覚書 090214

吉川真裕「ヨーロッパの株式保有構造」日本証券経済研究所『証研レポート』1652号、2009年2月。
・ヨーロッパ全体の2007年の株式保有状況についてみると、外国人が37%で最も多く、次いで国内機関投資家が22%、事業法人が17%、個人が14%、国内金融機関が5%、公的部門が5%となっている。これに対して、わが国の2007年の株式保有状況では、外国人が27.6%で最も多く、次いで事業法人が21.3%、個人が18.2%、国内金融機関が16.4%、国内機関投資家が16.1%、公的部門が0.4%となっている。そして、両者の差をとってみると、ヨーロッパでは外国人が9%、国内機関投資家が6%、公的部門が5%、わが国より大きく、逆に国内金融機関が11%、事業法人が4%、個人が4%、わが国よりも小さいことがわかる。外国人の持ち株比率が高く、個人の持ち株比率が低いことではヨーロッパはわが国以上であり、こうした傾向は世界的なもので、わが国でとりわけ顕著であるということはないことが確認できる。ただし、国ごとのばらつきは大きく、外国人持ち株比率ではキプロスの11%からスロバキアの74%まで、個人持ち株比率ではスロバキアの3%からイタリアの27%まで、さまざまである。
・ヨーロッパでドイツ株についで取引シェアが大きいイギリス株(22%)の株式保有状況をみると、金融機関が44%、外国人が40%、個人が13%、事業法人が3%、公共部門が0%となっている。ヨーロッパ全体との差をとってみると、イギリスでは金融機関が17%、外国人が3%大きく、逆に事業法人が14%、公的部門が5%、個人が1%小さいことがわかる。また、わが国と比べると外国人が12.4%、金融機関が11.9%、公的部門が0.3%高く、事業法人が18.6%、個人が5.4%低い。金融機関と外国人の大きさが目につくが、外国人の持ち株比率はヨーロッパ全体とさほど変わらず、金融機関の持ち株比率の高さと事業法人の持ち株比率の低さがイギリスの株式補給構造の顕著な特徴であり、ヨーロッパ全体の株式保有構造とはやはり大きく異なっている。イギリスでは外国企業によるイギリス企業の買収が多く、外国人の株式比率が高いとみられているが、さほどでもなく、むしろドイツとは逆に企業法人の持ち株比率の低さとファンドを含めた金融機関の持ち株比率の高さが顕著である。そして、金融機関や外国人の持ち株比率が高いことがMTF(取引所類似施設)の取引シェアの高さと関係しているものと考えられる。

「英国の雇用対策」リクルートワークス研究所『欧米主要国の雇用対策』2009年2月10日。
・2008年10月、政府は失業者の再就職支援に向こう3年間で1億ポンドを投入することを発表。現在、人員整理の対象となっている労働者や失業者のスキルアップを図り、現職の分野または新たな分野の継続的な仕事に就けるようサポートする。なお、同年12月に、予算を5,800万ポンド追加し、総額1億5,800万ポンドとすることが発表された。
・2008年11月発表の2008年プレ予算案で、失業者の円滑な再就職を支援するために、向こう2年間で13億ポンドの追加予算を投じることが公表された。
・2009年中に、教育、交通、住宅部門を中心に400億ポンドを投じ、労働者のスキルの底上げや最高10万人の雇用創出を目指す。具体的には、校舎の修復、新たな鉄道の建設、病院関連プロジェクト、超高速ブロードバンドの普及、エコプロジェクト(電気自動車、風力・波力発電)の分野の雇用を増やす。
・失業期間が6カ月以上に及ぶ失業者に対する支援策。2009年4月から2年間で総額5億ポンドを投じ、こうした人材を雇用する企業への報奨金や新たな職業訓練プログラムなどを提供する。
・EU加盟国のパートナー組織と連携し、労働者の就業機会の拡大とスキルアップのために新たな手法を開発、試行、運営する地域的なプロジェクト。イングランドのみで実施。プロジェクトは2009年春に開始予定で、最高3年間実施される。1つのプロジェクトにつき、最高約100万ポンドまで支給される。総予算は2,700万ポンドで、欧州社会基金から拠出される。
・従業員のスキルや専門知識を形成することで、中小企業が不況を乗り切れるようサポートする。1. 助成金を受けられる訓練の種類の柔軟化(事業改善、チームワーク、カスタマーサービス、リスク管理などの領域の短期訓練パッケージを提供)。2. 全国資格枠組みのレベル2の資格を既に取得している従業員に対しても、同レベルの他の資格を取得するための費用を全額支給、および、レベル3の資格を取得するための費用を一部補助する。3. リーダーシップ・マネジメント・プログラムの費用支給対象の拡大(これまで、従業員数10人以上の企業を対象としていたのが、従業員数5人以上の企業へ拡大)。
・9,800万ポンドを投じ、今後必要とされる、様々な分野の高技能労働者を養成するために、個々の企業のニーズに合った職業訓練を提供する。対象となる産業は、1. 化学、医薬品、原子力、石油、2. 土木、3. 放送メディア。
・教育・訓練の計画・資金供給を担当する学習技能評議会(LSC)の2009/10年度予算を121億ポンドに倍増し、若年者の教育・訓練への参加および大学と企業との協力を促進する。2015年以降、全ての若者は18歳になるまでは教育や訓練を継続することが求められる。
