覚書 090228

「Morgan Stanley Strategy Forum」『Morgan Stanley Research』2009年2月18日。
・金融安定化を目指した取り組みが続く中、英国について取り上げたい。弊社の英国株式ストラテジストのGraham Seckerおよび欧州金利ストラテジストであるLaurence Mutkinは、市場参加者が考えている以上に英国の財政状況について好意的な見方をしている。
・Graham Secker:英国の財政状況は悪いが、絶望的なわけではない。公的部門における純債務残高の対GDP比率(金融介入については除く)は、政府の見通しによれば、向こう数年の間に少なくとも60%へ上昇すると予想されている。我々の見るところ、同比率は70-90%のレンジへ上昇する可能性が高い。これは、確かに良い数字とは言えない。しかしながら、世界的に見た場合、英国の財政が飛びぬけて異常に悪い状態にあるわけではない。経済協力開発機構(OECD)のデータによれば、英国の政府債務の対GDP比率は現在、OECD平均を下回っており、G7諸国の中ではカナダに次いで2番目に低い。
・Laurence Mutkin:先週英国において発表された新たなニュースの中で主たるものは、イングランド銀行の四半期インフレ報告と中銀総裁の記者会見である。インフレ報告は英国経済やインフレの先行きに対して驚くほど悲観的で、極端にハト派的な内容だった。イングランド銀行は、インフレ率(CPI上昇率)を中期的に2%に維持する責務を負っている。しかしながら、先週発表されたインフレ報告では、向こう2年間インフレ率は目標の2%を大きく(少なくとも100bp)下回る可能性があるとの見通しが示されている。換言すれば、伝統的な金融政策手段の効果は薄れており、イングランド銀行もその点を認識している。そうした中銀の認識は、記者会見における量的緩和を示唆する総裁の発言に繋がった。実際、マービン・キング総裁は、11日の記者会見において、マネーを十分に供給しインフレ率を中期的に目標水準に押し上げるために、まもなくギルト債の購入を開始する用意がある、と示唆した。これは、エージェンシー債/米国債購入を正当化する理由としてFedが挙げた点(つまり、市場金利、特にモーゲージ金利の押し下げが狙い)とは非常に異なる。イングランド銀行の場合、目的は、ギルト債利回りそのものを操作することではなく、民間部門へキャッシュを投入する手段としてギルト債購入を利用するところにある。

前田宏子「第14回 イギリス政府の対中戦略ペーパー」PHP研究所『PHPリサーチニュース』Vol.7、NO.149、2009年2月6日。
・政府レベルでは、各国は中国との経済関係を重視し、関係強化に力を入れている。ケンブリッジ大学の講演のあと、イギリス政府は直ちに中国政府に謝罪し、靴を投げた人物を法に則って処罰する旨を通知した。イギリス政府は温首相の訪英に先がけて、初めて対中戦略ペーパー(China Strategy Paper)を発表し、中国重視の姿勢を示していたところであった。『イギリスと中国:関与の枠組み』と名づけられたこのペーパーには、今後4年間のイギリスの対中政策に関する指針が示されている。想定している期間・内容を見ると、戦略ペーパーというよりは、ブラウン政権の対中政策方針といったほうが相応しい気がするが、ともかく初めての対中戦略ペーパーである。内容は、イギリス外交にとって、中国との関係が今後数年の最優先事項の一つであり、中英の間に意見の相違はあっても、対立ではなく協力を基調として対話を進めていくと述べている。「中国の経済発展からイギリスが利益を獲得するために」、「中国が責任ある大国(responsible global player)となるのを促進するために」、「中国の持続可能な発展、近代化、国内改革を促すために」という三つの柱から、それぞれ政策が掲げられているが、実際にイギリス政府がもっとも重視しているのは、一つ目の経済的利益の獲得なのは明らかである。全体の考え方は、アメリカの「責任ある大国(responsible stakeholder)」論と共通しており、日本の立場から見ても、この戦略ペーパーの方針や政策に反対すべき点はない。ただ、中国の将来に対する極めて楽観的な態度と、中国の国内問題への関心の低さに(人権問題については穏当な表現ながら改善の要求がされているが)、ヨーロッパから見る中国と、我々が見る中国は異なるのだと再認識させられる。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部「米国・欧州主要国の景気概況 2009年1月号」『調査レポート』08/61、2009年2月20日。
