覚書 090307

「世界地方自治体憲章と各国の対応」平成15年度比較地方自治研究会調査研究報告書、自治体国際化協会、2004年6月。
・地方自治のスタンダードを設定した世界で初めての多国間条約、ヨーロッパ地方自治憲章(「地方憲章」)が発効してから、すでに15年が経過する。一般に、地方自治は主権国家の国内事項であり、他国の地方制度について干渉することは許されないとされている。従って、地方自治のスタンダードを設定し、一国家を超えてこれを保障しようとする場合、国家間の合意、すなわち条約を通じて国際的に保障していくという手法がとられる。
・ヨーロッパ地方自治憲章は、ヨーロッパ評議会(Council of Europe : CE)の閣僚委員会(決定機関)が1985年6月27日に採択し、1988年9月1日に発効した。
・英国では、1999年代に入り保守党メイジャー政府の積み重ねを経て、1997年5月に発足した労働党ブレア政府が和平を積極的に推進することとなった。1997年9月、IRA(Irish Republican Army)の再度の停戦を受けて全当事者による交渉が開始され、曲折の結果、1998年4月10日にベルファストにおいて、北アイルランド各政治党派とイギリス及びアイルランド共和国政府との間で包括的な和平合意が成立した。和平合意は、北アイルランドが連合王国の一部であることを確認し、アイルランド共和国は、北アイルランドに対する領域権を主張する憲法の規定を削除すること、108名の議員を比例代表制で選出する北アイルランド議会(Assembly)と12名の議員からなる行政部を設立すること、また、南北アイルランド間の協力機関や軍事組織の武装解除等が含まれる。この和平合意は5月に北アイルランドと南のアイルランド共和国でそれぞれレファレンダムに付され、両領域とも圧倒的な支持を得た。引き続いて同じ1998年6月には比例代表制(単記移譲式)による北アイルランド議会選挙が行われ、7月には議会が発足して首席大臣(首相 First Minister)及び副首席大臣(副首相 Deputy First Minister)が選出された。また、同じ7月には、和平合意を履行し北アイルランド議会への分権を実施するための法案がUK国会に提出され、11月に北アイルランド法(Northern Ireland Act 1998, c.47)として成立した。北アイルランド議会への権限の移譲は、翌1999年12月に行われ、同時に、和平合意によって、和平を促進し実効性を支えるために設置が合意された。
・北アイルランド法は、北アイルランドに分権議会と執行府を設立するとともに、複雑で深刻な政治的、社会的な分裂と対立を反映して、興味深い極めてユニークな組織編成と運用方法を定めている。その根幹は、対立する両勢力による権力の分有(power sharing)である。また、プロテスタント系によるカトリック系住民の差別と排除の歴史を受け、すべての北アイルランド住民の宗教による差別からの保護と、人権や機会の均等の実施方法が重視されている。
・北アイルランド議会の意思決定、すなわち議決には、プロテスタント系のUKへの残留派(Unionists)と主にカトリック系のUKからの分離派(Nationalists)の両派に鋭く分裂している社会を背景とした議会における意思形成の方法として、ユニークな特別の要件が課されている。「各コミュニティを超えた支持」(cross-community support)による意思決定である。「各コミュニティを超えた支持」による意思決定には、1. 残留派及び分離派それぞれの多数を含む投票者全体の多数の支持によるか、2. 残留派及び分離派それぞれの40%を含む投票者全体の60%の支持によらなければならない。残留派及び分離派の所属議員は、議事規則に従って登録される。
・北アイルランドの行政部には、首席大臣=副首席大臣の一体性以外には全く一体性がなく、また、議会からの独立性もない。執行委員会は、議会の一委員会として、議会が個別的に付与した職務を遂行する各大臣の集合体であり、それを統合するための首席大臣=副首席大臣の統制権もない。北アイルランド社会の分裂と対立を議会のみならず行政部においても包含し、カトリックとプロテスタントの対立、さらに加えて和平派と和平反対派の対立を包み込みつつ調和させ、それらを統合して和解の道を切り開こうとするこの「権力分有」のシステムが、北アイルランド分権の政治制度の極めて大きな特徴である。また、上述した北アイルランド議会への権限の移譲の範囲及び方法に加えて、北アイルランド行政部の活動に対する法律上の制限とUK政府の直接的な干渉権も大きな特徴である。このように、同じ第一次立法権の移譲といっても、スコットランドの分権の構造とは大きな違いが存在している。
・しかし、分権後の北アイルランドでの和平の進展は曲折を重ね、分権のシステムはこの大きな困難を克服できないまま今日に至っている。北アイルランドにおける分権は、和平の停滞によって長期にわたって停止され、1998年の和平合意を圧倒的に支持した住民の中での幻滅感も広がりつつあるといわれる。