・従業員に対して、就業時間中に職務に関連した職業訓練を受ける時間を申請する権利を与えるという趣旨の法案。従業員から申請された場合、雇用主はこれを真剣に検討しなければならない。2010年から導入予定。
・今後3年間で建設業に7,000人分、小売大手数社に3,000人分の見習い訓練を設ける計画。一定数の見習い訓練生を受け入れることを条件としたPFI契約によって、建設業の見習い訓練を創出する見込み。
・1億4,000万ポンドを投じ、2009/10年度に3万5,000人分の見習い訓練を追加する。これで、政府支援の見習い訓練は総計25万人分以上に。
・向こう2年間で8,300万ポンドを投入し、失業期間6カ月以上の失業者7万5,000人に対して、高度な職業訓練を提供し、再就職支援を行う。失業者に提供される職業訓練の概要は以下の通り。また、地域ごとに、LSC、ジョブセンタープラス、地域開発局、部門別技能評議会が協力し、求人市場の状況や雇用主の求めるスキルを特定する。

後藤あす美「英国経済 長期安定成長の清算」大和総研『海外情報 世界経済見通し 景気刺激策の効果を待つ』2009年2月10日。
・2008年Q4のGDP成長率は前期比マイナス1.5%、前年比マイナス0.6%となった。1992年Q3以降、安定的なプラス成長を続けてきた英国が、鋭角的にリセッション入りした背景には、肥大化した金融業が存在した。市場主義を遂行させたことによって、金融システムと消費者・企業の関係が密接になり、金融業(仲介業も含め)はGDPの3割を稼ぎ出し、雇用の2割を担う規模まで拡大した。金融業は民間企業に対しては対GDP比で4割近く、家計に対しては同9割以上の貸付を行うまでに発展した。家計に対する融資は、住宅ローンが中心である。
・英国人の消費動向に深刻な危機感が感じられない。2008年12月の小売売上高は前月比プラス1.6%、前年比プラス3.9%と大幅に落ち込む兆しが見られない。BoEが大幅な利下げを断行し、政府はVAT税率の引き下げを08年12月から実施し、消費の底上げを図った。更に政府は住宅ローン返済サポートを2009年に入って拡充させており、これによって、家計の危機的状況に対する認識が甘くなっている。
・このような経済構造を踏まえると、英政府やBoEの施策が、金融業界への対応や家計の下支えに集中してしまうのは致し方ない。しかし、金融機関の動向は二極化している。英国の公的資金を受け入れたロイズTSBやRBSは、資産のオフバランス化や政府保証を利用すると考えられる。けれども、対策に充てられる資金では不十分と考えられる。逆に、HSBCやスタンダード・チャータード等は、融資拡大条件を突きつけられるならば、自力でバランスシートの改善や収益確保を行うことに尽力する姿勢でいる。この場合、金融安定化の足並みが揃うまでの時間・費用が嵩み、景気下振れ長期化が予想される。
・覚書注:金融業が肥大化したとか、家計の消費に対する認識が甘くなっているとか、根拠もなく言い切っている割には、ネガティブすぎる内容に満ちたレポートである。分析に弱気になっている姿勢を如実に示している。あるいは、上司から指示だろうか。

後藤あす美「英国経済見通し G20までの土台作りへ」大和総研『海外情報』2009年2月10日。
・2月5日、BoEは市場予想通り、政策金利を50bpt引き下げ、1%にすることを決定した。BoEの声明文には、利下げの理由として、新興国にまで広がった世界的な景気悪化、英国内での生産・消費・融資状況のタイト化、物価の急速な低下が挙げられている。同様に50bptの利下げを実施した1月の金融政策委員会の議事録では、2008年10月以降の大幅且つ急激な利下げに対して、効果を慎重に見極める必要性があるとのスタンスが垣間見られた。しかし、最終的な決議の際は、雇用市場の縮小を危惧し、ブランチフラワー委員が100bptの利下げを主張するなど、追加利下げを強く要求する動きもあった。また、足元では、市場の期待に対しネガティブサプライズになる判断をBoEがした場合、株式市場や為替、債券市場を押し下げる危険性があった。2月の金融政策委員会の時点では、BoEは、英政府から民間部門の資産買取の権限も得ており、市場の期待をどう判断するか、前回以上に気にしていた可能性もある。今回(2月)の決定時も、追加利下げの有効性、景気下振れ指標の吟味、BoEの判断に対する市場の許容範囲の3つの観点が議論に挙がっていたと考えられる。
・消費者信頼感指数の構成項目の購買意欲のみが改善している。賃金上昇率に関しては、着実に抑制されているが、その速度が遅い。2007年時点からボーナスカット等でコスト削減に努めていたセクターは小売業や建設業、機器メーカー等であった。一方で、金融業や公共部門では、前年比で伸びは低いものの、ボーナスを支給してもらっているケースが多い。公的資金を注入された金融機関のボーナス支給に関する議論が続いているが、それとは別に、職を失ったことによって一時的に拡大した手元資金によって、家計の消費への危機感が薄らいでしまったようだ。2008年12月から2009年1月にかけての大幅値下げも家計に活気を与えたように見えた。価格が大きく下落した住宅購入に関しても、前向きな指数となってきていた。しかし、その消費は、企業倒産の急増とそれに伴う失業者増加、更に46年ぶりと言われる寒波到来で、急低下する可能性が出てきた。大雪は、空港閉鎖・地下鉄ストップと経済混乱をもたらし、英小企業連盟(FSB)の発表では35億ポンドの経済損失と試算されている。もちろん大雪対策に関連する商品は品切れになる状況だが、家具・家電等ただでさえ苦戦していた分野は厳しいと予想される。