・英国の景気は低迷している。2008年10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率マイナス5.9%と、1980年以来28年ぶりの大幅なマイナス成長となった。企業部門では、12月の製造業生産は前年比10.2%減と9ヶ月連続で減少した。家計部門では、12月の小売売上が前年比3.9%増と持ち直したが、1984年の統計開始以来最大の下落幅となった住宅価格下落の影響により、消費の基調は弱い。物価動向をみると、12月の消費者物価上昇率は前年比3.1%と3ヶ月連続で低下した。BOE(イングランド銀行)は2月4日、5日の金融政策委員会(MPC)で政策金利である短期レポ金利を0.5%引き下げ1%とした。利下げは5ヶ月連続となり、史上最低の金利水準を更新した。景気低迷は一段と深刻化し、追加利下げの実施が確実視されるなか、量的緩和政策への移行が当面の金融政策の焦点となっている。

「ユーロ圏は厳しい景気後退局面が継続、英国も急速に景気が悪化、2009年はマイナス成長」三菱東京UFJ銀行『欧州経済の見通し』2009年2月23日。
・英国経済は急速に悪化している。2008年10-12月期の実質GDP成長率は前年比マイナス1.8%と前年水準を下回った。前期比ではマイナス1.5%と7-9月期のマイナス0.6%に続いて2期連続でのマイナス成長である。需要項目別の内訳をみると、設備投資などを含む総固定資本形成が引き続き落ち込んだほか、最大の需要項目である個人消費も前年水準を下回ったとみられる。多くの経済指標が悪化を示しているが、とりわけ失業率が急上昇している点が懸念される。失業率は1月に3.8%まで上昇した。こうした雇用環境の悪化は、消費者マインドを冷やし、個人消費を低迷させている。実際に消費者信頼感指数は1月に大きく低下した。内訳をみると、購買計画など全ての構成項目が悪化しており、消費の源泉である雇用所得環境の悪化が消費者マインドに影響を与えている。また、こうした雇用不安は、住宅ローンにも影響している。住宅ローンの延滞率は徐々に上昇しており、2008年9月末には1.44%と2000年12月以来の水準にある。住宅ローンの取組高は減少している。昨年12月に取り組まれた住宅ローンは、126億ポンドとなり、1年前よりほぼ半減したほか、2007年6月のピーク時より6割超少ない水準にある。昨年10月に実施された銀行支援策は、貸し出しの増加に至っておらず、住宅ローンの貸出姿勢は厳しい状況が続いている。
・1月の消費者物価上昇率は前年比3.0%と前月の同3.1%からやや低下した。電気・ガス料金などの公共料金は昨秋の大幅引き上げの影響で36.2%と高止まったが、原油価格の下落に伴うガソリン価格の大幅な低下により、個人輸送機械関連費用は前年比マイナス6.4%とマイナス幅が拡大、全体の消費者物価上昇率を押し下げた。イングランド銀行(BOE)は、2月5日に事前の市場予測通り50bpの利下げを実施し、政策金利であるレポ金利を1.0%とした。その理由として、BOEは、年後半には、インフレ率がターゲットである2.0%を下回るという見通しなどを挙げている。また、BOEは1月19日に発表された追加銀行支援策で示された資産買取策の詳細を公表した。今回はCPと社債の買取に関するもので、CP買取については2月13日から実施されたほか、社債についてもできるだけ早く買取をはじめるとするなど、流動性供給策を拡充した。

片田保「「在りし日の日本」目指すイギリス公共経営」みずほ情報総研、2009年2月24日。
・先日、イギリスの公共経営の第一人者であるバーミンガム大学のT・ボバード教授が来日された。「Assessing quality in the public sector(公共における品質の評価)」というテーマの特別講義が行われたのだが、経営モデルについて日本から多くを学んだという。
