・ホールディングス『調査レポート』No.64、2008年冬。
・カーボン・オフセットとは、私たちの日常生活や経済活動において、避けることが出来ないCO2等の温室効果ガス排出について、まず、できるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出されてしまう温室効果ガス分について、その排出量を見積もり、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等によって、排出されてしまう温室効果ガスを埋め合わせするという考え方です。排出枠(クレジットと呼ばれます)そのものを購入する方法もありますし、あるいは、その利用により排出される予想CO2量をオフセットすることを事前に約束した商品・サービスを購入して、自己の排出量を相殺するという方法もあります。これが、昨今、ニュースなどでも取り上げられる「カーボン・オフセット付き○○」という商品群になります。
・覚書注:カーボン・オフセットとして投資した資金が具体的にどのように活用されているかが明示されている必要があるだろう。そうでなければ、エコだとお金を投入している、単なる自己満足となってしまう。街角募金との違いがわからない。

生田孝史「低酸素社会に向けた民生部門対策の設計」富士通総研経済研究所『研究レポート』No.333、2008年12月。
・海外では、省エネルギーの推進を目的として、「スマートメーター」と呼ばれる計測器の導入計画が進行している。特に家庭部門を対象として広範な普及を図るために、国や地域レベルでの全戸配布を目指した取り組みが行われている。例えば、英国では、2007年のエネルギー白書において10年間で全世帯4,500万台のスマートメーター導入を明記し、導入に向けた方策を検討している。
・スマートメーターは、機械式の計測器と異なって、データ通信機能を持つ計測器である。電力量を計測するタイプが多いが、電力・ガス両用タイプもある。リアルタイムのエネルギー消費量把握による消費者の省エネ促進効果だけでなく、エネルギー供給事業者にとっても負担平準化や自動検針による業務効率化が図れるなどのメリットがある。
・英国では、2008年度末までに、配電事業者に対して家庭へのスマートメーター導入を義務付けるかどうかの結論を政府が行うことになっている。導入義務付けが決定すれば、2019年までに全世帯4,500万台の導入計画が実施されることになる。設置費用は配電事業者が負担することになるが、負担分はスマートメーター導入によるコスト削減で回収できると考えられており、政府から長期融資(15年程度)も受けられる予定である。また、併せて、時間帯別料金制度についても検討されている。
・スマートメーター導入に関して英国で行われている議論は、電力市場自由化の度合いと大きく関係している。日本と異なり、英国では電力市場が完全自由化しているため、一般家庭で自由に配電(小売)事業者を選択することができる。このため、配電事業者は、様々なサービスメニューを提案して顧客獲得競争を行っているが、一方で、顧客の流出入が煩雑になることにもつながっている。スマートメーターの導入は、本来、配電事業者にとって、自動検針によるコスト削減に加えて、リアルタイムの需要把握に基づく最適な負担制御や配電自動化、停電復旧管理、送電損失低減など、様々なコスト削減効果が期待される。しかし、顧客が流動している英国では、配電事業者は、最適な負担管理が困難なためメリットが少ないとして、スマートメーター導入にあたって「地域フランチャイズモデル」の採用を提案している。このモデルは、英国内をいくつかの地域に分割して、地域ごとにメーター設置を行う配電事業者を入札で選ぶという方式であり、計画に則った確実なメーター導入を保証する一方で、地域ごとの配電事業者によるコントロール強化につながり電力市場完全自由化から後退するとして、論点になっている。