・金融安定化策に関しては、2008年4月発表の流動性特別スキーム発表以降、2008年9、10月で預金保護や空売り規制、オペ受け入れ担保の拡大、公的資金注入、銀行間取引の政府保証債発行等を即時実施し、順次期間や規模の見直しを図ってきた。2009年1月19日に発表された金融安定化策第二弾に関しても、民間部門の資産の買取は2月13日よりCPの買取という形で徐々に起動してきており、金融機関の不良資産の保証は2月最終週までに詳細が発表され、ABS保証制度は4月から創設される予定だ。ある程度の目処が立っており、過去の対応も考慮すると、比較的迅速な対応と評価できよう。ただ、景気対策に関しては他国と比較して、遅れをとっていると同時に、既に講じられている対策の効果は限定されている。VAT 税率引き下げや、児童手当・年金受給額増額などは、規模が小さく、寧ろ小売業の大幅値下げや資源価格の低下の方が好材料となった。唯一、いち早く手がけた住宅市場の救済は多少の効果を生み出しているのかもしれない。住宅価格指数が、前月比での下落率を一方的に拡大してゆく気配は無い。1月のハリファックス住宅価格指数の場合は前月比プラス1.9%となった。しかし、その裏で、2008年10-12月期の個人破産件数は、前期比プラス8.2%増の2.9万件と急増した。いくら住宅ローンの利払いに猶予が出来たとしても、雇用の不安定さを勘案すると、住宅市場を反発に導くほどの効果をもたらしてはいない。
・2008年11月24日発表のプレ・バジェットに30億ポンド規模の資本支出計画を前倒し(2011年度実施分を2009年度と2010年度に)することが盛り込まれており、2009年1月5日には、ブラウン首相が2010年までに総額400億ポンドの公共事業(対GDP比で2.8-3.0%程度)を行って、10万人雇用創出を目指すことも明言した。しかしながら、1月12日に発表された雇用対策は、7.5万人を対象にした職業訓練プログラムの実施や、向こう2年間で半年以上失業状態にある人を雇用した企業には最大2500ポンドずつ支給する制度の設置であり、政府は本腰で対策を講じているのか疑いたくなるものであった。
・英政府は4月2日にロンドンで開催されるG20金融サミットに並々ならぬ熱意を傾けている。ちょうど、アジア通貨危機を踏まえて開催された1998年のバーミンガム・サミットに近い状況だ。英国としては、金融セクターの回復を目指すために、会計基準や、バッドバンク構想に関係する不良資産の買取基準等を協議したいからである。欧州委員会のアルムニア委員もバッドバンク構想についてG20で協議される見通しを示唆した。仏サルコジ大統領は為替問題も議論したいとしている。ある意味、G20金融サミットには英政府の威信がかかっている。だからこそ、3月中には、英政府の打ち出した方針に、英国の金融機関等から一致した賛同を得ている必要がある。そうなると、G20後の4月末位までには金融安定化策の第2弾の詳細が詰められ、実行される可能性は高い。国の威信が問われる

「英国の地域再生政策」自治体国際化協会『CLAIR REPORT』No.253、2004年5月28日。
・英国で地域再生政策が導入された最大の理由は、1960年代に都市部を中心に顕在化したインナー・シティ問題であり、特に産業構造の転換等による経済的衰退とそれに伴う高失業率が問題の深刻さに拍車をかけた。衰退地域の居住者には、少数民族、失業者、低所得者など社会的弱者が数多く含まれていたため、政府が実施する政策は社会福祉分野に重点が置かれていたが、1977年政策報告書により、都市部の経済的衰退が最大の問題であるとの認識が定着した。その結果、アーバン事業は経済開発を重視する方向へと修正されたが、同時に環境、レクリエーション事業を含む広範な事業が対象となった。このため、政策目標が曖昧になり、後の保守党政権の政策に見られるような、一定期間に期限を区切った戦略性の高い政策と異なる印象は否めない。これに対し、1979年に成立したサッチャー保守党政権は、政権発足当初こそアーバン事業の基本的枠組みを継承したものの、新たに経済開発に特化した地域再生政策を導入した。具体的には、都市開発補助金(Urban Development Grant:UDG)及び都市再生補助金(Urban Regeneration Grant:URG)の補助金に加え、都市開発公社(Urban Development Corporations:UDC)及びエンタープライズ・ゾーン(Enterprise Zones:EZ)という制度的枠組みが導入された。両政党間の地域再生政策の相違点を詳細に分析した研究は数多く存在するため詳しく説明することは避けるが、端的に言えば、地域再生政策の実施・推進機関としての地方自治体の役割に関する評価の違いが具体的政策に反映されていると考えられる。英国の地方自治体は、開発計画に関し、一般的に強い法的権限を有している。