・「我々は、15年かけて経営モデルを大きく転換してきた」。極端な市場主義への偏重は、結果として公共・行政の財政的負担を増加させることになった。綿密な分厚い契約書によって委託範囲やサービス提供方法、サービス水準を定め、民間にできることは民間に任せてきたが、その調整コストがかかるだけでなく、契約で明文化できない部分は行政が担うことになる。ブレア政権後のイギリスは、住民ニーズに対する効用や満足度の最大化を目指す「有効性」重視の「ベスト・バリュー(Best Value)」に舵を切った。このような経験を通じて品質志向の経営を模索し続け、そして今、彼らが追いかけている最先端の公共経営は、かつての日本が誇った経営モデル、すなわち契約や条文、マニュアル化によって詳細に規定するのではなく、目標や信念を共有して真に品質を高めようとする「信頼」の公共経営モデルである。

大橋善晃「英国における金融教育 FSA主導による「金融に関する消費者教育」への取り組み」『証券レビュー』第49巻第2号、2009年2月。
・覚書注:横書きの論文が縦書きになった。

猿渡英明「欧州景気は後退局面が長引く公算 欧州経済概観(09/2)」新光総合研究所『SRI 欧州経済ウォッチ ユーロ圏・英国』No.09-05、2009年2月24日。
・英国は2008年10-12月期の実質GDPが前期比マイナス1.5%になり、ユーロ圏同様に急速に景気が悪化していることが確認された。部門別でみれば非製造業部門、特に金融業の落ち込みが激しく、金融業に支えられてきた英国経済の特性が裏目に出た形となっている。住宅市場の崩壊を背景とした金融部門の調整は、信用収縮を経て個人消費へと波及している。資産価格の上昇を担保にした過剰消費といった消費構造は、米国のそれとほぼ同じであり、金融部門と実体経済が連鎖的に悪化する状態に陥っている。英国景気が回復するためには、金融部門の調整が一巡することが必要不可欠であることを踏まえると、当面の間、英国景気は低迷を強いられることとなろう。バットバンク構想が立ち消えになるなど、金融対策の進捗がやや遅れがちになりつつある点は懸念材料。
・BOEは景気・物価見通しともにダウンサイド・リスクを指摘しており、年央辺りまでにゼロ近辺までの利下げを強いられよう。その際、焦点となるのはバランスシートを活用した金融政策の導入であり、特定の金融市場をターゲットにした信用緩和政策が実施される公算。
・英国では昨年から、ノーザンロックなど中小金融機関の国有化、大手金融機関への資本注入、BOEの流動性対策を中心に金融支援を行なってきた。しかし、金融機関の損失拡大などから信用収縮がさらに進行、政府は今年に入って新たな対応に乗り出した。今回は主に不良資産保有による損失に歯止めをかけ、信用機能を回復させることに主眼が置かれており、1. 損失補償スキーム、2. 資産買取プログラムなどが準備されている。しかし、不良資産をバランスシートから切り離す構想は進展がみられず、Bad Bank構想も資産査定の難しさや必要経費の問題から、実現の可能性は今のところ乏しい。金融市場回復への道のりは遠い。

松岡博司「独仏英の優勢事業体による保険関連業務 多様なアプローチのあり方」ニッセイ基礎研『REPORT』2009年3月号。
・イギリスでは2006年から郵便事業への参入が自由化されており、今日、22の郵便事業者が存在するが、伝統的な郵政事業体であるロイヤルメールがいまだ圧倒的なシェアを有している。ロイヤルメールは政府が全株式を保有する持株会社の下に、各事業会社を配する形で事業を行っている。事業領域別の収入構成比は郵便73%、小包・速配17%、郵便局窓口(金融商品の販売等を含む)9.7%で、郵便の比率が高い。独仏の郵政事業とは異なり金融サービス事業の収入構成比は小さい。郵便局窓口業務は、わが国の郵便局会社に相当するポストオフィスLtdが担当している。郵便局の赤字基調が定着する中、英国政府は郵便局の閉鎖をポストオフィスLtdに指示する一方で、郵便局が果たしてきた地域のコミュニティーセンター的な役割は重要であるという世論に配慮して、郵便サービスへのアクセスを全国民に保証するユニバーサルサービスの維持をも求めている。そのため、ポストオフィスLtdに補助金も支給している。