「欧米における地方議会の制度と運用」平成16年度比較地方自治研究会調査研究報告書、自治体国際化協会、2005年4月。
・従来からの英国の地方自治体の内部組織形態は「委員会」制度であり、議会(Council:本会議と委員会)は地域住民から直接選挙により選出される議員によって構成される地方自治体における最高の意思決定機関であると同時に執行機関でもあり、行政分野又は地域別に委員会や小委員会を設置して行政の執行にあたり、最終的な執行責任も負っていた。この制度における議長(Chairman又はMayer)は議員の互選により選出され、議事進行を取り仕切るとともに対外的に地方自治体を代表する。しかし議長は実質的な政治的権限を有しておらず、議会多数党の議員により互選されるリーダー(Leader)が実質的な政治的権限を有しており、施策の決定や自治体の運営に大きな影響力を有していた。
・「リーダーと議員内閣」制度は従来の委員会制度における政策資源委員会や各サービス委員会の執行機能を内閣に集中したものであり、リーダーの指揮の下に内閣が執行機能を担い自治体の日々の政策に関する意思決定を行う制度である。リーダーは本会議において選任され、それ以外の内閣構成員はリーダー或いは議会から任命される。またこの制度では本会議又はリーダーが内閣の構成員数を決定するが、その数はリーダーを含めて10名以内という上限が法律で定められている。リーダーから内閣構成員又は内閣から事務部局への権限の委譲はリーダーの決定により行うことができる。
・「直接公選首長と議員内閣」制度は先に述べた「リーダーと議員内閣」制度と同様に内閣が日々の政策に関する意思決定及び執行機能を担うが、その大きな違いは、内閣を率いる首長が地方自治体の有権者により直接選挙される公選首長(任期4年)であるという点である。この直接公選首長は、従来の地方自治体でリーダー、議長及び事務総長の3者によって担われてきた役割、即ち、1. リーダーの持つ重要事項に関する意思決定者としての役割、2. 議長の持つ儀式への出席など対外的な地方自治体の代表者としての役割、3. 事務総長の持つ日々の行政サービスに対し責任を負う事務方の長としての役割、を併せ持つことになり、直接公選首長には強力なリーダーシップの下に当該地方自治体全般にわたる政策を遂行することと効率的に地方自治体を運営することが期待されている。また直接公選首長制の導入により当該地方自治体運営の最終責任者が明確になることから、地方選挙の投票率の低下に歯止めがかかることも期待されている。
・「直接公選首長とカウンシル・マネージャー」制度は、「直接公選首長と議員内閣」制度と同様に有権者により直接選任された首長の強力な指導の下に地方自治体の政策が遂行されるが、「直接公選首長と議員内閣」制度との大きな違いは、内閣の代わりにカウンシル・マネージャーが設置される点である。カウンシル・マネージャーは議会本会議により任命され、本会議により罷免することが可能である。この制度の下では通常公選首長が根本的な政策枠組みに関する提案を行い、それについて議会が決定を下す。他方でカウンシル・マネージャーが日々の政策の実施を担当することになる。カウンシル・マネージャーはその担当する職務を首長と共同で実施すること、またその担当する職務を他の事務職員や地域委員会等へ委譲することも可能であるが、その権限の委譲や実施方法については首長からの指示を考慮して決定しなければならないこととされている。またカウンシル・マネージャーは政策評価委員会以外の議会の各種会議に出席し発言することが可能であるが、議決権は与えられていない。また政策評価委員会には出席要求された場合にのみ出席し発言することが可能である。政策評価委員会の役割については前記の2つの制度と同様である。

田村秀「2 イギリスの地方自治法体系に関する予備調査」自治体国際化協会、比較地方自治研究会、2006年3月。
・日本では地方自治に関する書物が多数出版されているが、イギリスにおけるこの分野の文献は限られている。地方自治法体系に関する書物は更に限定されており、書店に陳列されているのはごくわずかである。そのような中で、S. H. Bailey 著による「Cross on Principles of Local Government Law (Third Edition)」(「プリンシプル」)、5分冊からなる「Encyclopedia of Local Government Law」 (「百科事典」)が参考になる。この百科事典は前述のプリンシプルと内容で重なる点が数多く見られた。これはプリンシプルの元々の著者が序文を書いており、プリンシプルの詳細版となっている感がある。百科事典は地方自治法体系に関する多くの法律だけでなく、日本では入手が困難である通達なども数多く掲載しており、新規立法や新たな判決が定期的にシートに加えられるスタイルを取っている。両者は出版社も同じであり、プリンシプルが百科事典のコンサイス版といっても過言ではないと思われる。
