覚書 090321

「ユーロ圏は金融不安の再燃により景気底割れリスクが高まる、英国政府が具体的な銀行の資産保護スキームを発表、BOEは量的緩和政策を導入」三菱東京UFJ銀行『経済マンスリー 西欧』2009年3月16日。
・1月に政府が発表した追加銀行支援策で示された資産保護スキームについて、その具体策が2月26日に発表された。この中では、250億ポンド以上の適格資産を保有する英国の預金取り扱い機関に適用されることや、貸し出しやCDOなどが対象資産になることが示された。また、損失表過なども、より具体的に明示されている。当初損失を除いた損失の90%を政府が負担することが記されている。しかし、当初損失額、手数料については、個々の金融機関ごとに決められるようで、実際に適用第1弾となったロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)と、3月7日に適用されたロイズバンキンググループ(ロイズBG)では異なるものとなっている。対象資産の範囲や質などが異なることから、手数料率などには個別金融機関に差が出ている。資産保護スキームは元々、銀行貸出を回復させることを目的としている。本スキームの対象資産総額は、RBSで総資産の13.5%、ロイズBGで59.6%と、海外業務のウェイトが高いRBSでウェイトが小さくなっているが、これでもって、各行が貸し出し拡大の制約となる証券化商品や不良債権などの損失処理に目処をつけ、貸し出しを増加させる環境が整うかどうかは不明である。しかし、本スキームを適用する際には、法的拘束力を持つ貸し出し業務を追うことになる。そのため、RBSは、住宅ローンと企業向け貸し出しを今後1年間でそれぞれ90億ポンド、160億ポンド増やさなければならない。また、ロイズBGも住宅ローンを30億ポンド、企業向け貸し出しを110億ポンド増加させる義務を負うことになった。また、資産保護スキームの適用金融機関の報酬政策は、金融サービス機構(FSA)が策定した報酬政策に関する指針に従わなければならなくなった。それによれば、報酬は銀行の長期的な成長に資する形で決めなければならないほか、賞与などの決定の際には、リスクを十分に考慮しなければならなくなる。今回の指針が十分に銀行経営に浸透すれば、過度のリスクをとって短期で高収益をあげるビジネスモデルは維持できなくなるであろう。ある程度、長期間の業績で、リスク調整後の収益で評価されるということになれば、銀行経営者は、より長期的な視点で、かつリスクを十分に考慮した経営を行なうことになる。こうした変化は、金融システムをより安定したものにすると考えられる。
・英国経済は、依然、後退を続けている。消費者信頼感指数は2月にやや上昇するも、水準は低く、これをもって消費者マインドが回復に向かうということはなさそうである。インフレ率の低下や追加銀行支援策の発表に伴う資金繰りの改善への期待感などが数字に表れているが、直接、個人消費に影響する購買計画は、まだ、悪化を続けている。小売売上は昨年12月、今年1月とそれぞれ前年比プラス4.3%、同プラス3.6%と比較的高めの伸びを示したが、大幅な値下げを伴ったセールの効果であり、2月以降、持続するかどうか疑問である。また、2月には再び住宅価格が下げ足を強めた。ハリファックス指数は、前年比マイナス17.7%と1月より下落幅が拡大した。住宅価格の下落は続いており、逆資産効果による個人消費への影響が懸念されるところである。また、雇用情勢も悪化している。失業保険申請者ベースの失業率は1月に3.8%まで上昇した。失業保険の申請者数は120万人を超え、1999年7月以来の水準まで増加している。これらを踏まえると、個人消費の回復には、まだ、時間がかかりそうである。
・1月の消費者物価上昇率は前年比3.0%と前月より0.1%ポイント低下した。ガソリン価格などが前年比マイナス6.4%、衣類などが10.0%と全体の上昇率を押し下げた。一方で、昨年夏から大幅に引き上げられた電気・ガス料金は、前年比プラス36.2%と依然上昇率が高いことから、前月からの上昇率の低下幅は小幅なものにとどまった。ただし、こうした公共料金のベース効果は今後、剥落してくることから、消費者物価上昇率は、徐々に低下していくと考えられる。イングランド銀行(BOE)は3月5日の金融政策委員会で、政策金利を0.5%ポイント引き下げ、0.5%とした。また、残存期間5年から25年までの中長期国債を750億ポンドまでBOEが買い取る量的緩和策の導入を発表した。量的緩和政策については、その効果が現われ始めている。最初の国債買取が3月11日の入札で行なわれた。特に、銀行からの応募が好調であっちょうである。BOEが買取の対象とした期間の国債利回りは、対象外の期間の国債利回りよりも、量的緩和政策導入前の水準からの低下幅が大きくなっている。これらを基準とする社債利回りの低下が見込まれ、資金調達環境の改善につながることが期待される。

大政美樹「主要国の金融政策動向」国際金融情報センター、2009年3月4日。
・英国:1.00% 2月5日:0.5%ポイント引き下げ1.0%へ。景気後退の勢いが強く、2008年10月以降5回連続で、計4.0%ポイントの大幅利下げ(10月:0.5pp、11月:1.5pp、12月:1.0pp、1月:0.5pp、2月:0.5pp)を実施。金利水準は1月からBOE創設以来の最低水準。次回会合は3/4-5。