・ポストオフィスLtdは、金融サービスについては単独で取り組むのではなくアイルランド銀行と提携する道を選んだ。両者の提携は、外国為替業務からスタートし、2004年3月には合弁会社、ポストオフィスファイナンシャルサービス(POFS)を設立する形に発展した。POFSの使命は、郵便局チャネルまたはロイヤルメールブランドを活用した金融商品の販売推進である。郵便局顧客のニーズにマッチすべく、取り扱う金融商品のコンセプトは、シンプルでわかりやすく、価格も手頃な商品である。POFS設立以降、個人ローン、クレジットカード、インスタントセイバーアカウント(貯蓄商品)、チャイルドトラストファンド(子供が18歳になるまでの間、資金を投資する税制優遇のある貯蓄投資制度)、各種保険等へと、ポストオフィスLtdの金融サービス取扱商品が拡充された。これらのうち銀行商品はアイルランド銀行が提供しているが、銀行商品でない金融商品や保険商品は、外部の専門会社を選別して商品提供を受けている。
・英国の郵政事業は、1864年から60年あまりの間、国営の郵便保険を販売していた歴史を有している。しかし、社会保障制度の充実と民間保険会社の成長、販売実績の極端な不振等を背景に、郵便保険は1928年に廃止された。以降、郵便局は保険商品の取り扱いに慎重であったが、1995年以降、ポストオフィスLtdは、家財保険、旅行保険、住宅保険、年金等を販売する試みに着手するようになった。しかし、旅行保険を除いては不首尾に終わっていた。
・ポストオフィスLtdは保険の引受には関心を持たず、販売者としての手数料収入のみを目的としている。また、全保険商品の提供を特定の保険会社に委ねるのではなく、保険商品毎に商品提供会社を選別している。自動車保険、住宅保険においては、特定保険会社の商品を販売するのではなく、17の有力保険会社の商品が並ぶパネルの中から消費者のニーズに適した商品が販売される形態が取られている。そのためにブローカーが事業を請け負っている。
・イギリスにおける郵政事業の保険販売の形態は、独仏における郵政事業の保険販売と、かなり色合いを異にしている。ポストオフィスLtdによる保険販売の特徴をあげると以下の通りである。1. インターネット、電話、郵便を通じたダイレクト販売が中心である。旅行保険と引受が保証されるオーバー50’sライフカバーは店舗で購入できるが、他の保険商品は、店舗にはリーフレットが置いてあるのみで、申込書を郵送する形となっているようだ。2. 販売の相当部分は商品提供保険会社またはブローカーに委ねられている。ポストオフィスは、ホームページや新聞、ラジオ等での広告、店舗網へのリーフレット備置等を通じ、商品周知と顧客への訴求を図るまでは行うが、興味を抱いた顧客が見積もりの作成依頼等の申込み行動に入ると、インターネットであれば担当会社が運営するウェブページに、電話であれば担当会社のコールセンターにつながる、という形で、仕上げ段階を提携先の会社に任せている。3. ポストオフィスLtdの保険販売においてはアドバイスを避けるスタンスが明確である。英国一般に言えることであるが、金融サービス商品の販売において誤ったアドバイスを行い問題化すると、FSA(金融サービス機構)から厳しい対処が行われるだけでなく、良好なブランドイメージを損なうことになりかねないので、銀行などもアドバイスの提供有無等について細かく説明している。
・POFSが関与した金融商品の顧客数は順調に増加し、2008年5月時点では150万人に達した。商品分野別に見ると、保険商品と貯蓄商品(インスタントセイバー等)が中心で、保険契約顧客数は、2006年5月末で29万人(全金融サービス顧客47.5万人の61%)、2007年5月末で50万人(全金融サービス顧客100万人の50%)と、金融サービス顧客の半分を占めている。POFSは2007年度中に損益分岐点に達した。こうした順調な業績推移を受けて、アイルランド銀行とポストオフィスLtdのPOFSを梃子とする提携契約は2020年まで延長された。

鈴木裕「政府系ファンドが株主になる日」『経営戦略研究』VOL.20、2009年新年号
・米国の上院銀行住宅都市委員会(Senate Committee on Banking, Housing, and Urban Affairs)は、各国の政府系ファンドの情報開示状況を米国会計検査院(The U.S. Government Accountability Office=GAO)に照会した。GAOは、現状でどのような情報が公開されているかを丹念に調査し、その結果は、「SOVEREIGN WEALTH FUNDS - Publicly Available Data on Sizes and Investments for Some Funds Are Limited」(政府系ファンド - 規模・投資に関して利用可能な情報が不十分な場合も:以下「GAOレポート」)として2008年10月に公表された。