・百科事典の目次については以下の構成となっていた。第1章:序章、第2章:1972年地方自治法、第3章:他の法律、第4章:命令・規則、第5章:付録、第6章:通達・覚書、第7章:先例、第8章:イングランド地方行政委員会。このうち、第1章の序章が地方自治法体系に関する解説であり、プリンシプルはこの部分のダイジェスト版と考えられる。また、ダイジェスト版といっても箇所によっては百科事典とプリンシプルの記載が完全に一致しているところもある。百科事典の特徴の1つは地方自治関係の基本的な法律の関係条文などを掲載しているところである。今回の調査では条文に関しては一部しか収集できなかったが、百科事典を見れば重要な条文を全て見ることが出来る。更に重要なのは、命令、規則、通達等が掲載されていることである。これらについては、最近のものはインターネットなどで見つけることも可能ではあるが、そもそもどの通達が重要であるか否かまたは現時点でどの規則が有効であるかなどを我々が判断することは不可能である。これらの文書はイギリスの法体系の実態を理解するうえでは欠かすことが出来ないものである。
・イギリスの地方自治法体系を説明する中で最も重要な原理は権限踰越(ultra vires)の原則である。自然人は法律が禁止すること又は法律と相容れないこと以外は何でも出来るとされている。しかしながら、地方自治体は制定法によって直接あるいは暗示的に授権されたことしかすることが出来ない。一方、日本の地方自治体は大陸法の影響を受けており、自然人同様、法律に違反しない限り地域における事務を実施することが出来る。この点は日英の地方自治体の活動を比較する上で最も留意しなければならない事項である。このほか、EUが定める法律や協定も地方自治体の活動に様々な制約を与えている。
・地方自治体は制定法によって権限を与えられるが、特定の団体が一般的な規定以外の権限を得るためには幾つかの方法がある。その1つが地域(限定)立法(local legislation : local bill and private bill)である。これは特定の地方自治体にのみ適用される法律である。このほか、当該地方自治体の承認によって立法化される選択法(adoptive act)などがある。地方自治体が立法過程への影響を及ぼすものとして2つの手法がある。1つは個別の地方自治体が自らに新たな権限を付与する内容の私法律案(private bill)の制定を推進することであり、もう1つがLGA(Local Government Association)などの地方自治体による協議会による公式、非公式の働きかけである。
・プリンシプルによれば、中央政府による統制として、以下の類型を示している。借金、資本支出及び経常支出における統制。補助金システムを通した統制。規制を通した統制。監査を通した統制。義務を怠った団体に対する権限行使。職員に対する統制。条例の承認。指揮監督。告訴。個別行為の同意。情報提供の求め。監査。CPA(Comprehensive Performance Assessment)。
・イギリスでは、民間企業では一般的に終身雇用の人事制度が採用されていないこともあり、地方公務員の世界においても、1つの地方自治体に留まる者は少なく、幾つもの地方自治体を渡り歩く中でキャリアアップしていくのが常である。採用された後、若者たちは種々の専門的試験のために勉強し、地方団体を次々に移動することによって昇進し、やがて最も優秀なものは部局長にもなっているとの指摘もある。そもそも、イギリスには日本の地方公務員法のように、地方公務員の身分、処遇等について定めた法律もなく、地方自治体職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、地方自治体と職員との雇用契約によって決められる。その基本となるのが全国合意(National Agreement)であり、労使双方の代表者が全国レベルで勤務条件について交渉を行い、合意がなされるものである。この交渉機関は、職域毎に分かれており、単純労働者の機関から、チーフエグゼクティブのものまで20以上ある。職員の採用、昇進は、ポストに欠員が生じた都度に行われる。その際、必要とされる技術、資格、経験等が明確にされている。我が国の場合、最近になって外部から課長職などについて公募を行う地方自治体が現れ始めたが、それも一部のポストに限られているのに対して、イギリスでは、管理職を中心に多くのポストについて全国紙あるいは地方紙などに求人広告が出され、当該団体の職員のみならず、他の地方自治体職員や民間企業の職員など様々な立場のものが応募を行い、対等な立場で選考がなされることが大きく異なる。なお、全国紙の求人欄を見ると年収2万ポンド以下と、日本の自治体では係長以下の職員に相当するものも数多く出されており、基本的には全てのポストで公募が行われているといっても過言ではないと思われる。これらのことからも明らかなように、日本では、同一団体の中で幅広い職務を経験しながら昇進していくスタイルが一般的なのに対して、イギリスでは、専門分野をはっきりと持ち、その分野内の資格、経験を積み重ねてキャリアアップしていくスタイルが一般的である。なお、イギリスの地方公務員数は、地方自治体の再編による団体数の減少、強制競争入札の導入による民間委託化、一部業務のエージェンシー化等により、年々減少の傾向にあるが、フルタイム、パートタイムを合わせると約250万人とイングランドだけでも全雇用者数の約1割を占めている(1998年時点)。また、フルタイム職員の7割が女性であることも特徴の一つとして挙げられる。