自治体構造が2層制の地域においては、広域自治体(County)が土地利用、住宅配置、雇用、通信輸送体系を含む長期の「基本計画(Structure Plan)」を担当し、基礎的自治体(District)は、基本計画に基づいて「地方計画(Local Plan)」を策定・実施する。すなわち、開発計画の作成及び実施は、本来地方自治体の業務であり、中央政府の役割は法律等の制定、地方自治体間の調整、地方自治体に対する財政支援とそれぞれの役割が明確に分かれているのが大きな特徴である。サッチャー保守党政権は、こうした従来の開発方式を大幅に変更した。インナー・シティ問題をはじめ、地方自治体だけでは手に負えないほど衰退が進んだ地域においては、政府の直接的な介入が必要であり、開発計画に関する地方自治体の権限は開発の阻害要因であると判断されたのである。地方自治体の開発計画の実施権が移管された都市開発公社(UDC)や規制緩和措置により企業誘致を図ったエンタープライズ・ゾーン(EZ)は、こうした地方自治体の開発行政権限を抑制しようとする試みであったと言える。地域再生政策の主体という論点に関連して、パートナーシップの重要性について触れておく。本節で紹介したとおり、1977年政策報告書において、地方自治体が政府、民間部門、ボランティア団体等と協力する必要性について言及されてはいたが、パートナーシップに対する関心は乏しく、地域住民を含め地域における地方自治体以外の主体に対する期待は小さかった。サッチャー政権の推進した経済政策は、地方自治体の役割を抑制し、政府と民間部門の直接的な結びつきを強化したが、その経験は後のブレア労働党政権により推進されるパブリック・プライベート・パートナーシップ(Public Private Partnerships)の展開を促す結果につながっていると評価できるのではないか。
・英国の地域再生事業に対する資金支援策は、極めて広範囲に及び、目的、配分方式なども複雑であるが、資金の出所に着目すれば、1. 欧州連合(European Union、以下「EU」と略称)、2. 政府及び地方自治体、3. 政府及び地方自治体以外の準公的部門の3類型に大別することができる。このうち、政府から事業主体(地方自治体、パートナーシップを含む)に対する資金支援策に見られる一般的特徴をまとめると次のとおりとなる。第一の特徴は、広く薄く配分される補助金の割合が減少している点である。より具体的には、1. 地方自治体やパートナーシップから自由提案方式で寄せられた事業計画の中から、地域性や独創性を反映した補助対象事業を選考する「競争原理」を導入した補助金の配分方式、2. 使途が特定されない包括的な補助金であっても、荒廃状況が著しく、他の地域との社会的・経済的格差の大きい特定地域を選択するなど、地域再生の必要性や優先順位の高い地域に対し集中的に資金投入する方式が主流になりつつある。第二の特徴として、地域再生事業を運営、実施する主体が必ずしも地方自治体に限定されない点を指摘することができる。例えば、「近隣地域再生資金(Neighbourhood Renewal Fund)」の受給に当たっては、地方自治体、民間企業、ボランティア団体などにより構成される「地域戦略パートナーシップ(Local Strategic Partnership)」の設置が義務づけられている。地域再生政策が、地域固有の問題点を長期的視点に基づき改善していく試みである以上、地域住民や利害関係者の主体的な参画を促す政策の導入は当然の流れと言えよう。第三の特徴は、前記のパートナーシップの促進に関連して、補助金の使途が必ずしも設備建設費や事業運営費だけに限定されず、パートナーシップにおいて地域再生を図るための有効な方策を議論し、実施計画を策定するための活動支援などに充当することが可能な点である。
・2003年9月25日、監査委員会(Audit Commission)は「経済及びコミュニティの再生:監査から得られた教訓(Economic and community regeneration : Learning from inspection)」と題する報告書を公表した。経済及びコミュニティの再生に焦点を絞った地域再生事業を展開する66地方自治体に対する監査結果に基づき、地方自治体別に総合評価及び将来的な改善の可能性を示した初めての包括的報告書という点に意義がある。
・1970年代に都市問題が深刻化したことに伴い、「1978年都市中心地域法(Inner Urban Areas Act 1978)」が制定されたが、この法律により、インナーシティー・パートナーシップという考え方が提唱された。ここでのパートナーシップとは、中央政府と地方自治体との協働を目指すものであった。1980年代になると、サッチャー政権は中央政府と民間企業との間にいわゆるPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)の考え方を導入し、民間活力を導入することに成功した。しかしながら、この段階では地方の声が反映されないといった反省点が浮上してきた。そこで、1990年代に入ると、ボランティアやコミュニティーなどにより形成されるパートナーシップの積極的な導入が図られ、地方自治体にはパートナーシップを構築・運営する上で主要な役割が期待されることとなった。