・GAOレポートでは、何をもって政府系ファンドと言うかを検討しているが、定義付けと言うよりは、議会が関心を示すファンドの属性として、次の4点を指摘し、こうした性質のファンドの情報開示状況を調査している。1. 政府設立または政府出資の投資手段、2. 債券以外の外国資産に投資を行う、3. 財政余剰、貿易黒字、中央銀行準備金、または国有商品資産の売却益を原資とした基金、4. 年金基金ではないこと。こうして、34カ国の48ファンドを対象として政府系ファンドの情報開示状況が調査された。13ファンドはアジア太平洋地域、10ファンドが中東、25ファンドがアフリカと南北米州・カリブ海域・欧州であった。アラブ首長国連邦(UAE)、シンガポール、ロシアは2つ以上の政府系ファンドを有している。これらのうちクウェートやキリバスが1950年代に設立されているが、28ファンドは2000年以降の設立だった。調査結果の概要は、以下の通りだ。48ファンドのうち資産総額を公表しているのは60%であるが、保有内訳は4ファンドしか明らかにしていないという。情報開示に対する取り組みはファンドによって大きく異なる。ほとんど情報を明らかにしないものもあれば、運用資産の詳細を開示する政府系ファンドもある。クウェート投資庁(Kuwait Investment Authority)は、クウェート政府に対して詳細な報告を行なっているが、それが公表されることは無い。情報はあるが公表はされないということだ。ノルウェーでは、保有資産の詳細が公表されている。シンガポールの政府系ファンドの一つ、Temasek Holdingsは2004年からアニュアル・レポートを公表しているが、同じシンガポールのGIC(Government of Singapore Investment Corporation)は、今年になって設立以来はじめてのアニュアル・レポートを公にしており、同じ国でありながらも対応が異なることもある。
・国際通貨基金(International Monetary Fund=IMF)は、政府系ファンドの情報開示等のあり方について検討を進め、一年が経過した2008年11月に、その規制原則を明らかにした。これは、政府系ファンドの投資目的や投資実態を開示させることで、投資対象となった国側が不信感を抱くこと無しに対内投資を受け入れられるようにして、国際的な資金流通を活発化させることを意図している。新たに公表された規制ルールは、「行動規範・慣行に関する原則合意」(Generally Accepted Principles and Practices=GAPP)と呼ばれる。公表にさきだち2008年9月にチリのサンチャゴで集中的な討議を行なったことから、別名サンチャゴ原則とも言われている。このGAPPは、政府系ファンドの適切な投資慣行、およびガバナンスとアカウンタビリティ(説明責任)の取り決めの指針となる自主的な枠組みである。2007年からの欧米諸国を中心とする金融不安では、政府系ファンドが資金を供給して衝撃を緩衝する役割を果たしたと言える。政府系ファンドは、長期的な投資スタンスを持ち、また、通常レバレッジをかけていないこともあり、安定的、長期的な資金の提供主体として期待されているのである。GAPPは、自主的(Voluntary)なもので、たとえ遵守しなかったとしても、これによって直接制裁を課すようなものではないが、多くの政府系ファンドはこれに従うであろうと期待されている。市場の安定は政府系ファンドにとっても利点が多いからだ。政府系ファンドが、GAPPの行動規範・慣行を遵守することで投資受け入れ側の懸念を払拭し、それによって政府系ファンドの投資に対する保護主義の台頭を抑えられるし、また、国際的な資本移動に対する規制が過度に及ぶことを防止するのに役立つとみられる。
・GAPPの第19原則は、政府系ファンドの投資は、リスク調整後の収益を最大化するために、経済的理由(economic and financial grounds)に基づいて行なわれるべきであるとしている。収益最大化は、政府系ファンドの中心的な目的であり、投資行動はこの目的と整合的でなければならないというものである。第19原則は抽象的であるが、投資を受ける個別の企業や規制官庁にとって原則として経済的な目的のみによる投資が一応保証されたことは、前向きにとらえることができるだろう。投資における説明責任と透明性が政府系ファンドに要求されたことで、これが遵守されるのであれば、これまでの警戒感は払拭されることとなる。また、第20原則は、政府系ファンドが、政府であることを利用して民間投資家よりも優位に特別な情報を得たり、不当な影響力を行使するべきではないとしている。他の投資家には無い政治的影響力を認めては、市場の公正な競争が歪められる。こうした点も、政府系ファンドは厳しく律していかなければならない。