大政美樹「主要国の政治動向」国際金融情報センター、2009年3月4日。
・英国:2010年までに総選挙。

財務省主計局「諸外国の景気対策と財政状況」2009年3月17日。
・英国:2008年11月、VAT(付加価値税)の一時的引下げ、公共投資支出の前倒し等を内容とする景気対策を発表。2010年3月までに総額約200億ポンド(約2.8兆円):対GDP比約1.3%。
・財政収支対GDP比(2009年度見通し):マイナス8.0%。
・財政運営目標:2008年11月、不況期を脱した後、投資支出を除いた収支を毎年改善させるという、一時的な財政運営規定を導入。
・2008年11月24日、英国財務省は、当面の景気対策を盛り込んだプレ・バジェット・レポート2008 “Pre-Budget Report 2008(PBR)”を発表。景気対策の主な内容は、VAT(付加価値税)の一時的引下げ、公共投資支出の前倒し、個人所得税の課税最低限の引上げ、年金受給者への一時金の支給等。2010年3月までに総額約200億ポンド(約2.8兆円、対GDP比約1.3%)規模。
・これまでの財政規律(ゴールデン・ルール及びサステナビリティ・ルール)は一時的に逸脱するとしている。他方で、中期的な財政の持続可能性を維持するため、2015年度までに経常的収支(投資支出を除いた収支)を均衡させ債務残高対GDP比を低下させるよう、経済が回復局面に入る2010年度以降同収支を毎年改善させるという、一時的な財政運営規定を導入。
・PBRでは、景気対策とあわせて、一時的な財政運営規定の達成に向けた財政健全化のための措置も示されている。主な内容は、所得税の最高税率の引上げ(2011年4月)、国民保険料率の引上げ(2011年4月)、行政の効率化(2010年度以降)など。
・ゴールデン・ルール:景気循環を通じて、公的部門の借入れを投資目的に限定し、投資支出以外の経常的歳出は税収等の経常的歳入により賄う。サステナビリティ・ルール:景気循環を通じて、純公債残高の対GDP比を安定的な水準(40%以下)で推移させる。