田村秀「3 イギリスにおける地方自治関係法令のあらましについて」自治体国際化協会、比較地方自治研究会、2007年3月。
・イギリス憲法は不文憲法であり、その法源も一つではない。また、法源も明文化されているのは一部だけである。すなわち、イギリスという国には我が国の日本国憲法のような成文憲法典は存在せず、統治構造に関する法の多くは判例法と国会制定法の中に存在し、その他に統治構造に関する様々な慣習が存在する7のである。
・地方自治体にとって最も重要であり、しかもやっかいな原理が権限踰越(ultra vires)の原則である。地方自治体は法律で明示的に授権された事務権限しか執行してはならないのであって、その範囲を逸脱した行為は越権行為とされ、裁判で争われれば違法とされ無効となる。なお、この反対概念は権限内(intra vires)である。この原則が厳密に適用されれば、地方自治体の活動は大きな制約を受け、適切な対応は困難となる。その一方で、実際の地方自治体の活動については相当程度の裁量権が認められている分野も少なくない。例えば都市計画分野における開発許可については、広範な裁量権によって、街並保全のために開発行為は大きな制約を受け、結果としてイギリスの都市の多くでは良好な都市景観が保たれている。
・地方政府が活動する際には、常に制定法上の根拠が必要とされ、それを欠けば、たとえ地域住民の利益向上を目的とした行為であっても、裁判所は権限踰越(ultra vires)として無効の判断を下すとされている。その枠組み自体、わが国にはなじみのないものであるが、事態をさらにわかりにくくしているのは、このような統制があるにもかかわらず、地方政府は、事実上相当な裁量権を行使してきたという点である。中央政府は、地方政府との間で「合意と協議」という関係を保ちながら、地方の実質判断を尊重する傾向にあったし、裁判所もまた、制定法上の権限に付随する領域を合理的な範囲で認め、地方政府が独自の判断で活動する余地を容認してきたのである。その背後には、長きにわたる自治の伝統が大きく横たわっていると考えられるだけに、容易には説明しがたい実態である。

馬場健「イギリスにおける都市再開発を巡る中央地方関係に関する調査報告 ロンドン・オリンピック2012のためのドックランド再開発を例として」自治体国際化協会、比較地方自治研究会、2007年3月。
・1981年から1998年まで存在したLDDC(ロンドン・ドックランド開発公社(London Dockland Development Corporation))によるロンドン・ドックランドの再開発は、民間活力を積極的に導入するサッチャー政権による都市再開発の典型とされ、当該地域の復興はロンドン再開発の目玉として当時注目を集めた。だが、2012年のロンドン・オリンピックの開催地としてこの場所が選定された理由の一つとして、オリンピック招致が当該地域の再開発に資するとの評価(この招致により12,000人の新規雇用が将来にわたって確保されるなど)を得たことが挙げられた。この両者の乖離についての事前調査から、ドックランド地域の現在の状況がある程度明らかとなった。すなわち、LDDCにより再開発が進んだのは、ロンドン中心部から比較的近いカナリー・ウォルフまでの地域で、それより以東の地域(Low Lea Valley)は交通機関の未整備などによって民間企業が立地しないため再開発が進まず、この結果当初LDDCが意図した産業構造の転換が図られないまま現在に至っており、失業率と児童の貧困率のともに高い地域となっている。したがって、GLA(グレーター・ロンドン・オーソリティ(Greater London Authority))が策定した大ロンドン計画においてもこの地域の再開発は重点課題に挙げられ、さらにオリンピックの招致に伴う交通機関の整備とともに官民双方による再開発が進めば、この状況が緩和されると期待されている。その一方で、ロンドンの再開発をその実施主体という観点からみると、そこには複雑な構造が浮かび上がる。すなわち、ロンドンではGLAが創設されたことにより、ロンドン全体にわたる再開発の企画立案権限はGLAが、その執行権限は各LBC(ロンドン区(London Borough Council))がそれぞれ担当するという体制が整えられている。さらにGLAの管理下に再開発の実施(強制収用の権限を持つ)を担当するLDA(ロンドン開発庁(London Development Agency))が置かれている。これらに加えて、当該地域には、LDDCが保有していた財産(不動産)の管理と開発を行うイングリッシュ・パートナーシップ(English Partnership)、ロンドンの再開発を担当するために2005 年に中央政府によって設置されたLondon Development Corporation、オリンピック開催のために中央政府により先頃設置されたOlympic Delivery Authorityなどが存在し、そのおのおのがそれぞれの権限を持って当該地域の再開発に当たることになっている。

