『青雲の大和』

 今日は八木荘司『青雲の大和』(2008年、角川書店)を読みました。

 飛鳥時代の中臣鎌足を中心にした小説です。上下巻になっており、上巻がいわゆる大化の改新前後、下巻が唐の朝鮮半島への進出、といった年代区分になります。

 上巻では、中臣鎌足が中大兄皇子とともに蘇我入鹿を殺害し、父の蘇我蝦夷を自殺に追い込んだ事変を皮切りに、鎌足が政界の重鎮としてのし上がっていく過程を描いています。下巻では、唐が新羅と近づいて百済を滅ぼそうとする動きが強まり、日本が自国防衛のために百済の見方として唐と新羅の説得に乗り出す様子が描かれています。こちらは鎌足よりも、その命を受けた高向玄理が主人公となっています。

 歴史小説として面白いのは上巻でしょうか。大化の改新の端緒として知られる事変については諸説がありますが、本書では中臣鎌足が首謀者のように描かれています。天皇家を差し置いて帝になろうとする蘇我入鹿に対して、そうした革命を起こせば唐と同様に権力争いが耐えない国になってしまうと反対した鎌足が、中大兄皇子を立てて事変を画策した、との筋書きです。小説の主人公だけあって鎌足が非常に国思いの良い人になっています。

 とはいえ、一方の蘇我入鹿も権力を欲するだけの凡人では決してなく、当時の日本外交が百済に偏重していたことを危惧した結果の行動であったことが示されています。唐が大陸で勢力を増すなか、百済だけを頼りにするより、周辺国との協調により、自国の脅威を退けようと入鹿は考えていました。それを実現するとともに、日本の国作りを加速させて、唐と対抗できないまでも対等な関係を築きたいと、帝になろうとしたのです。国際情勢に対する彼なりの現実的な判断があったというわけです。

 蘇我入鹿は百済偏重外交を貫こうとする鎌足と対立して殺害されます。しかしながら、本書の下巻では、百済が弱体化するなかで、鎌足の路線が朝鮮半島の現実の前に崩壊していく過程が描かれています。物語は白村江の戦いの前で終わってしまいますが、外交戦略としては中臣鎌足よりも蘇我入鹿のほうが時代に即していた、と言いたげな印象を受けました。こうした蘇我入鹿の評価はなかなか斬新ではないでしょうか。もしかすると最近の歴史研究で入鹿に関する考察が進んでいるのかもしれません。

 本書で扱う飛鳥時代は、日本史の教科書では数ページでしか紹介されない部分ですが、日本の黎明期とも言える時代です。そうした大切な時代を知るきっかけとして、本書のような小説を読んでみてはいかがでしょうか。

 なお、飛鳥時代を題材にしたもので言えば、私の愛読書でもある里中満智子の『天上の虹』もオススメです。こちらは持統天皇を主人公にした漫画です。天皇家中心で、やや貴族への言及が薄いですが、きっと飛鳥時代への関心を引き出してくれるでしょう。

 ちなみに、『天上の虹』では、中大兄皇子は冷静冷徹に改革を進める政治家として描かれています。今回の記事で取り上げた『青雲の大和』では、おおらかな指導者として好意的に扱われています。私は『天上の虹』の中大兄皇子のほうが、大化の改新を推進した人物像としては適当だと思ってしまいます。『青雲の大和』での描き方は、どちらかと言えば大海人皇子の印象があります。この点も最近の研究成果を反映して、より史実に近い人物像に再構成されているのかもしれません。

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benyamin ♂

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