労働政策研究・研修機構「諸外国の外国人労働者受け入れ制度と実態2008」JILPT資料シリーズNo.46、2008年7月。
・2007年は移民関連の話題に事欠かない年であった。フランスでは、5月にサルコジ氏が新大統領に就任し、新移民法を成立させた。内相時代から不法移民の取り締まり強化をはじめとする移民法改正に積極的だった同氏による法改正により、高度人材を積極的に受け入れるとする一方で、不法移民への取り締まり強化など移民の管理強化姿勢が鮮明になった。一方、イギリスでは、ブレアからブラウンへと政権がバトンタッチされ、基本的には労働党が推進する積極的移民政策が踏襲された。しかし、イギリスにおいても政策の基本となっているのは、有能な人材の積極的な確保と非合法移民の制限強化という明確な方針である。さらにイギリスではポイント制が導入され、移民を5段階のレベルに階層化するという新制度がスタートしている。こうした、自国の発展に有効な人材を優遇し、そうでない移民を制限しようという概念を基調とした、いわゆる「選択的移民政策」が最近の欧州の移民政策の新しい潮流となっている。欧州の移民政策にこうした潮流が生まれた背景には、移民が関与した事件の増加があることは否めない事実だろう。こうした事件は主に過去に受け入れた移民の2世、3世が関与するものである。過去の移民政策によって生じた負の遺産とも言える影の部分が社会問題として顕在化しているのである。移民に対する欧州各国の国民感情はいま微妙な揺れを見せている。ここで焦点となるのが社会統合政策の重要性である。ドイツでは言語教育など社会統合政策を盛り込んだ新移民法を2007年7月制定した。社会統合政策の成否は今後欧州各国の経済発展に欠かせない要素となっている。
・イギリス政府は2005年2月、80種類にも及ぶ複雑化していた受け入れスキームを一つの体系に整理する新入国管理5カ年計画を発表した。この計画で移民は5段階のレベルに分類されることとなった。技能を持つ第1層と第2層の入国者についてはポイント制を導入し、5年間の就労後に定住権の申請を可能とする優遇措置を与える。他方、第3層以下の低熟練労働者はヴィザの期限の切れた時点で出国しなければならないとする帰国担保事項が強調された。この5カ年計画を表した報告書のタイトルは『選択的受け入れ(Selective Admission)』というものである。報告書にこうしたタイトルが付された理由は、この計画が、国の利益になるような高度人材は積極的に受け入れるが、低熟練労働者については最小限に止めるという方針で書かれていることによる。今後のイギリスの移民政策は、自国に都合の良い者だけを選択して受け入れるというこのコンセプトに沿って進められていくものと思われる。他方イギリスでは、国内労働者の雇用確保に配慮する動きも出始めている。2007年9月、ブラウン首相はTUC(英国組合会議)の大会挨拶で、「イギリスの仕事をイギリス人労働者に(“British jobs for British workers”)」という演説を行い喝采を浴びた。イギリスはEUが東欧圏に地図を拡大した第5次拡大時(2004年5月)、アイルランドなどと共に東欧からの移民労働者の受け入れに制限を加えなかった数少ない国の一つ。欧州の中では、移民への労働市場開放に積極的な国というイメージが定着している。自由・平等を重んじ、「移民に寛容な国」という看板を背負うイギリスであるが、果たして積極的移民政策の転換はあるのだろうか。ブラウン政権の今後の動向が注目される。
・移民を受け入れる制度は、その時々の政治、経済・社会状況を反映して刻々と変わる。イギリスの受入れ政策もこれまで、たとえば医療従事者が足りない、理工技術系学生を確保したいなどその時々のニーズに応じて策定されてきたため、受入れスキーム数が80種類にも及ぶなど制度はかなり複雑化していた。優秀な人材を迅速に確保するためには、複雑な制度を改め、手続きの簡素化を図る必要がある。政府はこうした経緯より2005年2月、従来の受入れ政策を1つの体系に整理する「入国管理5カ年計画」を導入した。この新規計画により、移民は5段階のレベルに分類されることとなった。この5カ年計画をまとめた報告書のタイトルは『選択的受け入れ(Selective Admission)』[Home Office、2005]というもの。すなわち今後英国の移民受入れ政策は、国の利益になる人のみを選んで移住させる、低熟練労働者の受入れは制限する、という明確なコンセプトに沿って進められていくものと考えられる。
・居住権を有するかまたはイギリスに定住している英国市民および欧州経済地域(EEA)の加盟国民には、イギリスにおける就労の制限がない。しかし、これ以外の人がイギリスに就労を希望する場合、基本的には就労許可の取得が義務付けられている。就労許可は一定の資格および能力を必要とする職種を対象に発給される。就労許可を取得するには、労働市場テスト(国内労働者では代替できないことを証明)を経ないといけないなど一定の手続きを踏まなくてはならず時間もかかる。このため政府は、一部の優先的に受入れたいとする人材については、就労許可を免除して受入れるという措置を講じている。こうした措置のひとつが、外国人の高度人材を優先的に受入れようとする目的で導入された「高度専門技術移民プログラム(Highly Skilled Migrant Programme:HSMP)」である。HSMPとは大学教授、医師等の資格所有者、法律、金融専門家など高度な技術を有する者が就労の機会を求めてイギリスに移住するのを許可するプログラム。2002年1月に開始された。国内の求人なしで移住できる点が特徴であり、労働市場テストの対象外という点でも労働許可とは異なる。また起業者を対象としたビジネス・ケース・ユニットのように雇用の創出や一定の投資水準などの条件も必要ない。受入れ申請の審査にはポイント制が用いられている。1. 学歴、2. 職歴、3. 過去の収入、4. 就労希望分野での業績などの分野で合計65ポイント以上取得した場合に申請が認められる。同プログラムでイギリスに入国し、1年間経済活動を行った後には在留期間の延長が認められ、さらに連続4年間イギリスに在住した後は永住許可の申請が認められる。2002年の導入以降、取得ポイントの引き下げ(75から65へ)など、細かい制度変更が加えられてきた。28歳未満と28歳以上では異なる条件で審査されているほか、28歳未満であれば5ポイント加算されるなど、HSMPのターゲットとしてはより若い人材が志向されている。
・内務省は2007年10月、他省庁と共同で作成した「移民の経済的、財政的影響」と題する報告書を発表した。移民の近年の増加について、経済成長や財政状況の改善に寄与するとともに、高齢化に伴う労働力不足緩和の一環を担うなどと、積極的な評価を下している。報告書は、人口構成、財政・経済、労働市場、就業構造などの視点から、移民の影響を分析している。2005年半ばから2006年半ばにかけての長期移民(1年以上、イギリス人含む)は、移出が38万5千人、移入が57万4千人で、18万9千人の流入超過となった。今後は年19万人のペースで移民が増加すると推計している。移民の経済成長への寄与は2006年で約60億ポンドと推定される(全体の15から20%に相当)。また、公共政策研究所(IPPR)の2003-2004年についての推計では、移民は政府収入の10%に貢献(税金等)、政府支出の9.1%相当を享受(各種給付、公共サービス)している。長期的には、財政改善や労働力不足の緩和に寄与するとともに、高齢化に伴う国民負担率の増加幅を押し下げる効果が期待される。労働力人口に占める外国人(国外出生者)の比率は、1997年の7.4%から2006年には12.5%に増加した。外国人の就業率(68%)は上昇しており、イギリス人(75%)との差は縮小傾向にある。フルタイム労働者の平均で比較した場合、技術水準はイギリス国籍労働者より高く、より高度な職業に就いている比率が高い。この結果、2006年の週当たり平均収入額の424ポンドは、イギリス人労働者の平均である395ポンドを上回っている。ただし、近年の外国人の賃金水準の低下とイギリス人労働者における上昇により、その差は2001年の76ポンドから2006年には28ポンドへと縮小している。なお、失業への影響は観察されていない。最も低い賃金水準の労働者の賃金に対してわずかな負の影響がみられるが、このグループについても賃金は上昇しており、これには最低賃金制度の効果もあると考えられる 。新規EU加盟国である東欧諸国(A8)を除いた外国人の業種・職種別の分布は、建設業で比率が低く、専門的業務で高いことを除けば、イギリス人と大きな違いは認められない。一方、A8からの移民については、業種別には流通・宿泊・飲食店業(24%)、製造業(21%)、建設業(14%)、職種別には初級の職業(elementary occupations)(38%)や加工・工場労務・機械操作(16%)などで比率が高い。移民の増加は、国内の労働力に不足している技術を補完することにより、イギリス人労働者の生産性を直接的に高めているほか、国内経済に必要なサービスを提供することにより、イギリス人労働者が他のより適した職に就くことを通じて、間接的にも生産性に寄与している。
・政府の楽観論に対して、地方自治体では外国人移民の増加による公共サービスや財政への圧迫を訴える声が強い。11月初め、イングランドとウェールズの500弱の地方自治体が構成する地方自治体協会(Local Government Association:LGA)は、独自の調査をもとに、A8などからの移民の増加が地域に及ぼしている影響について報告書を発表した。移民の受け入れによる利益は認めつつも、その急激な増加が、教育・住宅供給・医療など地域の公共サービスの維持を難しくしている、というのがその内容だ。また、犯罪の被害にさらされやすい移民や貧困家庭の児童の保護の必要性も併せて指摘している。LGAはこれらの問題への対策費として、新たに年2億5千万ポンドの予算投入を政府に要請、また調査等によるデータの整備や実態把握や、地域の実状に沿った予算配分などを求めている。地域での外国人統合政策の必要性については政府も認めており、10月には、今後3年間で5千万ポンドを投入する新たな政策パッケージの導入を決定している(2007年の予算額は200万ポンド)。これまで柱としてきた外国人に対する翻訳サービスや、特定のマイノリティ・宗教グループ等を代表する団体への援助といった支出内容を見直し、英語教育などで外国人の社会統合を支援する団体への財政援助に転換していく。また併せて、移民増加による摩擦に対応する専門家チームを地域ごとに設置するとしている。ただし一方で、外国人向け英語コース(English for Speakers of Other Languages:ESOL)の無料提供を原則廃止し、受講者(もしくは雇用主)に費用の一部を負担させた、より簡易な「仕事向け」英語コース(ESOL for Work)を新設するなどの効率化も進めている。これには、受講期間の短期化による大量の受講待ちの解消とともに、現在仕事があって、長期滞在を認められている移民に対して、優先的に受講資格を与え、実用的な英語の習得による生活の向上を支援する意図がある。LGA報告書は、同化政策における英語教育の重要性を強く主張、こうした効率化の方針にも再検討を促している。
・移民関連統計・推計の実態との乖離も指摘されている。政府は移民の受け入れを積極的に評価する報告書「移民の経済的、財政的影響」を発表したが、この発表と前後して、外国人労働者の増加数が過少に推計されていたことが判明した。政府は既に2度の訂正をしているが、これをめぐって担当大臣が国会で謝罪するなどの事態に発展した。過去10年の外国人労働者数の増加に関して当初80万人としていたが、これを110万人に訂正、さらに150万人に再訂正した。同時期に創出された雇用の8割を東欧からの労働者などが占める計算である。