小笠原浩一「田口典男著『イギリス労使関係のパラダイム転換と労働政策』と上田眞士著『現代イギリス労使関係の変容と展望 個別管理の発展と労働組合』を読む」『日本労働研究雑誌』No.576、2008年7月。
・1990年代の労働組合会議(TUC)は、「個別主義的労働組合へのパラダイム転換に対応するために」「表面的な対応はおこなったが」「団体主義的労使関係に基づく基本方針を変えたわけではな」かった。「経営者との新しい関係」を築きつつ、「労働者との新しい関係」を構築しなければならなかったにも関わらず、この2つの課題を達成することができず、労働組合は、「その存在を否定される危機に直面した」。
・1980年代後半から全国職業組合資格制度(NVQ)やその一部である現代的徒弟訓練制度(MA)が展開し、仕事遂行能力を形成する場として企業の重要性が強調されるようになった。そうしたイギリス労使関係の変化を今後の労働組合運動の可能性という視点から敷衍して、「サプライサイドの平等主義」の担い手としての労働組合の可能性を指摘している。
・従業員との公開・非公開の情報共有型コミュニケーションの増加や各種特別休暇制度の拡充、あるいは、従業員との信頼感醸成の取り組みなどは活発になっている。これらの多くは、TUCが中心になって「より公正なイギリスを目指す仕事空間づくり」運動として労働組合側が求めてきているものであり、「雇用における権利キャンペーン」において職場における権利と均等の保障のために直接的な立法規制強化と結びつけて主張される領域が多く含まれている。
・最低賃金制度についても、雇用硬直化効果や能力開発機会への負の影響といった当初の経営側からの懸念が払拭されつつあるのに伴って、労働市場全体における熟練不足解消策との連携や企業内における訓練投資促進への配慮といった、いわゆる適正水準問題に焦点が移ってきており、ここでも、企業内・事業所内における「個別管理」と社会的妥当性との政策的調整が問題になっている。つまり、イギリス労使関係は雇用管理における効率的公正性と社会的な意味での市民主義的公正性の調整というルール問題をこれまでとまったく変わることなく内包させたまま推移している。
・覚書注:イギリスの労働組合については、サッチャー政権時代に潰されたとの被害者的位置付けでの議論が支配的であるが、これらの著書では、労使関係の変化に対応できなかった労働組合側の限界が指摘されており、新鮮であった。労働組合が弱体化することで、労働組合を通さず、労働者と雇用主が直接交渉する、あるいは、職場での関係のなかで対応する取り組みが進んでいる実情が認識できた。労働組合はこの文脈では適正な労使関係を阻害している可能性がある。また、サッチャー政権以降、イギリスの労使関係のあり方が日本のように企業・事業所単位で編成されているため、労働組合の目指す方向として日本のあり方が参考にされている点が紹介されており、この叙述も新鮮であった。日本のあり方は海外と比べてダメだと議論されることが多く、また、サッチャー政権の取り組みもイギリスを破壊したと批判されることとが多いが、両著のような冷静な研究があることに安心した。

丸尾美奈子「医療特区再考について 社会の多様化を視野に入れた医師偏在解決の処方箋」『ニッセイ基礎研 REPORT』2009年1月。
・わが国では患者の診断や治療及びそれに関連する一連の検査等の診療を行なうために、日本の医師(歯科医師)免許取得が必要であり、外国の医師(歯科医師)免許では診療を行なえない。例外的に外国人医師が国内で医療を行なえるケースとして、「医師免許二国間協定制度」並びに「臨床修練制度」が法律で認められている。「医師免許二国間協定制度」をわが国は英・仏・シンガポール(・米国)と締結しているが、許可枠は数人単位に過ぎず、しかも外国人の診療しか認めていないケースもあるなど、実効性に欠けた制度になっている。また、「臨床修練制度」とは、一定の制約の下で診療を行なう研修であるが、大都市に位置する指定病院に限られているほか、日本の指導医が外国人医師を監督する必要があり、報酬(診療対価としての収入)も認められていないなど、医師不足解消の受け皿には程遠い内容となっている。2008年にインドネシア人の看護師・介護福祉士の受け入れが始まり、フィリピンとのEPA(経済連携協定)の批准も進んでいるが、看護師・介護福祉士の国家資格取得を前提としており(各々3年以内、4年以内の取得が必要)、取得できない場合は帰国措置が予定されている等、ここでも「わが国の国家資格取得」第一の方針が徹底されている。
・覚書注:日本で外国人医師による診察を望む意見があるのだろうか。先進国の実例があるからといって、誰も望まない制度を検討することに意味はないだろう。空虚な議論である。

「2009年海外経済の展望」三菱東京UFJ銀行『経済レビュー』No.2008-16、2008年12月26日。
・英国は住宅バブル崩壊、金融危機の深刻化の中で、先進国のなかでも際立って厳しい景気後退が予想される。2010年まで総額200億ポンドの経済対策が発表された。付加価値税の一時的引き下げ、子供手当や年金支給額の増額などが中心だが、一方で将来の負担増も示されている。このため重い債務負担に苦しむ英国の家計が、消費を増やすとは考え難く、景気押し上げ効果は限定的であろう。2009年前半にかけ景気後退が深刻化しよう。実質GDP成長率は2008年0.8%から2009年マイナス1.8%と先進国のなかでももっとも厳しい景気後退となろう。

自己紹介

benyamin ♂

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