・中東や中国・ロシアの政府系ファンドの投資動向に政治的意図を読み採るとすれば、それに対抗する行動も投資を通じて行なうことが検討されても不思議ではない。フランスのサルコジ大統領は、GAPPによる情報開示だけでなく、より積極的に防衛的な政府系ファンドの設立を強く主張している。株価の急落によって買収が容易になった会社が、公共利益に密接に関わる場合には、好ましからざる買収を防止するために、政府が株式を購入することも検討すべきではないかということである。EUの議長国として、EU全体での政府系ファンド設立を提唱したが、政府系ファンドへの警戒という点では一致しているドイツのメルケル首相は、保有規制によって適切に対処できることを理由にこれに反対しているし、EUのバロッソ委員長も、保護主義に結びつく懸念を表明して反対しているほどだ。現状ではEUの協調による政府系ファンド設立は、困難になっているが、代わって、フランス独自の政府系ファンドを創設している。フランスの政府系ファンドは、新規の資金と他にフランス政府所有の民間会社株式を移管によって200億ユーロのファンドを組成するとのことである。このファンドは、産業政策や安全保障政策に対する外国資本の介入を防止するものであるから、政治的な目的の遂行を主たる目的としていると言えるのではないだろうか。海外の政府系ファンドによる政治的投資を排除するために、政治的目的をもったファンドを創設するわけで、苦渋の選択とも思えるが、矛盾した態度とも言えそうである。
・世界最大の政府系ファンドであるアブダビ投資庁(The Abu Dhabi Investment Authority)は、早くもGAPPを遵守することを表明している。また、アブダビ投資庁次官、米国財務長官、シンガポール財務大臣の連名で公表された論説(Open Editorial)では、政府系ファンドが長期・安定的投資家であり、世界の金融市場の安定に大きな貢献をしており、GAPPは、国際市場の自由と公正を維持するための重要なステップであると位置づけている。

「GLA(グレーター・ロンドン・オーソリティー)における気候変動対策」自治体国際化協会『CLAIR REPORT』No.336、2009年2月20日。
・グレーター・ロンドン・オーソリティー(Greater London Authority、以下GLA)はロンドン全域を管轄する広域自治体である。
・ロンドン気候変動局(London Climate Change Agency:LCCA)は2006年6月にロンドン市長によりロンドン開発公社内に設立された組織である。その目的は、ロンドンにおけるエネルギー、廃棄物、水道、交通を起源とする温室効果ガスを削減するためのプロジェクトを行うことである。ロンドン開発公社の100%出資により設立され同公社の監督を受ける気候変動局は、営利企業として有限責任会社の形態をとっている。 職員の数は20名ほどで、責任者であるCEOにはWoking Brough CouncilにおいてCHP(Combined Heat and Power:熱電併給システム)、代替燃料、燃料電池などの普及に大きな実績を上げたAllan Jones氏が就任している。 ロンドン気候変動局は、EDF EnergyやBP等といった民間企業等と提携し、それらから寄付金提供を受けながら、官民一体となって気候変動対策を進めている。GLAの気候変動対策実施について文字通りの中核を担う機関である。
・2006年時点でロンドンの二酸化炭素排出量は4,400万トンで、英国全体の排出量の8%を占めている。ただし、これには京都議定書で削減目標が設けられていない航空機関連の排出は含まれていない。最大の二酸化炭素発生源は一般家庭で、ロンドンの排出量全体の38%をしめ、そのうち4分の3は暖房を起源とする。商業部門はこれに迫るが、起源は電力消費によるものが多い。工業部門からの排出量は少なく、ロンドンの経済活動の性格が変わるにつれて減少している。地上交通輸送は総排出量の4分の1未満だが、その半分近くが自動車からの排出である。