日本銀行金融市場局「サブプライム問題に端を発した短期金融市場の動揺と中央銀行の対応」BOJ『Reports & Research Papers』2008年7月。
・中央銀行の金融市場調節(以下「金融調節」)手段は、各国の調節目標、金融市場の状況、歴史的な経緯などによって詳細が異なるが、大括りに整理すると、準備預金の積立制度、オペレーション(公開市場操作。以下「オペ」)、スタンディング・ファシリティ(「常設ファシリティ」とも呼ばれる)、の3つから構成されている。まず、準備預金の積立制度のもと、金融機関は、一定の期間に一定の残高を中央銀行に準備預金として積み立てる必要がある。金融機関の決済資金需要は日々変動するが、この仕組みによって、比較的安定した準備需要が創出される。そのうえで、中央銀行は、オペを通じて準備需要に対するマクロ的な資金過不足(財政および銀行券要因による中央銀行当座預金の変動)の調整を行い、政策金利と整合的な水準に市場金利(一般には翌日物金利)を誘導する。スタンディング・ファシリティは、金融機関からの申込みに応じて、予め定めた金利で短期の資金貸出や預金受入を受動的に行うものである。これにより、金利変動の大きい時にはその上限や下限を画し、また、そうしたファシリティが普段から利用可能であることを市場参加者に認識させることを通じて、オペによる金利誘導を補う役割を担っている。オペの基本的な枠組みや運営も、各国中央銀行に概ね共通している。しかし、銀行券需要の動向や財政資金を管理する仕組みの違いなどを反映して、前提となるマクロ的な資金過不足の大きさ・変動幅や予測可能性が国により異なることなどから、オペ運営は国・地域によって区々である。例えば、資金過不足の変動が平均的に大きいわが国の場合、日本銀行は、多様なオペ手段を有しており、各オペを様々なタイミング、期間で頻繁に実施しているが、資金過不足の変動があまり大きくない米欧では、中央銀行は規則的なオペ運営を基本としてきた。
・BOEは、2007年8月9日以降の初期段階においては、オペにより金利上昇圧力を押さえ込むのではなく、スタンディング・ファシリティの金利調整機能を活用していく姿勢をとった。しかし、翌日物金利の上昇圧力が強い状況が続いたことを受けて、9月以降、オペによる資金供給の拡大を順次図っていった。まず、「翌日物金利が高止まる場合には、申告準備額を最大25%上回る資金を供給する」旨を公表した。これに連動して、9月中旬には金融機関に求めている準備預金残高の維持要件を緩和した。申告準備額と準備預金残高との許容乖離幅(政策金利で実質的に付利される準備預金残高の範囲)を拡大し、これに見合う資金を供給することで、金融機関による準備預金残高の管理を容易にし、金利上昇圧力の緩和を図るものである。 9月14日には、在英の金融機関ノーザンロックが資金繰りに行き詰まったことを契機に、短期金融市場の逼迫感は一段と強まった。これを受け、BOEはノーザンロック向けの緊急信用供与ファシリティを設置したほか、同18日には、臨時の2日物資金供給オペを実施した。さらに9月19日には、オペ対象先を含む準備預金制度の対象先に対して、通常の適格担保に加えてMBSなどを担保とする、臨時の3か月物の入札型ターム物貸出を4回実施する旨を公表した。この貸出は、最低応札金利を市場金利より高い貸出ファシリティ金利(政策金利プラス1%)に設定したこともあって、4回とも応札は無かったが、広めの担保を受け入れ、最終的な資金繰りの調整弁を提供したことによって、市場に一定の安心感をもたらす効果があったと考えられる。 年末にかけては、資金調達不安が一段と強まったことを受けて、年末越えとなる5週間物資金供給オペを12月6日に実施した。また、5か国中央銀行による協調行動(12月12日)の一環として、定例の3か月物資金供給オペの担保範囲拡大、増額を実施した(25億ポンド100億ポンド)。2008年3-4月にかけては、短期金融市場の逼迫が改めて強まったことから、さらなる資金供給策の拡充を図った。まず、3月17日に臨時の3日物資金供給オペを実施、3月20日からの定例の1週間物資金供給オペをその分増額する形で、積み最終日(4月9日)までロールオーバーした。4月8日には、12月に増額した3か月物資金供給オペを150億ポンドまで増額した。さらに4月21日には、米国のTSLFと同様の債券貸出制度である特別流動性スキームSLS(Special Liquidity Scheme)の導入を公表した。これは、金融機関のバランスシート上の重荷となっているMBS等と英国国債を交換して、「銀行システムの流動性ポジションを改善し、金融市場の信頼を回復させる」ことを企図したものである。この措置は、貸出期間が1年(3年まで延長可)と長いこと、金額に上限がないこと、貸出英国国債は政府から新たに発行を受けるものであることなど、従来にない特徴を備えている。
・貸出ファシリティの利用先が60先程度と少ない英国でも、同ファシリティを利用した金融機関が特定されやすいとの懸念は強く、利用への抵抗感も強かったとみられる。BOEも、昨夏に短期金融市場の混乱が始まった局面で、「貸出ファシリティは、適格担保とペナルティレートを見合いにして、対象金融機関全てがいつでも利用することができる。同ファシリティは、他の機能と同様に、金融システムがストレス下の市場環境に対応できるよう設計されたものである」(8月13日)との声明を発表するなどして貸出ファシリティの利用を促したが、貸出金利と政策金利との乖離幅を100bpsのまま据え置いていることもあり、利用されない状況が続いている。なお、4月に新たに導入された債券貸出制度SLSも、金融機関の申込みに応じて実行されるものであるが、BOEは、全体の利用額や先数などの集計値も含め、徹底した情報管理を行う方針を示している。

