『知の欺瞞』

 今日はアラン・ソーカル/ジャン・ブリクモン『知の欺瞞』(2012年、岩波現代文庫)を読みました。

 本書では、いわゆる現代思想の担い手たちが小難しい概念を知ったかぶりで振り回している姿が暴露されます。具体的には、数学者である著者の2人が、いろいろな現代思想家たちが論文で数学の概念を理解せずに用いていることが明らかにされています。

 たとえば、精神分析学者であるジャック・ラカンは精神分析に関する論文で以下のように書いています。

 この享楽の空間では、何らかの有界なもの、閉じたものを取り上げること、それは一つの場所=軌跡であり、その場所=軌跡について語ること、それは一つのトポロジーなのだ。

 うっかりすると、な、なるほど!と受け取ってしまいそうになります。しかし、トポロジー(位相幾何学)という数学の概念を用いていますが、それと精神分析との関係性は示されることなく論文は終わってしまいます。トポロジーという概念を論文に登場させただけです。おそらくは権威付けのためだけに。

 本書では、ラカン以外にも、記号学者のジュリア・クリステヴァ、精神分析家のリュス・イリガライ、社会学者のジャン・ボードリヤール、思想家のジル・ドゥルーズ、精神分析家のフェリックス・ガダリ、建築家のポール・ヴィリリオ、といった有名どころが取り上げられています。いずれも数学の概念を自らの論に持ち込みながら、何も説明していない、として一刀両断されています。

 それぞれ著名な論者たちであることもあり、彼らの支持者からは相当に反論されているようです。もっとも、そうした反論では、彼らが数学の概念を正確に理解していることが示されいるわけではないようです。数学の概念を理解していないこともあるかもしれないが、たとえそうだとしても主張の本質は間違っていない、という内容が基本のようです。

 私もそうした反論には賛成します。が、その一方で、やはり彼らが理解していない数学の概念を偉そうに論じていることは事実として受け止めるべきだと思います。彼らの著書を読んでもわからないことがありますが、それは私の理解力の問題だと感じていましたが、そうではなく彼ら自身もわかっていないことを書いているかもしれません。

 自分の主張が緻密な論理性を有していると見せるために、厳密な論理性を有する数学から概念を借用したのでしょう。しかし、それでも、論理性がない主張が論理的になるわけではありません。まずは自分の主張に論理性を持たせる作業が必要です。他山の石として私自身も気をつけたいと思います。

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benyamin ♂

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