1997年に成立した労働党政権は数々の改革に着手したが、その多くは特別地区の設置に重点を置いたものであり、例えば失業者に対する職業訓練制度を実施する「エンプロイメント・ゾーン(Employment Zone)」など、個別の行政課題に対応した特定区域が設定された。1999年末現在、12地区で地域再生計画が実施され、30地区でその他の計画が行われるようになった。これ以外にも地方自治体協議会(Local Government Association)が20の先進自治体とパートナーシップを形成し、5か年の地域再生プログラムを開始している。しかしながら、名前は地域再生であるが、この組織は地域から自発的に芽生えたのではなく、中央政府及び地域開発公社1が提唱する戦略に則って形成された存在に過ぎなかった。したがって、地域にとって何が重要であるかという一番重要な論点について、地方自治体や住民が自主的に判断するという意識に乏しく、戦略のための地域再生という逆説的な結果に陥ってしまった。2000年代になると、パートナーシップという用語は様々な分野で用いられるようになった。しかしながらパートナーシップが増えすぎ、限られた助成金が様々な機関に無原則に配分され、効率よく事業を実施できないという問題が新たに浮上してきた。政府は、こうした反省点を踏まえ、より多くのパートナーシップを包括する総合的なパートナーシップである地域戦略パートナーシップ(Local Strategic Partnership)の導入を発表した。この制度により、無計画に増加し続けるパートナーシップの数を抑制するとともに、効果的に運営されているパートナーシップについては権限の拡大が推進されたため、より地域に根ざしたパートナーシップが結成できるようになった。政府はパートナーシップに関する情報を他地域でもうまく活用できるようにするという間接的な役割を果たすこととなった。
・英国の都市再生の歴史は1940年代に遡る。産業構造の変化による失業率の増大、戦災地区などを中心とした都市の荒廃に対処するため、「1947年都市・田園計画法(Town and Country Planning Act 1947)」によって総合開発地区(Comprehensive Development Area)制度が設けられた。これにより政府は強制収用権を用いて総合的な都市計画を推進することとなる。政府は1960年代までこの総合開発地区制度によるスクラップ・アンド・ビルドによる開発を進めた。しかしながら、シビックトラストなどの活動が盛んになり人々の環境、歴史への関心が高まると、それまでの資本への投資、開発だけではなく社会生活への関心も同じように必要だと認識されるようになった。そこで「1967年シビック・アメニティー法(Civic Amenities Act1967)」を成立させ、歴史的地区の保全を行い、「1969年住居法(Housing Act1969)」による住宅街の整備を行うようになった。1970年代後半になると、中心市街地再生が経済問題の重要な鍵を握ると考えられ始め、民間資本とのパートナーシップにより多くの大規模建設が行われた。1979年には「1979年都市地域法(Inner Urban Areas Act1979)」の制定により、経済、社会的な衰退の著しい都市を国が指定し、長期かつ低利の貸付金によって産業振興が行われるようになった。また、1980年には「1980年地方自治・計画・土地法(Local Government, Planning and Land Act1980)により都市開発公社(Urban Development Corporation)の設立、エンタープライズゾーン(Enterprize Zone)の指定を行うなどの積極的な介入を政府は行ってきた。しかしながら、90年代後半になると、それまでの政策によって建築された大規模建築物がコミュニティー意識を失わせている原因の一因であるとその開発方式が疑問視されるようになった。そこで資本の整備だけではなく、住宅、公共スペース、中心市街地へ関心が向けられるようになった。現在の政策は地域間格差の是正に焦点が当てられている。このため、数多くの荒廃地域を抱える大都市域の地方自治体に地域再生関連の補助金が重点的に配分される傾向があり、結果的として田園地域に所属する地方自治体は、地域再生事業の積極的実施が困難な状況に置かれている。
・英国の田園地域が持つ美しい景観は日本においても有名であるが、観光地として広く認知された一部の地域を除いては、経済基盤の脆弱性という問題を抱えており、かなり以前から地域再生の必要性は認識されていた。しかしながら、開発か保護かという論争的なテーマを内包していることから、田園地域における地域再生政策はなかなか軌道に乗れない状態が長く続いていた。1949年には「1949年国立公園・田園地域への交通法(National Park and Access to the Countryside Act 1949)」が制定されたが、十分な予算措置等は伴わず、田園地域の活性化という行政課題は事実上放置されていた。