兼村高文「1 英国(イングランド)の財政調整制度について」自治体国際化協会、比較地方自治研究会、2007年3月。
・英国の予算は、1960年代より国・地方・国有企業を含めた公共部門全体を5年から3年程度の中期支出計画(Public Expenditure Survey, Public Expenditure Analysis)等をもとに運用してきたが、ブレア政権ではこれを中期の新たな戦略的な予算フレームである「Spending Review」(「歳出レビュー」、「歳出見直し」、「支出計画」などと訳されているが、ここでは「SR」または「歳出レビュー」と記す)としてリニューアルした。「SR」は、3ヵ年度にわたる政府および各省庁の戦略目標とその財源を表した政府内部の予算であり、従来の単年度の議決を要する議定費歳出予算(予算法)(Appropriation Act)とは別に作成される予算フレームである。「SR」は議会での議決を要しないが実質的な予算となっている。「SR」の内容は、1. 向こう3ヶ年度の「歳出計画」(Spending Plan)、2. 各省庁が歳出計画で達成する目標を公約した「公共サービス協約」(Public Expenditure Agreement : PSA)、3. PSAの具体的な内容である「サービス供給協約」(Service Delivery Agreement : SDA)から構成され、3ヵ年度予算であるが3年度目に見直しが行われるため実質的には2ヵ年度の予算である。また「歳出計画」は、3ヵ年度にわたる「省庁別歳出限度」(Departmental Expenditure Limits : DEL)と社会保障関係費や利払費など1年度の「単年度管理歳出」(Annually Managed Expenditure : AME)よりなり、これらは発生主義会計に基づいて経理され、それぞれ経常予算と資本予算に分けられている。なお英国政府の発生主義会計は、資源会計予算(Resource Accounting and Budget)として運用されており、省庁別の発生主義決算が1999年度から始められ、2001年度からは発生主義予算が作成されている。
・国から地方に対する財源移転は、国の予算フレームである「歳出レビュー」において「歳出計画」の「省庁別歳出限度額」(DEL)と「単年度管理歳出」(AME)でその額が示される。その決定にあたっては、わが国と同様に財務省が実質的に権限をもち決めているのであるが、地方側が直接に財務省と交渉する場はないものの地方歳出総額見込みや補助金総額などについて地方財政を所管する担当省と地方自治体代表、それに地方自治体協議会(Local Government Association : LGA)が協議する機会は設けられている。「SR2004」の「歳出計画」で地方財政への支出をみると、DELとAMEがそれぞれ3,252億ポンドと2,455億ポンドで合計した「総管理歳出」(TME)は5,707億ポンドとなっている。このうち、地方財政へは副首相府から支出され、DELで2006年度の経常予算では483億ポンド、資本予算では2億ポンドである。
・地方自治体の機能を歳出構成でみると、英国はわが国のように地方自治法のような基本法で包括的に権限が授権されているわけではなく、個別に議会制定法で授権されているため限定的である。主要な機能を経常収支会計(Revenue Expenditure)の目的別歳出の構成比でみると、教育が36.8%と最も多く、次いで社会福祉サービスの17.7%、警察の10.8%、文化・環境・都市計画の9.3%、道路維持管理の5.3%などであり、ほかに公営住宅補助が12.0%となっている。一方、歳入についてみると、2006年度から地方交付税に相当する歳入援助交付金の多くが教育目的の特定補助金となったため特定補助金が57.9%で最も多く、次いで地方税であるカウンシル税が22.3%、譲与税である事業用レイトが17.4%であり、歳入援助交付金はわずか3.4%である。財源構成からみると、一般財源と特定財源の割合はおよそ4対6であり、いわゆる歳入自治は低い。なお経常歳入には計上されない使用料・手数料(Fees and Charges)があり少なからず住民の負担となっている。