公正取引委員会「書籍・雑誌の流通・取引慣行の現状」著作物再販協議会(第8回会合)配布資料、2008年6月19日。
・書籍・雑誌の販売金額(小売価格ベース)は2兆853億円である。このうち、書籍の販売金額は9026億円、雑誌の販売金額は1兆1827億円である(2007年)。書籍・雑誌の取次経由の販売金額(小売価格ベース)は1996年をピークに減少傾向にあり、2007年までの間に約6000億円減少している。書籍の販売金額はピークの1996年から2007年までの間に約2000億円、雑誌の販売金額はピークの1997年から2007年までの間に約4000億円減少している。
・書籍の新刊点数は7万7417点である。書籍の出回り部数(取次出荷部数のこと。新刊・重版・注文品の流通総量で、返品の活用による再出荷分を含む。)は13億1805万部、販売部数は7億5542万部である(2007年)。書籍の新刊点数は増加傾向にある。書籍の出回り部数は1997年をピークに減少傾向にある。書籍の販売部数は1988年をピークに減少傾向にあったが、2004年からは増加に転じている。
・雑誌の発行銘柄数(当年中に発行回数に関係なく1号でも刊行のあった銘柄数)は3,644銘柄である。雑誌の発行部数は39億3960万部、雑誌の販売部数は26億1269万部である(2007年)。雑誌の発行銘柄数は増加傾向にある。雑誌の発行部数は1997年をピークに減少傾向にある。雑誌の販売部数は1995年をピークに減少傾向にある。
・書籍の金額基準による返品率は39.4%、部数基準による返品率は42.6%である(2007年)。1997年頃以降、金額基準による返品率、部数基準による返品率ともに40%前後で推移している。雑誌の金額基準による返品率は35.2%、部数基準による返品率は33.7%であり、ともに上昇傾向にある(2007年)。
・媒体別広告費をみると、雑誌の広告費は最近減少している。他方、インターネット、フリーペーパー等の広告費が伸長しており、2007年にインターネット広告費(4,591億円)が雑誌の広告費(4,585億円)を上回った。
・出版社数は4,055社(2007年)である。ピークの1997年に比べると557社減少している。出版社数4,055社のうち3,126社(約77%)が東京都に所在している。次いで大阪府174社(約4%)、京都府135社(約3%)、神奈川県87社(約2%)などに所在している。出版社数4,055社のうち年間10点以上出版している出版社数は1,091社である。
・日本出版取次協会に加盟している取次は30社(2008年4月)、東京出版物卸業組合に加盟している取次は23社(2008年4月)である。書籍・雑誌取次業の上位3社累積出荷集中度(個別事業者の国内出荷における集中の状況を示す指標)は84.0%である(2006年度)。書籍・雑誌取次業の上位3社累積出荷集中度は上昇傾向にある。
・書店の店舗数は1万6342店である。書店の開店数は392店、書店の閉店数は1,228店であり、店舗数は減少傾向にあるが、書店の総売場面積は増加傾向にある(2008年)。「平成19年度版書店経営の実態」(トーハン)による書店の粗利益の総平均は約22%であり、営業利益は約マイナス0.3%である。また、「2007書店経営指標」(日販)による書店の粗利益の全国平均は約24%であり営業利益は約0.8%である。いずれの指標ともに、書店のうち書籍・雑誌を専門に扱う専業店より書籍・雑誌以外の商品も扱う複合店の粗利の方が高い。
・委託配本取引においては、書店等の希望とは必ずしも関係なく、取次が書店等の入金率や売上実績等に基づいて書店等に配本するため、書店等が希望する商品や部数の確保が保証されているわけではない。書店における新刊書籍の入荷状況について、「ほとんど入らないことが多い」とする店舗が半数強に上る。書店等は、返品が自由である一方で、返品リスクがある出版社に比べて相対的にマージンが低いため、人材育成が行われていない、値引きやポイントカードなどの読者サービスの原資が不足しがちである、という声がある。是正のための取組として特定の書籍について、書店等からの返品率を15%以内にすること及び取次からの満数配本を基本契約とし、書店等の効率販売に対する報奨金を書店等に提供する取組がある。また、書店間の協業化により、出版社からの共同仕入を行うことで希望に沿った新刊本入荷を実現するとともに、販売実績に応じたマージンを得る取組がある。