こうした状況を踏まえ、政府は1966年に政策報告書「田園地域におけるレジャー(Leisure in the countryside)」を公表するとともに、「1968年田園地域法(Countryside Act 1968)」を制定し、当時存在していた国立公園協会を廃止して、より広範な権限を持ち、予算規模も大きい田園地域協会を発足させた。同時に地方自治体の権限を広げ、田園地域に公園を設置できるようにした。田園地域における公園は、国立公園ほど規制が厳しくなかったため、地方自治体によるレジャー産業として公園の運営は順調に進んだ。1972年の地方自治体の大規模な再編に伴い、管轄区域内に国立公園を持つ地方自治体は、その運営を行う専門機関を設けるべきとの声が上がり、1995年には「1995年環境法(Environment Act 1995)」により国立公園特別協会が設立され、全ての国立公園がその管理下に置かれることとなった。また、1980年代後半から90年代にかけて発生した狂牛病も、農業を中心とする田園地域の経済に深刻な影響を与えた。こうした情勢を受け、田園地域の再生には、農業だけでなく多様化した経済基盤が必要であるとの認識が醸成された。そのアプローチのひとつが、「2000年田園地域・通行権法(Countryside and Rights of Way Act 2000)」の制定である。この法律は、地方における交通整備や自然保護、自然との共存を図ることを目的としており、観光分野に関する田園地域の経済基盤を整えものである。このほかにも、RDAが中心となったルーラル・ルネッサンス事業(次節参照)により、経済基盤の強化が図られている。
・英国の地域再生政策は、その制度面に着目すれば、財政支援措置及び開発・計画制度ともに国(中央政府)において基本的な制度設計が行われ、地域(Region)更に地方自治体へと政策が収斂される仕組みとなっており、政府主導の政策であるとの印象を受ける。国際競争力の低下につながる地域間格差を是正するという観点からも地域再生政策を推進している政府としては、問題解決の突破口となる成功事例を出来る限り多く積み上げ、それを国全体へ拡大・浸透させたいとする意図の表れでもある。しかしながら、こうしたトップダウン式の制度だけでは、地域住民の意見や要望を的確に把握し、現実の政策運用に反映させることが困難であるという問題点がどうしても残ってしまう。そこで、地方自治体と諸団体がパートナーシップを形成することにより、地域住民の多様な意見を可能な限り吸収する仕組みを講じるとともに、開発・計画制度においては、骨格となる指針のみを政府が策定し、開発許可などその具体的運用に関しては、地方自治体に比較的広範な裁量権が付与されている。地方自治体から更にコミュニティ・レベルにまで視点を移してみたい。イングランドの地方選挙における投票率が30%台で低迷している事実からも明らかなように、地域住民の公共活動全般に対する参画意識・関心の低さは英国においても大きな課題である。例えば、ブローンストン地区では、公営住宅の解体・撤去案と大規模修繕案を争点に実施された住民投票において80%以上の投票率を記録した反面、住民協議会の運営方針に関するアンケート調査の回収率は2.1%に過ぎなかった。この数字が示すとおり、地域住民は直接的な利害関係のある身近な争点に関しては強い関心を示すものの、地域全体の将来などより広範な公共活動に対する関心は極めて低調であり、日本の実情とも共通する課題である。 端的に言えば、英国の地域再生政策から日本が学ぶべき点は、実施されている事業の内容そのものよりも、パートナーシップを活用したその運営方法にあると言えるのではないだろうか。この場合、英国全体で20万以上存在すると言われる非営利団体(Non-profit Organisation:NPO)が地域において多大な貢献をしているという裾野の広さの違いを無視することはできない。しかしながら、ボランタリズムに関する日英間の歴史的・文化的背景の違いを過度に強調する一般的論調から日本の地方自治体が得るものは少ない。パートナーシップの形成を補助金の交付要件とし、地域再生政策の重要な担い手である地域住民の資質・能力を向上させるための少額の経費を地域再生政策の補助金として認定して運用するなど、英国においては地味ではあるが継続的な努力が払われている点が改めて認識されてよいと思われる。

「英国の地方選挙風景(地方版マニュフェストの実情)」自治体国際化協会『CLAIR REPORT』No.272、2005年10月14日。
・英国のマニフェストについては国政については多く紹介されている。一般に各政党の「政権公約」を意味し、マニフェストを通じて各政党は、政権を獲得した時には「必ず実行する政策」を国民に約束する。しかし、地方版マニフェストについてはこれまで実態が明らかにされてはいない。
・英国において、マニフェストは有権者が各政党の具体的な政策を理解するための手段として定着している。近年日本でも多く紹介されているように、英国の「国政選挙」においては、各政党が発表するマニフェストは期限・目標・財源付きで政権獲得後に実現する政策を明記したものとなっている。英国のメディアも総選挙時には各党のマニフェストを比較し、有権者が投票する時の重要な判断材料となっている。しかし、英国の「地方選挙」のマニフェストに目を移すと、目標を達成する具体的な手段と財源が明示されているものは少なく、有権者への配布部数も極めて少ない。この背景には、英国の地方自治体の役割が、英国議会から授権された事務のみを行うという限定されたものになっていることがある。財政状況は一般的に8割弱を政府からの補助金等に依存し、財政面での自主性も極めて限られている。英国の地方版マニフェストを読み進める上で、日本より更に中央集権的な一面を持つ英国の中央・地方関係を理解する必要があるであろう。