・英国政府の予算会計制度は、前述のように「歳出レビュー」という3ヵ年度予算が(完全)発生主義会計とともに1999年度より管理予算として実施されている。いわゆる予算マネジメントが予算プロセスとして運用されている。しかし、地方の予算会計制度については、(修正)発生主義会計が1982年度より導入され決算もバランスシート等の財務諸表が作成されているが、評価制度を組み込んだ予算マネジメントは地方予算制度としては実施されていない。ただ評価制度として、監査委員会(Audit Commission : AC)等が設定した評価項目である業績指標(Performance Indicators : PIs)についてACが評価し評価結果を公表している。この評価結果は特定補助金の決定に利用されているものもあり、また国との間で個別の公共サービスについて地方公共サービス協約(Local Public Service Agreement : LPSA)を取り決める制度がありこれも評価結果により特定補助金が増額される措置等がある。英国の予算会計制度が発生主義会計にもとづいているため、国も地方も経常と資本の複式の予算決算となっている。自治体の会計区分は、経常会計(Revenue Account)と資本会計(Capital Account)に分けられ、経常会計には一般経常会計(General Fund Revenue Account)、住宅経常会計(Housing Revenue Account)、公営事業経常会計(Trading Revenue Account)などがある。また自治体の決算では、バランスシートをはじめとした企業類似の財務諸表が作成されている。
・英国には政府がイングランド以外の地域(Scottish Parliament、Wales Assembly、Northern Ireland Assembly)に支出している補助金(Block Grant)がある。この補助金は、イングランドとその他の地域の格差を前提に支出されてきた一般補助金であり、その配分は1970年代までは政府(財務省)の裁量で行われていたが、1979年からは「公共支出計画」(Public Expenditure Survey)においてそれぞれの地域の人口シェアを基準とするバーネット算定式(Barnet Formula)によって計算されてきた。ここでバーネット算定式とは、法定されたものではなく政府によって運用されているものであり、行政需要は人口に関連しているという単純な仮定のもとに設定された。各地域に配分されるこの補助金は現在は「歳出レビュー」において「省庁別歳出」のスコットランド省、ウェールズ省、北アイルランド省にそれぞれ計上されている。バーネット算定式はもともと一時的な配分基準として導入されたものであったが、その後も引き続き用いられてきた。その結果、創案者のバーネット卿自身も述べているように、イングランド以外の地域の公共支出を膨らませる結果を招いてきた。2003年度の地域別人口1人当りの公共支出をみてわかるように、イングランド以外の3地域はいずれも大きくイングランドを上回っている。バーネット算定式については見直しすべきという議論もあるが、「SR2004」でも3地域への財源配分の基準として運用されている。
・英国の財政調整は、わが国と同様に国から地方への垂直的財政調整のみである。また財政調整は国の絶対的優位のもとで制度が運用されており、ブレア労働党政権においても権限と財源の集権化は以前とそれほど変わっていない。なお、国から地方へ移転される財源の用語は現在すべてGrantで表されている。したがって、使途の自由な一般補助金もそうでない特定補助金もすべてGrantである。なお、わが国の地方交付税(Local Allocation Tax)に相当する一般交付金は現在、歳入援助交付金(Revenue Support Grant : RSG)である。英国政府はイングランドの地方財政制度が複雑で難解であるとの批判を受けて、わかりやすい用語で解説した「地方財政対策のガイド」(A guide to the Local Government Finance Settlement)を1998年から作成している。
・補助金は、使途の自由な一般補助金(Formula Grant)と使途が決められている特定補助金(Specific Formula Grant)に分けられる。ここで「Formula」が用いられているのは、政府が決めた補助金総額を一定の算定式(formula)により計算して配分するという意味であり、一般補助金については「地方財政対策」で算定式が示される。一般補助金は、わが国の地方交付税に相当する歳入援助交付金(RSG)、譲与税である事業用レイト(Business Rate, Non Domestic Rate : NDR、ないしNational Non Domestic Rate : NNDR)、それに警察自治体に交付される一般警察補助金(Principal Formula Police Grant)からなる。また特定補助金は、「地方財政対策」とは別に決められる補助金であり、Ring-Fenced Grantsは国の優先施策や特定の事業に関連して決められる使途の制限された政策目的補助金といえ、Unfenced GrantsないしTargeted Grantsは算定式によらず決められ政策メニューや政策評価(Comprehensive Performance Assessment : CPA)の優良団体に支出される使途に制約がない補助金で奨励的補助金といえる。