日本貿易振興機構(ジェトロ)輸出促進・農水産部「英国の食品市場への参入情報」平成19年度食品産業国際化可能性調査、2008年8月。
・「スーパーマーケット」という用語は、一般的に大型小売店という意味で使うことも多いが、英国では、営業時間や建築規制上、厳密には売り場面積に応じて下記のように定義されている。「コンビニエンスストア」:280平方メートル(3,000スクエアフィート)以下。「スーパーマーケット」:280-2,250平方メートル(3,000-25,000スクエアフィート)。「スーパーストア」:2,250-3,600平方メートル(25,000-40,000スクエアフィート)。「ハイパーマーケット」:3,600平方メートル(40,000スクエアフィート)以上。なお、売り場面積が280平方メートルを超える店舗は、日曜日について午前10時から午後5時までの間の中で、6時間しか営業を行うことができないこととなっている。
・英国においては、テスコ、アズダなどの大手スーパーの上位4社で、食品小売りの8割弱を占め、大手スーパーと、農業生産者や食品メーカーなどの供給業者との間の公正な取引の確保などが、近年、課題となり続けている。政府は、一般的に1社のマーケットシェアが25%を超えた場合は規制の制限下に置かれるとしており、2003年に業界1位のテスコと業界中堅のモリソンズが、業界4位セーフウェイの買収に名乗りをあげた際には、政府はテスコに対してセーフウェイ買収の差し止めの命令を出し、その結果、セーフウェイはモリソンズに買収された。しかし、テスコは、それ以降、このような大型買収ではなく、市街地の小型小売店を買収していくという手法でシェアの拡大を続けており、政府もそれに対する規制は行なっていない。さらに、大手スーパーの寡占化に伴い、農産物生産者や食品製造業者は価格交渉などの面で弱い立場に置かれており、大手スーパーのバイヤーに嫌われたら市場の大半を失うというのが現状である。また、大手スーパーは自社ブランド製品の拡大を進めており、このことも大手スーパーのバイイングパワーの拡大につながっていると考えられる。

猿渡英明「高まる中東欧リスク、欧州における財政・金融政策の現状 欧州経済概観09/3」新光総合研究所『SRI 欧州経済ウォッチ<ユーロ圏・英国>』No.09-08、2009年3月13日。
・英国は2008年10-12月期の実質GDP が前期比マイナス1.5%になり、ユーロ圏同様に急速に景気が悪化していることが確認された。部門別でみれば非製造業部門、特に金融業の落ち込みが激しく、金融業に支えられてきた英国経済の特性が裏目に出た形となっている。住宅市場の崩壊を背景とした金融部門の調整は、信用収縮を経て個人消費へと波及している。資産価格の上昇を担保にした過剰消費といった消費構造は、米国とほぼ同じであり、金融部門と実体経済が連鎖的に悪化する状態に陥っている。英国景気が回復するためには、金融部門の調整が一巡することが必要不可欠である。しかし、不良資産を処分するため所得の源泉が国内中心であるが故に、金融部門の正常化、景気回復は遅れる可能性があろう。当面の間、英国景気は低迷を強いられることとなろう。
・BOE(イングランド銀行)は、ECB以上に積極的な利下げを実施し、政策金利はすでに0.50%まで引き下げられている。さらに資産買取による流動性供給、いわゆる「量的緩和」を開始。今後は、買取資産の規模・対象を拡大させることにより、緩和政策を推し進めていくこととなる。但し、利下げは0.50%で打ち止めとなる公算。
・BOEが発表したAPF(資産買取ファシリティー)は、国債を中心に市場から資産を買い取ることで、流動性を供給(中銀当座預金へのブッキング)する。手順はほぼ日銀の量的緩和と同じであるが、BOEの場合は当座預金に量的なターゲット(目標)を設定するのではなく、買取資産の規模をその都度、公表する予定。今後は、買取資産の規模・対象を広げつつ、量的緩和を推し進める見通し。
・英国では金融対策として、市場への流動性供給や金融機関への資本注入を実施してきたが、金融機関の損失に歯止めがかからず信用収縮が顕在化している(言わば、穴の開いた容器に水を注いでいる状態)。このため、対策の軸は今年に入って、損失に歯止めをかける「損失補償スキーム」に移りつつある。一方、不良資産の整理・回収を行なうバッドバンクに関しては、1. 買取資産(証券化商品)の査定が難しいこと、2. 巨額の買取コストがかかる―などから、見送りとなっている。APS(損失補償スキーム)は、既に保有している不良資産から発生する損失の大半を公的に補償するプログラムであり、損失拡大に一定の歯止めをかける効果がある。しかし、このスキームに参加する代償として、金融機関は一定の参加料を支払う必要があるが、申請に追い込まれた金融機関が参加料を現金で支払う余裕はない。このため、現実的には政府が増資を引き受ける形で実施されている。すなわち、このスキームへの参加は実質国有化を意味する(安易には参加できない)。