・1990年以来、ロンドン全体の二酸化炭素排出量は微減している。1991年から2004年にかけて人口が70万人増加し、雇用が40万人増加したにも拘らず、年間排出量は1990年の4,510万トンから2006年には4,430万トンへ減少した。GLAでは、この原因を、英国内の他地域または英国外へ工業活動の移転が進み工業を起源とする排出量が半減したためと分析している。GLAは、将来のロンドンの経済成長と人口増加に伴い、現状のまま何も対策を講じなかった場合、2025年の二酸化炭素排出量は2006年比で15%増の5,100万トンに達すると予測している。
・2004年2月に発表されたエネルギー戦略のなかでロンドン市長は2050年までに二酸化炭素排出量を1990年比で60%削減するという目標を掲げた。これは先に政府のエネルギー白書で掲げられた国家としての目標をそのままロンドンに適用したものである。
・GLAが2007年2月に発表したグリーン・ホームズ・プログラムの目的は、ロンドン市民の二酸化炭素排出削減への取り組みをより安価に、より容易にすることである。つまり、気候変動に関して高い関心を有し排出削減に関与する意思を持っているにも拘らず具体的にどのような行動を起こして良いのかわからないロンドン市民に対して、既存のプログラムの中から最も効果的な方策は何かを明確に示すことである。グリーン・ホームズ・プログラムは省エネルギートラストと共同で実施される。初年度である2007年度の予算は約700万ポンド(約16億1,000万円)である。
・ロンドンでは、電力・ガスの消費による二酸化炭素排出量が年間3,500万トンに上り、総排出量の75%を占めている。そのため、GLAではエネルギー供給の構造変革により大幅な炭素排出量の削減を目論んでいる。 現在ロンドンで消費されるエネルギーの65%はガス管から供給されるガスによるものであり、32%が送電線により供給される電気によるものである。しかしながら、国内送電網からの電気はガスに比べて炭素強度が強いため、これを二酸化炭素排出量で見ると半分以上が電気を起源とするものとなっている。また、火力発電所では投入エネルギーの約3分の2が廃熱として消失し、更に9%が送電の過程で失われている。GLAはこの点を問題視し、発電所で発電した電気を送電して使うという従来の構造を改め、電気は地域内で発電してその際に発生した熱も有効利用するという発電施設の小規模分散化(Decentralisation)を目指している。
・GLAでは市民の行動変革を促す諸施策の立案にあたり、ソーシャル・マーケティングと呼ぶアプローチを用いている。イングランドでは2007年7月1日から公共の空間における喫煙が禁止された。法律の施行前にはその効力に疑念を抱く声が囁かれたが、いざ施行されてみると前日まで紫煙で燻っていたパブもぱったりと煙草を吸う人はいなくなり、大きな混乱は生じなかった。GLAではこの市民の行動変革の成功に着目し、これを気候変動対策の各種施策にも応用しようとしている。 まず、その成功の要因を以下のように分析する。1. 喫煙による害と禁煙による利益について、長年の科学的コンセンサスによる実証がなされていた。2. 禁煙化について政党間の争いがなかった。全政党が禁煙の正当性を認めており、有権者もそれを認めざるを得なかった。3. 公共機関がありとあらゆる政策で禁煙を推進した。各種規制、課税、情報発信、広告等のミックスが個人の行動と社会の態度を変革した。そして、これらに学び、科学的裏づけによる行動変革促進のためのPRを繰り返しあらゆる手段・チャンネルを用いて行い、健康、教育、都市計画、交通政策等のあらゆる分野でとり得るあらゆる施策を複合的に実施しているのである。
・C40 Cities(以下、C40)、別称Climate Leadership Group(気候先導グループ)は2005年にロンドン市長の提唱により創設された気候変動対策に取り組む世界の大都市の集まりである。日本からは、東京都が2006年12月より参加している。その目的は、全世界のエネルギーの75%を消費し全世界の温室効果ガスの80%を排出する大都市が、協働して炭素排出量を削減し、気候変動に順応することである。