・英国では地方選挙における投票率は概ね25-35%と低迷している。2004年6月に実施された地方選挙の平均投票率は40%と若干上向いたものの、相変わらず低調であった。これは、国政選挙(70-80%程度、ただし、2001年6月の国政選挙は59.2%)や他のEU諸国の地方選挙と比較しても低い水準にある。投票率低迷の要因として、伝統的にほとんどの選挙区で小選挙区制が採用されているため死票が多くなることや、政党政治が地方まで浸透し、各政党の「地盤」が明確であらかじめ勝つ候補者がわかるため有権者の関心が低いこと、さらには地方自治体の権限が小さいため「地方自治」そのものに対する関心が低いことなどが指摘されている。また、現在の英国経済が順調なため、大きな争点がないということも投票率低下の原因のひとつとも言われている。
・2002年地方選挙において、郵便投票制度のパイロット・スキームを実施した地方自治体において平均で14%投票率が上昇するなど目覚ましい結果が見られた。これを受け、政府は郵便投票の拡大に乗り出している。2004年6月10日に行われた地方選挙においては、イングランドの4地域で従来のような投票所での投票を行わず、有権者全員が投票用紙の郵送による郵便投票を行う「全面的郵便投票制度」が試みられた。当初選挙管理委員会はこの政府の方針に懸念を表明しており、郵便投票時の本人確認登録手続を明確に規定する法の枠組みを整備することを求めていた。また、英国議会貴族院も郵便投票制度によって不正行為が行われることを懸念しており、投票者本人が申告する本人確認(Security statement)に代えて第三者による本人確認(Witness statement)を投票用紙に添付する制度を導入するよう政府に要求していた。貴族院の要求事項を取り入れた新法案は2004年4月1日に成立したが、同年6月の投票日は間近で、地方自治体が新法の下で選挙を実施するための準備時間はほとんど残されていなかった。特に、全有権者の自宅に投票用紙が投票日までに届くかどうか大きな疑問が呈されていた。6月の選挙を終え、イングランド4地域で実施された全面的な郵便投票の結果は、良い結果と悪い結果の双方を示した。肯定的側面としては、当該4地域の平均投票率が郵便投票を行わなかった地域より5%高かったことである。一方、否定的側面として、投票用紙の配布及び不正行為の申し立ての二点において問題が発生したことである。4地域における全面的郵便投票の結果をまとめた選挙管理委員会の報告書では、これらの地域において不正行為が広範囲に発生した事実を否定している。また、選挙管理委員会が実施したアンケートでは、4地域の住民が全面的郵便投票制度に大きく満足している結果が出ている。しかし、郵便投票が行われなかった地域に比べて不正行為が行われやすいことに住民が大きな懸念を持っていることもアンケートで明らかにされている。選挙管理委員会の主な考え方は、全面的郵便投票制度をやめて、郵便投票を望む人だけがその選択肢を採れるようにすることである。政府が好ましいと考えている選挙方法もマルチ・チャンネル式の選挙方式であり、有権者が郵便投票か従来型の投票所での投票の2つの選択肢を与えられるべきとしており、今後この制度をイングランド全体に拡大していくことを検討している。
・中央政府は地方自治体に対して強大な権限を保持しており、自主財源も乏しい中、地方自治体の改革にも限界がある。その結果、マスメディアも国政選挙と違って地方選挙の報道にそれほど力を入れていない。選挙運動期間中、特別なニュースがない時に候補者討論会の模様を報道するくらいである。ほとんどの放送局は、メディアを管轄している文化・メディア・スポーツ省(Department for Culture, Media and Sport)との間で交わしている公共サービス規則に従って、地方選挙での候補者討論会の模様を最小限に報道している。各新聞で地方選挙キャンペーンについての記事は掲載されるが、大々的に紙面で取り扱われることは少ない。メディアの主要な選挙報道方法は政党政見放送(the Party Election Broadcasts)であり、主要なテレビチャンネル(BBC、ITV等)で放映される。「1990 年報道法(the Broadcasting Act 1990)」の規定により、各主要政党は選挙期間中最低一回は政見放送を行う権利があり、政党は自らの政策を述べ、対立政党の政策を非難する。ただし、「政党政治放送に関する委員会(The Committee on Party Political Broadcasting)」の定める「50議席ルール(the fifty seat rule)」により、政党が総選挙及び地方選挙で政見放送を行うためには、前回総選挙において最低50議席を確保しなければならないことが取り決められている。