岡久慶「イギリス 警察活動及び犯罪法案」国立国会図書館調査及び立法考査局『外国の立法』2009年2月。
・2008年12月18日、政府は下院に警察活動及び犯罪法案を提出した。法案は、警察の機構改革、性犯罪及びアルコール濫用への罰則強化、犯罪収益の没収等、多岐にわたる規定を定めているが、買春の刑事犯罪化規定が最も大きな争点になるものと目されている。
・警察活動及び犯罪法案(Policing and Crime Bill)は、「近所から全国まで:共に行う共同体の警察活動(From the Neighbourhood to the National: Policing our Communities Together)」を始めとする幾つかの協議書を基に策定し、提出された法案である。元々労働党政権は体感治安の悪化に対し非常に敏感で、これまでに数多くの刑事司法関係法を定めてきたが、この法案もその一環とみなすことができる。
・イギリスでは売春自体は犯罪ではないが、第三者による利得確保、売春宿の運営、売春目的での街頭での客引き、並びに買春目的で執拗に勧誘し、又は買春目的で車両を歩道沿いにゆっくり走らせること(kerb-crawling)等が禁止されてきた。本法案は売春に関わる条件の禁止をさらに強化し、次の規定を設ける。第3者の利益のために管理され売春を行う者の性的サービスを購入するために、金を支払うことを犯罪とし、最高で1,000ポンドの罰金を科す。この場合、購入した者が、売春を行う者が管理されていたことを知らなかったことは、抗弁事由とならない。これは特に人身取引の被害者の性的搾取を防ぐことを目的としている。買春を行う者が勧誘を行うことを犯罪とし、最高で1,000ポンドの罰金を科す。これは、執拗さ、又は車両の使用といった要件を除くことで、立件を容易にする。 警視以上の階級を持つ警官に、売春又はポルノグラフィーに関係した犯罪に使われている施設を最長6月に渡って閉鎖する権限を与える。これは売春宿の運営禁止をさらに推し進めたものといえる。 また法案は、売春以外に関しても次のような規定を盛り込んでいる。 性的な刺激を目的とした実演を提供する施設を、アダルトショップやポルノ映画館等と同列の性的施設と位置づけ、地方自治体による認可、管理を強化する。これはラップダンスを提供するクラブを標的にしており、過去4年間の間に全国で300か所にまで倍増した勢いに歯止めをかけたいとする意向がある。 性犯罪者に課される海外渡航禁止命令を改正する。従来は、16歳未満の児童に対して危険のある性犯罪者に6月まで適用されるものであったが、18歳未満の児童に対して危険のある性犯罪者に5年まで適用され、さらに当該期間の間、旅券を警察に提出することが求められる。

岡久慶「イギリス 福祉改革法案」国立国会図書館調査及び立法考査局『外国の立法』2009年2月。
・2009年1月14日、政府は下院に福祉改革法案を提出した。法案は、2007年に制定された同名の法律と同様に、失業者の労働市場復帰を目的としたもので、就労のために厳しい圧力をかける仕組みが盛り込まれている。しかし与党内外からは、厳しい経済状況に鑑みて、同措置の妥当性を問う声も出ている。
・イギリス政府は、かねてから慢性的な求職者手当(失業者手当のこと)受給者を労働市場に復帰させることを重要な政策課題と位置付けており、公開協議書「誰も失敗として片付けない(No one written off)」及びそれを踏まえた白書「期待を高く、支援を厚く(Raising expectations and increasing support)」によって、求職者手当受給者に就労のための準備をさせ、必要な圧力と制裁を加える福祉改革案を提案した。現在、景気後退の波を受け、2008年12月における失業者が180万を超え、求職者手当受給者が8年ぶりに100万の大台を突破している。このため失業者に過剰な圧力をかけることを危惧する声も出されたが、イギリス産業連盟等に後押しされる形で福祉改革法案(Welfare Reform Bill)として下院に提出されることとなった。政府はこの法案によって被雇用率80%を達成することができると論じている。なお、法案には失業者を対象とした規定と並んで、児童養育に関連して結婚していない父親、別居中の父親の責任をより強化する規定が盛り込まれている。
・従来の所得補助金受給者は、収入に相関した求職者手当又は雇用・生活補助を給付され、満額受給のためには、主務大臣が規則で定めた就労に向けた活動(work-related activity)に従事しなければならない。当該活動は技能向上及び就労に向けた生活習慣の調整等を含み、活動時間や活動量も規則に従う。これに従わなかったと見なされた場合、給付額が削減されることとなる。

伊藤さゆり「欧州経済見通し 懸命の政策対応も落ち込みは続く」ニッセイ基礎研究所『Weeklyエコノミスト・レター』2009年3月13日。
・リーマン・ショック後、イギリスが欧州主要国で最も早く積極的な対策に打って出たが、金融と経済のスパイラル的悪化に歯止めをかける追加的な動きでも先行している。1月に公表した第2弾の金融安定化策は、公的資本注入と銀行の債務に対する政府の保証を柱とする第1弾に対して、1. 一定の手数料の見返りに特定の資産から生じる超過損失を財務省が負担する資産保護スキーム(Asset Protection Scheme:APS)、2. 資産担保証券(ABS)に対する保証、3. BOEの資産買い取りファシリティー(Asset Purchase Facility:APF、当初500億ポンド、社債、CP、シンジケート・ローン、一部のABSなど優良資産が対象)の創設を柱とし、金融機関の損失拡大と信用収縮への対応という面が色濃い。うち、APSの申請期限は3月末とされているが、2月26日にはRBSが3250億ポンド、3月7日にはロイズが2600億ポンドの不良資産への適用について財務省と合意し動き始めた。合意の内容は、1. 自行で負担する損失(first loss)は、RBSは195億ポンド、ロイズは250億ポンドまでで、これを超える損失は自行の負担が10%、残り90%は政府が負担する、2. APSへの参加料(participation fee)は、RBSは65億ポンド、ロイズは156億ポンド、3. APSの見返りとして、2009年内にRBSは250億ポンド、140億ポンドの融資の拡大を行なう、4. RBSには130億ポンドの追加の資本注入を行い、ロイズには昨年秋の公的資本注入時の優先株を普通株に転換することで、政府の保有比率をそれぞれ80%超、65%に引上げる、などである。APFも動きだしている。2月にイングランド銀行(BOE)がCPの買い取りを開始したのに続いて、BOEは、3月の金融政策委員会(MPC)で、政策金利を0.5%に引き下げると同時に、金融政策目的でこの枠組みを活用する、すなわちBOEの資金を原資として国債等の買い取りを行う量的緩和に踏み切ることを決めた。買い取りの規模は、最大1500億ポンドまで拡大する可能性があるが、当面は向こう3カ月で主に中長期国債を750億ポンド(2008年GDP比5.2%)分を買い取るとしている。