・2008年2月の時点で、下記の40都市がC40に参加している。アフリカ(3都市:アジスアベバ、カイロ、ヨハネスブルグ)、アジア(12都市:バンコク、北京、デリー、ダッカ、ハノイ、香港、ジャカルタ、カラチ、ムンバイ、ソウル、上海、東京)、オセアニア(2都市:メルボルン、シドニー)、北米(6都市:シカゴ、ヒューストン、ロサンゼルス、ニューヨーク、フィラデルフィア、トロント)、中?米(8都市:ボゴタ、ブエノスアイレス、カラカス、ラゴス、リマ、メキシコ・シティ、リオデジャネイロ、サンパウロ)、ヨーロッパ(9都市:アテネ、ベルリン、イスタンブール、ロンドン、マドリッド、モスクワ、パリ、ローマ、ワルシャワ)。上記以外に、提携都市(Affiliate Cities)という位置付けで下記の12都市がC40に関わっている。オースチン、バルセロナ、コペンハーゲン、クリチバ、ハイデルベルグ、ニュー・オーリンズ、ポートランド、ロッテルダム、ソルトレイクシティ、サンフランシスコ、シアトル、ストックホルム。
・日本では英国というと「保守的」というイメージがあるが、それはある意味ではあたっているものの、ある意味ではあたらない。筆者の見るところ英国人は歴史的景観、伝統文化、自然環境といった一旦失われると二度と取り戻せないものについては、頑ななまでに保守的になり、必死に保存しようとするが、その一方で、社会制度などの変革については実に大胆である。英国の気候変動対策を含む環境施策にはまさにこの保守/革新の二面性が現れているように思われる。すなわち、失われたら二度と取り戻せない自然環境という財産を守るために、大胆な目標が設定され、バイク・ハイヤー・スキームのような、ある意味耳目を集める施策が矢継ぎ早に打ち出される。そこには官僚的慎重さを跳ね返して実現してしまう政治的決断の強さがある。

明治安田生命『経済ウォッチ』2008年度vol.22、2009年2月第4週号。
・英国経済は、金融不安の深刻化や住宅バブルの崩壊を背景に悪化のペースが加速している。金融・サービス業のウェイトが大きい英国では、金融不安が家計や企業のマインドを諸外国よりも大きく悪化させており、2009年の英国はユーロ圏以上の大幅なマイナス成長(マイナス3.5%)を余儀なくされよう。家計や企業のマインドが持ち直し、回復に向かうのは2010年後半になると予想する。BOEは2月に50bpの利下げを行い、政策金利を1.0%とした。エネルギー価格の調整と、景気減速基調の強まりから、今後はデフレ懸念が台頭してくると考えられる。BOEは、引き続き緩和姿勢を継続し、政策金利をゼロ%近辺まで引き下げ、米国型の「信用緩和」に移行していくと予想する。
・BOE(イングランド銀行)は2月5日のMPC(金融政策委員会)で、市場の事前予想通り、政策金利を50bp引き下げ、1.0%にすることを決定した。リーマン・ブラザーズの破綻以降、英国の金融機関にも経営不安が広がり、それに伴って景気が急速に悪化したことから、昨年10月以降、5ヶ月連続で累計400bpの大幅利下げを行っている。
・政策金利をゼロ%近辺まで引き下げた後、BOEが追加的に打つ手は、CPや社債、国債などの買い取りを通じて、信用市場に直接働きかけるとともに、通貨供給量の量的な拡大を目指す政策(米国型の量的緩和)と考えられる。すなわち、CPや社債などを買い取ることによって、貸し渋りの見られる信用市場の改善を図るとともに、長期国債の購入によって、国債の増発懸念から上昇しがちな長期金利を直接低下させる。それらの資金を紙幣の増刷によって賄うことで、BOEのB/Sを拡大させ、通貨供給量の増大に訴えかけていくという政策がとられる可能性が高い。BOEは、既に2月17日からCPの買い取りを始めているが、これまでは、購入の資金が財務省の短期国債の発行で賄われていたため、信用市場の緩和には効果があっても、通貨供給量の増大につながるものではなかった。しかし、キング総裁は「名目支出てこ入れに向けた通貨供給量の拡大を目指す公算がある」と発言している。2月18日に公表された2月5日のMPCの議事要旨によると、こうした「量的緩和」の導入の許可を政府に求めることが全会一致で決められた。既にキング総裁はダーリング財務相と会談するなど、量的緩和導入に向け動き始めている。そのため、3月のMPCでは0.25%への利下げとともに、既に実施されているCP買い取りの規模の拡大や、より低格付けのCPや社債などへの買い取り資産の範囲拡大、長期国債の買い取りなどの具体策が発表される可能性が高い。

・血圧 115/55mmHg 75bpm

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