・イングランドの財政調整制度は、地方財政制度全般を含めて歴史的にみて多分に中央政治によってその制度が決められてきた感がある。地方財政は政権政党の用具と揶揄することもできよう。そこでの地方自治は、住民自治こそ政府の地方自治白書等で強調しているが財政的な自治はほとんどない。2006年度から一般交付金(RSG)のシェアが削減された現状が語っている。また最優先政策の遂行のために補助金を梃子にして果敢に制度改革を実行する。ブレア政権では教育改革において地方教育当局(Local Education Authorities)が十分な役割を果たしていないことを理由に補助金をカットして財政統制を強めている。

日本総合研究所調査部マクロ経済研究センター「海外経済展望」2009年3月。
・大幅な景気悪化が持続。08年10-12月期の実質GDPは前期比年率マイナス6.0%と、速報値から小幅下方修正。内外需の落ち込みや信用逼迫を受け、企業活動は一段と縮小。付加価値税率引き下げや物価下落などが実質消費の下支えに作用しているものの、雇用所得環境の悪化は加速。
・2009年の実質成長率の見通しを下方修正。先行きの英国景気は、政府の景気刺激策の効果を勘案しても、長期にわたり大幅なマイナス成長が続く見通し。1. 設備投資の大幅な縮小、2. 主力産業である金融業の活動沈滞、さらに、3. 雇用悪化や家計のバランスシート調整を背景とする個人消費低迷、などが対策効果を上回る成長下押し要因となるため。インフレ率は、年後半以降前年比マイナスに転じる見通し。エネルギー価格が年央以降物価下押しに寄与し始めるほか、ユーロ圏と比較して柔軟な労働市場や企業の価格設定行動を映じて、景気悪化に伴うコアインフレ率の鈍化が一段と加速するとみられるため。
・BOEは、3月にも政策金利をゼロ%台の水準に引き下げ、量的緩和政策に踏み込む公算。金融システムの機能不全が続き、実体経済の調整が長期化する恐れが強まるなか、国債買い入れなど新たな政策を打ち出す見通し。
・10年債利回りは、景気悪化が金利低下要因ながら、利下げ余地が限られるなか、3%台半ばを中心としたもみ合い傾向が続く見通し。中期的に景気刺激策や金融安定化への財政支出拡大が上振れリスクに。

三菱UFJ信託銀行「Monthly Economics」2009年3月号。
・図表のみ。

長田訓明「英米のリバース・モーゲージ市場の動向」2008年度冬号、2009年3月。
・リバース・モーゲージとは、字義どおりの意味では、融資の実行後、元利金の返済が進むにつれて残高の減少する通常の元利金等償還の住宅ローンをフォワード・モーゲージ(前進型ローン)と呼ぶのに対し、リバース(逆進型ローン)として、元利金の返済の代わりに元本の継続的追加投資や利息相当額の元本組み入れにより元本が逓増する住宅ローンの呼称とされる。そして、所得から定期的な返済が行なわれるフォワード・モーゲージに対して、所得からの返済の代わりに将来における担保不動産の売却による一括償還を想定することから、持ち家を保有し、退職により所得が減少して元利金の定期返済が負担となる高齢者向けの住宅担保融資制度とされる。英国において普及している高齢者向けのリバース・モーゲージは、「エクイティー・リリース」と呼ばれ、エクイティー(住宅の資産価値剰余)を取り出して活用する制度として、住宅価格上昇につれて1990年代末からその融資実績は増加を示し、2003年以降はほぼ横ばいに転じたものの融資残高はなお増加を続けている。
・所得からの返済に依存せず、借り手の退去後の住宅処分によって回収されることを想定し、担保物件の売却ないし譲渡による返済にあたって残債務が生じた場合の返済義務を生じない「ノンリコース・ローン」とされており、貸し手にとっての回収確実性は住宅価格の動向と担保住宅の資産価値の維持に依存することから、慎重な担保評価とフォローが行なわれる。このため、同じく住宅の資産価値に着目しながらも住宅価格の大幅な上昇を前提に投機的な融資が行なわれた「サブプライム・ローン」とは一線を画す制度として、住宅価格が下落に転じ、一般の住宅ローン市場が縮小した状況でも着実な融資が継続されている。
・英国のリバース・モーゲージはエクイティー・リリースと総称されるが、貸出期間を債務者の死亡または住宅退去時までの不定期とし元本の返済を一括弁済とする住宅担保ローンとしての「ライフタイム・モーゲージ」と呼ばれる住宅ローンの一括返済型のものと、融資の当初に住宅の所有権の全部または一部を「リバージョン・カンパニー」と呼ばれる資産管理会社に売却し、借り手は家賃なしで生存中の住居が保障される「ホーム・リバージョン・プラン」の2つに大別される。