菊地端夫「イギリス行政改革における市民の信頼回復への取り組み ブレア政権の「政府の現代化」を中心に」『会計検査研究』No.39、2009年3月。
・ブレア政権では、1998年と2001年にそれぞれ地方政府白書を公表し、ベスト・バリューや自治体版公共サービス合意(Local Public Service Agreements)などの20以上の具体的な改革プログラムが、自治体現代化アジェンダ(Local Government Modernisation Agenda)として取り組まれている。この取り組みは、改革の直接的な内容のみならず改革の中長期的な成果(アウトカム)を把握しようとしている点に特徴がある。現代化の取り組みによりサービスの向上(service improvement)、アカウンタビリティの向上(accountability)、コミュニティー内のリーダーシップの向上(community leadership)、市民など利害関係者の参加(stakeholder engagement)、そしてこれらの取り組みによる市民の自治体への信頼の向上(public confidence)を長期的に把握しようという試みである。この取り組みの成果指標の一つが市民の自治体への信頼(Public Confidence in Local Government)であり、改革の成果を検証するための調査が、副首相府内のコミュニケーション・地方政府部とカーディフ大学によって実施されている(Office of the Deputy Prime Minister(2005))。自治体現代化アジェンダのうち、市民の信頼回復のために行われた施策として検証されているのが、自治体の議員と職員の行動規範を定めた、新倫理基準(New Ethical Framework)の策定である。これは、各自治体で議員と職員の行動規範を定め、市民からの苦情や申し立てを審査する第三者機関を設置することにより、汚職や不祥事を防止する取り組みである。先の信頼の構成要素に則すと、公務従事者の誠実性(honesty)に対する評価や、市民の有効性感覚(efficacy)を高め、政府や行政の行動に対する信頼を高めようという施策である。2005年時点での評価によれば、この取り組みによって市民の自治体に対する信頼が向上したかどうかを判断するのは困難であるという。その理由として、この取り組み自体が市民にほとんど知られていないこと、また行動規範の策定が実際に自治体職員や議員の活動に影響与えたかどうかが不明瞭であるからとする。しかし少なくとも、長期的にはこの施策の存在が市民の間に広まり、職員や議員が自らの活動が規範に則しているかを意識するようになることによって、自治体職員や議員に対する市民の信頼が向上する可能性を含んでいる施策である。また、これらの取り組みによって、市民ではなく、自治体の職員が市民の信頼を重要視するようになったことが明らかになっている。市民の信頼への着目と信頼回復策への取り組みは、少なくとも自治体職員の意識が変化したという効果をもたらしている。

東信男「イギリス中央政府における国際会計基準(IAS/IFRS)の導入 公会計の目的に対応させながら」『会計検査研究』No.39、2009年3月。
・中央政府の財務諸表は、2009-10年度より国際会計士連盟(International Federation of Accountants)のIASB(International Accounting Standards Board:国際会計基準審議会)が設定する国際会計基準(IAS/IFRS)に準拠して作成することとなった。この背景として、イギリスの上場及び非上場の企業は、2004年の会社法改正によりIAS/IFRSに準拠して財務諸表を作成できるようになったことが挙げられる。ASB(Accounting Standards Board:会計基準委員会)は適用時期を決定してはいないもののIAS/IFRSをUK GAAP(Generally Accepted Accounting Practice:イギリス一般認定会計基準)として導入する方針を示しているため、今後、ASBのFRS(Financial Reporting Standards:財務報告基準)、SSAP(Statements of Standard Accounting Practice:会計実務基準書)等に代わり、IAS/IFRSがUK GAAPとなる。IASBはその前身である国際会計基準委員会(IASC)が設定した会計基準をそのまま採用しているため、現在のIAS/IFRSは、1. IASCが設定した国際会計基準(International Accounting Standards:IAS)、2. IASB が設定した国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)、3. 解釈指針委員会(Standing Interpretations Committee:SIC)が作成した解釈指針(Interpretations)、4. 国際財務報告解釈指針委員会(International Financial Reporting Interpretations Committee:IFRIC)が作成した解釈指針(Interpretations)で構成されている。イギリスでは中央政府へのIAS/IFRSの導入は、2000年に行われたRABの導入以来の大改革と捉えられており、財務省は既にIAS/IFRSをベースにしたFreM(Government Financial Reporting Manual:政府財務報告マニュアル)の作成を終了している。FReMには、項目別に、IAS/IFRSがそのまま適用される場合には当該会計基準の番号とタイトルが示され(直接適用)、公共部門の特性に応じてIAS/IFRSがそのまま適用されない場合には会計処理を修正したり(修正適用)、新たな会計処理を追加したりしている(追加適用)。

自己紹介

benyamin ♂

2012年5月

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