ただし地方選挙の場合であっても、テレビ局は首相や党首といった国会議員をしばしば起用する。従って、ロンドン市長選などを除き、地方政治家がテレビの政見放送で政策などを論じる機会はほとんどない。英国では、地方選挙は中央政権の政策遂行能力を評価するための中間投票であると言われることもある。地方選挙投票日の夜、BBC放送は投票時間が終わると選挙結果に関する報道特別番組を編成し、どの自治体で支配政党が代わったかを表示して、選挙結果に対する国会議員の反応をニュースで伝える。これまで述べたように地方選挙の投票率は概して低く、マスメディアで選挙結果を見守る人も少ない。その他では地方選挙結果を大きく報道する媒体は少ない。一般的に地方選挙について報道する媒体は、公共放送であるBBC、「ガーディアン」や「タイムズ」といった高級新聞紙である。英国には日本のような新聞宅配制度はなく、高級新聞紙よりも王室スキャンダルなどのゴシップ記事を多く載せている「サン」や「デイリー・ミラー」などのタブロイド紙を購入している人が多いので、地方選を報道しないそれらの新聞購読者は興味を示さないままに終わる。このようにマスコミで地方選が注目されないことも地方選挙の低投票率の原因となっているであろう。しかし、2004年6月に行われたGLA(ロンドン)市長選挙については市民・マスコミの注目度も高く、各新聞や雑誌で盛んに政策論議が行われ、市長候補者達はBBCの選挙討論番組で熱い政策論争を広げていた。
・英国の選挙では、日本のような顔写真のポスターは少なく、候補者を連呼する選挙カーはほとんど見かけない。候補者が選挙カーに乗り拡声器で支持を訴えたりすると、有権者に不快感を与えることになりかねない。支持者の庭先や家の窓に政党のポスターが貼られることもあるが、それほど多くはない。それでは、英国の候補者達が何に力を入れているかといえば政策論争である。自分の所属政党が発表する公約を掲げて相手候補者と討論し、各家庭を戸別訪問して公約のダイジェスト版(チラシ)を渡して支持を訴える。英国では、米国など多くの国々と同様に、戸別訪問をしても選挙違反には問われない。禁止されていないどころか、戸別訪問は選挙運動の主体となっている。また、近年は各政党ともインターネットを重要な選挙運動の手段と位置付けている。マニフェストの配布についても、電話で要請を受けて郵送するよりもインターネット上からダウンロードするケースが一般的になっている。合わせて電子メールも活用しており、支持者に対して定期的にメールニュースを流すなど、政党にとって安価な宣伝手段として位置づけられている。また、2004年GLA市長選では、政党ホームページ上で支持者からのメールでの提言・質問を受け付け、マニフェストの政策作りに活かしている事例も見受けられた。英国の候補者達は、選挙期間中、会社の有給休暇を使い、落選後に元の会社に復帰すことも普通である。前述のGLA市長選の自由民主党候補者も国会議員の地位を保持したまま選挙戦を戦い、落選したので再び国会議員の職を続けている。
・英国のマニフェストというと、国政選挙での各政党の政権公約が知られているが、地方レベルの選挙でもマニフェストは存在する。地方選挙でも、候補者個人がマニフェストを作成するのではなく、各政党がマニフェストを作成するのが一般的である。地方版マニフェストで具体的な政策を掲げると、カウンシル事務職員も目標に向けて仕事がしやすく、有権者にも政党の考え方を知ってもらうことができ多くの利点がある。しかし、もしその公約を達成できなければ激しい非難を受けることになる。その理由から、リバプール自由民主党など現在地方自治体の支配政党となっているところでも、地方版マニフェストを作成せずに選挙戦を戦っている地方政党も存在している。
・英国では地方選挙における投票率は低迷している。地方版マニフェストも国政レベルのマニフェストほど注目されず、マスメディアも地方選挙結果の報道に熱心ではない。地方版マニフェストの事例を見ても、政権獲得後に実現する政策を「期限」「数値目標」「財源」付きで明記したものは必ずしも多くない。この背景として、地方自治体の権限の小ささが挙げられる。地方自治体は、英国議会が制定する法律により個別に授権された事務のみを処理できる。業務が限定的であるため、独自性を発揮した政策を打ち出しにくい面がある。また、英国の地方自治体の財政状況は、一般的に8割弱を政府からの補助金等に依存しており、自主性は極めて限られている。自主財源の乏しい英国の地方財政状況は、EU諸国の中で最も中央集権的なものであると批判されており、大きな論争の的となっている。このような背景から、英国の地方版マニフェストの多くは目標を達成するための具体的な手段と財源が明示されているものは少なく、外部からの検証も厳密にはなされていない。しかし、マニフェストを比較することによって、住民は各政党や候補者の具体的な政策をよく理解することができ、投票時の重要な判断材料となっているのも事実である。有権者に地方選挙の関心を持ってもらうことが英国政府の大きな課題である。

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benyamin ♂

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