・英国のエクイティー・リリースは、生命保険会社のあるノリッジ・ユニオン、プルーデンシャル、スコティッシュ・ウイドウズと住宅金融組合からの業態転換したノーザン・ロックなど15機関と限られた金融機関が提供している。
・エクイティー・リリースには、リバース・モーゲージとして借り手の死亡による期日到来まで元本償還されないことによる不定期償還のリスク、資金固定化のリスク、償還が担保不動産の将来の売却額に依存するという担保割れリスクという3つのリスクが管理の困難なものとして存在する。そして、死亡時償還のリスクでは、借り手の長寿化によりこれらのリスクが増幅される長生きリスクが問題となる。この長生きリスクは、死亡の早期化で損失リスクの増大する生命保険と逆相関となっており、長寿化で支払いの増加する終身年金と相関することから双方の商品を扱う生命保険会社にとってなじみの分野であり、英国では前述のようにいくつかの生命保険会社が参入して市場が拡大してきている。金利リスク、資本固定化リスクは、当初は変動金利ローンとして、借り手に転嫁されていたが、多くのローン破綻を生じ、固定金利商品が中心となってきている。これにより、貸し手の金利リスクが生じることとなり、一定の資産運用ニーズのある生命保険会社では引き受け能力があるが金利リスクがあり、また、保有能力にも限界はある。エクイティー・リリースの貸し出し上位の機関であるノリッジ・ユニオン、ノーザン・ロックは固定金利ローンの証券化を行なってきている。

篠原雅道「「事業継続」の国際規格「BS25999」 その最新動向と今後の展望」『CIO Magazine』2009年1月号、2008年12月。
・世界には事業継続に関するガイドラインや法規制が多数存在するが、その中でも英国規格協会(BSI)から発行されている事業継続マネジメント(BCM)の規格「BS25999」は、多くの民間企業の意見を反映させた包括的なガイドラインとして高い評価を得ている。災害復旧のみならず、事業の復旧にも力点を置いた規格であり、事業継続を組織の文化として定着させることを重視しているところが特徴である。
・006年11月28日、事業継続マネジメント(BCM)を実現するためのガイダンス規格「BS25999-1(英国規格25999-1)」が英国規格協会(British Standards Insti tution:以下、BSI)により発行された。同規格は、BCMのベスト・プラクティスと称され、事業継続に関する優れた規範の集大成として、関係者の注目を集めている。 同規格の発行の目的は、「組織内におけるBCMの理解、発展および実施の基礎となること」ならびに「企業間取引および顧客と企業間の取り引きを確かなものにすること」である。したがって、BS25999-1では、その目的を達成するために必要となるBCMの定義やフレームワークなどが説明されている。また同規格は、BCMを構築する際の指針とするのはもちろん、すでにBCMを導入している組織であれば、その実効性を推し量る「ものさし」として活用することもできる。 BS25999-1に続いて、2007年11月20日には、事業継続マネジメント・システム(BCMS)の第三者認証用規格として「BS25999-2(英国規格25999-2)」が発行された。
・BS25999は英国内のみならず、国際的に認知・評価された規格として、世界中のさまざまな企業・組織から高い関心が寄せられている。すでにBS25999-2が発行される前から、約120の企業が認証取得を計画し、数百の企業が認証取得の検討を進めていたとも言われており、BS25999-2も発行と同時に民間企業2社がBSIから認証を取得した。現在は、世界各地域の約300の企業が認証取得を決定し、認証審査を待つ段階にある。英国では消防や警察当局などの行政も認証取得を検討しており、米国では米国規格協会(ANSI)が中心になってBS25999-2をベースに国内規格化を進めている。発行されて間もない規格がこのように急速に普及するのはきわめてまれなケースであり、BS25999が企業や政府から高い支持を得ている証左と言えよう。また、日本でも民間企業3社がBS25999の認証取得を完了している。インターリスク総研が、2008年2月に日本の全上場企業を対象に実施した動向調査の結果を見ると、約12%の企業が、英国規格の認証取得を決定、もしくは前向きに検討していることが判明した。これに対応するかのように、日本情報処理開発協会(JIPDEC)がBCMS適合性評価制度(第三者認証制度)の実証を2008年8月から開始した。BCMSの第三者認証取得を目指している組織は、今後、国内の最新動向を注視する必要があるだろう。 一方、国際標準化機構(ISO)では、BCMの国際標準化が検討されており、BS25999が同標準の有力候補に挙げられている。この国際標準化は2010年以降に制定される見通しだ。

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benyamin ♂

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