『「反原発」の不都合な真実』

 藤沢数希『「反原発」の不都合な真実』(2012年、新潮新書)を読みました。

 もはや新興宗教の1つとなった反原発運動ですが、本書はその信仰対象となっている原子力発電についてリスクの観点から検討しています。

 原子力発電のリスクは、1TWhあたりの死亡者数で比較されます。研究者によって数値が異なるようですが、おおよその共通点として、原子力発電が0.03人であるのに対して、石炭や石油などの化石燃料発電が21人、水力発電が1.4人、太陽光発電が0.44人、風力発電が0.15人となっています。化石燃料では発掘時や精製時、発電時における死亡者数が顕著です。水力発電などの自然エネルギーでは建設時や設置時に死亡する事例が多くなっています。

 反原発運動に基づき、原子力発電から他の発電へと転換する場合、たとえば化石燃料発電なら死亡者数が700倍、水力発電は46.7倍、太陽光発電は14.7倍、風力発電は5倍となることを考慮に入れる必要があります。現在は原子力発電所が稼働停止している分を火力発電で補っていますが、より多くの死亡者を生む発電手段へと転換していることになります。安全を求める反原発運動が逆に安全を損なう結果につながってしまうとは皮肉なことです。

 火力発電の比重が高まっている日本では、リスクとともに費用も大きな問題となっています。日本は化石燃料を年間20兆円輸入していますが、その4割が発電に使われています。発電全体に占める火力発電の割合は6割ですので、おおよそ4.8兆円が火力発電に投入されています。原子力発電の割合は震災前では3割でしたので、これをすべて火力発電でまかなうとすると、2.4兆円の追加費用が発生します。震災による被害者に対する賠償額は今のところ累計で5兆円程度ですので、その半分に匹敵する金額となります。

 反原発運動が期待する太陽光発電や風力発電は発電全体の1%にも満たない状態です。これを原子力発電が担っていた3割に置き換えていくことは簡単ではありません。たとえば、太陽光発電は現状では非常に非効率的な発電方式です。川崎市にある浮島太陽光発電所は敷地面積が11ヘクタールと巨大な施設であり、出力は7000kW、年間で740万kWhの電気を供給する能力があります。一方、原子力発電所の出力は60〜130万Kwです。つまり、原子力発電なら1日もかからずに発電できる電気を、広大な土地を使い、かつ、1年という長い時間をかけて発電することになります。

 本書で検討されるこうした内容は日本のエネルギー政策を議論する上で必須であると思います。本書の意図とは少し外れるかもしれませんが、原子力発電よりも火力発電のリスクが印象に残りました。発電方法の転換、あるいは、再編成を模索するのであれば、まずは火力発電への偏重を低下させることが必要となるように思います。

 感情論が強すぎる現在の論壇状況のなかで、事実と統計に基づく議論を転換する本書の意義は大きいと言えます。もっとも、反原発運動に邁進する人々が本書のような主張に耳を傾けることはないでしょうが。メロリンQさんとか読んでくれなさそうですね。

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benyamin ♂

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